ペットが死亡した場合の慰謝料請求はできる?
交通事故などで最愛のペットを失う経験は、飼い主にとって言葉では言い表せないほどの悲しみを伴います。もしもその事故が他人の過失によるものなら、その相手に慰謝料を請求することは可能なのでしょうか。
本コラムでは、ペットの死亡事故で慰謝料請求ができるか否かを解説します。
1. ペットは法律上「物」扱いになる
交通事故などでペットに危害が及んだ際、慰謝料を請求できるか否かは、法律上のペットの扱いが深く関係しています。飼い主にとってペットは家族同然の大切な存在です。しかし、法律的な観点からは、ペットはパソコンや家具などと同じような「物」とされています。
そのため、交通事故などで怪我をしたのが人である場合は「人身事故」として処理されるのに対して、ペットの場合は「物損事故」として処理されることになります。
2. ペットが事故で死亡した場合に慰謝料請求はできる?
上記のように、ペットが事故で死亡した場合、法律上の分類は物損事故です。そして原則的に、交通事故で慰謝料が認められるのは人身事故の場合のみとされています。
(1)ペットの死亡事故で慰謝料請求が認められにくい理由
そもそも慰謝料とは、事故やトラブルによって受けた精神的な苦痛に対して、その痛みを和らげる目的で支払われるお金を指します。
人が事故に遭遇した際には、肉体的な傷害だけでなく、心理的なショックやストレスも大きく、日常生活に戻るまでの間に精神的苦痛を伴います。慰謝料請求は、金銭的な賠償によって、このような精神的苦痛を少しでも和らげるためのものです。
このように、慰謝料は「精神的損害」に対して認められます。
他方で、物損事故の場合、物が壊れたことによって生じた精神的苦痛は、経済的損害が賠償されれば回復されると考えられています。
そのため、原則、物損事故の場合の慰謝料請求は認められません。ペットの事故の場合も、たとえば動物病院での治療に要したお金や死亡したペットの時価などは「経済的損害」として賠償請求できますが、「精神的損害」である慰謝料の請求は当然に認められるものではありません。
しかし、社会通念から見ても、単に物が壊れたのと、愛情を注いで家族同然として接していたペットが死亡したのとでは、被害者の精神的苦痛が大きく異なるのは明らかです。
そのため、ペットの死亡事故に関しても、例外的に裁判で慰謝料の請求が認められたケースは存在します。なお、動物愛護法においては動物(ペット)と単なる「物」は明らかに別物として扱われており、法的な面でも動物の扱いは近年変化が生じています。
(2)慰謝料が認められるかどうかのポイント
全ての事案で慰謝料の請求が認められるわけではありません。ペットの死亡事故では、複数の要因によって慰謝料請求が認められるか判断されます。
最も重要なのは、飼い主とペットの関係が、「単なる所有者と所有物」の関係を超えて、その喪失によって深刻な精神的苦痛を受けるほど深い絆であったと認められることです。
こうした愛情の深さを客観的に測るのは難しいですが、たとえば普段のペットとの関係やペットの年齢(飼育年数)などが考慮されます。慰謝料の性質上、ペットの喪失が経済的損害の補填だけでは償いきれない、精神的に大きな打撃であったことを強調するのが重要です。
その他に、精神的苦痛を推し量る尺度としては、「事故の悲惨さ」や「加害者の態度や過失の度合い」なども大きな要素です。慰謝料の額についても、これら複数の要素によって変わるので一概には言えませんが、過去の裁判例から見ると数万円~数十万円ほどの範囲が想定されます。
3. ペットが死亡した場合の慰謝料請求の裁判例
先に触れたように、ペットの死亡事故に対して慰謝料請求が認められた裁判例は過去にいくつか存在します。
たとえば、大阪地裁による平成18年3月22日判決では、交通事故で亡くなった愛犬に対して、慰謝料として10万円が認められました。また、名古屋高裁による平成20年9月30日判決でも、交通事故により亡くなったペットの慰謝料として原告1人につき20万円が認定されました。
いずれの判決も、ペットが飼い主にとって大切な存在であること、そしてその死が飼い主に与えた精神的な損害が、経済的損害の賠償だけではカバーできない程度であることを認めたものです。
出典:大阪地裁平成18年3月22日判決:『判例時報』1938号97頁名古屋高裁平成20年9月30日判決:LLI/DB 06320524
交通事故以外の過失でも、慰謝料が認められたケースはあります。たとえば、千葉地裁による平成17年2月28日判決では、ペットホテルの過失により犬が死亡した事案において、70万円の慰謝料を認めました。
このケースでは、犬の飼育者が愛着を持って飼育していたことの他に、死亡時に直ちに報告を受けられなかったことや、骨壺の一部を受け取ることができていない点なども考慮されたようです。
出典:千葉地裁平成17年2月28日判決これらの判決が示すように、ペットの死亡事故で慰謝料請求をすることは場合によって可能です。もしもペットを誰かの過失で亡くしてしまった場合は、慰謝料や損害賠償請求の可能性について、まずは弁護士に相談するようにしてください。
- こちらに掲載されている情報は、2024年07月30日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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