- (更新:2025年01月09日)
- 交通事故
過失割合とは? 過失割合が9対1の交通事故被害者が示談交渉で注意すべき点とは
交通事故では「加害者が一方的に悪い」という事態は稀であり、被害者にも一定の過失が認められることが一般的です。
過失割合が「9対1」という場合には、被害者の過失はかなり軽微なものとされます。それでも、若干ではありますが、加害者に請求できる損害賠償の金額は減額されることになるのです。
この記事では、過失割合の概要や、過失割合が9対1となる交通事故の具体例、示談金額の計算方法などについて紹介します。
1. 交通事故の過失割合とは?
「過失割合」とは、交通事故発生に対する当事者の責任割合のことです。
交通事故が発生したときには、どちらか一方が100%悪いとは言い切れないケースが少なくありません。
たとえば、信号のない交差点で、対向する直進車と右折車が衝突したような場合、直進が優先ではあるものの、事故の原因は双方にあると判断され、必ずしも右折車が100%悪いとはいえません。
交通事故の原因や態様は、1件1件異なります。そのため、事故の内容に応じて「10対0」「8対2」などと双方の過失の割合を決める必要があるのです。
(1)過失割合は何に使う?
過失割合は、主に交通事故の損害賠償金額を決めるときに使われます。次のような公式で、損害額から自己の過失割合の分を差し引き、最終的な賠償金額を算出します。
損害額 × (1 − 過失割合) = 最終的な賠償金額
(2)過失相殺とは?
過失相殺とは、被害者側の過失割合を考慮して、不法行為に基づく損害賠償金額を減額するという考え方です(民法第722条第2項)。
被害者側に10%の過失が認められる場合(過失割合9対1)、被害者が受けた損害のうち、加害者による賠償が認められるのは90%の部分のみとなります。
たとえば、被害者の損害額が100万円の場合、過失割合が加害者9対被害者1であれば、被害者が請求できる賠償金額の計算は以下の通りです。
100万円 × (1 − 0.1) = 90万円
このように、被害者の過失割合が大きいほど、加害者に対して請求できる損害賠償の金額は減ることになるのです。
交通事故では、原則として、被害者側と加害者側とで示談交渉を行った後に、損害賠償は「示談金」として加害者側から被害者側に支払われます。したがって、過失相殺は示談金の金額に適用されます。
加害者が任意加入の自動車保険に加入しておらず、強制加入の自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)しかないこともあるでしょう。任意保険では被害者に5%でも過失があれば過失相殺の対象ですが、自賠責保険は被害者保護を重視しているため、被害者に7割以上の過失がなければ賠償金額は減額されません。
2. 過失割合は誰がどのように決めている?
過失割合は、交通事故の賠償金額を決める際に非常に重要な数字です。では、どのように算出しているのでしょうか。
(1)過失割合の決め方
過失割合の決め方は、法律などで明確に定められているわけではありません。そのため、通常は、加害者が加入している任意保険会社が過去の事例や社内基準をもとに案をつくり、示談交渉の中で被害者に提示します。双方が合意すれば過失割合が決まり、賠償金の支払いへと移行します。裁判が起こされている場合には、裁判官が過失割合を判断します。
なお、法的な基準はありませんが、裁判例の蓄積などから事故状況に応じて過失割合の型が決まっています。一般的には、それをもとに事故が起きた時間帯、飲酒運転、無免許運転など、個別の事情を考慮して検討していきます。
(2)過失割合が10対0になるケース
交通事故では、加害者側に100%責任があると判断されるケースがあります。事故態様ごとに、主なものをご紹介します。
<車同士の事故>
- ガレージに駐車中の車に別の車が衝突、赤信号で停車中の車に後続車が追突
- 車がセンターラインを越え、反対車線を走る別の車にぶつかる
<車と自転車の事故>
- 青信号で交差点を渡る自転車に、赤信号で進入した車が衝突
- 同じ方向に進む自転車を、車が追い越して左折する際に巻き込む
- 車がセンターラインを越えて、対向してきた自転車とぶつかる
<車と歩行者の事故>
- 青信号で横断歩道を渡る歩行者に、赤信号で進入した車が衝突
- 歩行者が信号機のない横断歩道を渡っているときに、進入してきた車が衝突
3. 歩行者でも過失ありになることも
車と歩行者の事故では、責任はすべて車の運転者側にあると思っている方もいるかもしれません。ですが、歩行者でも責任が問われることがあるのです。
(1)歩行者の過失割合が0とは限らない
車は、運転操作を誤れば人を死亡させることもある乗り物であるため、運転には慎重さが必要です。ですが、車と歩行者の事故のすべてのケースで、車の運転者側に全責任があるとはいえません。
次のような状況での事故では、歩行者側にも責任があり、一定の過失が認められる可能性があります。
- 赤信号の横断歩道を渡っていた
- 横断歩道が近くにあるのに横断歩道ではない場所を横断していた
- 歩道があるのに車道を歩いていた
- 横断禁止道路を横断していた
- 後退する車の真後ろを横断していた
- 駐車場内で車と接触した
4. 過失割合が9対1の交通事故とは?
過失割合が9対1の交通事故とは、事故の責任の大半は加害者にあるものの、被害者にも軽微な交通法規違反が存在する、というものであることが大半です。
過失割合が9対1となる交通事故の具体例としては、以下のようなものが考えられます。
もっとも、具体的な事故状況に照らし、過失割合に修正が加わることもあります。
①信号機が設置されておらず、交差道路の片方が優先道路の交差点で、自動車同士が出会い頭に衝突した場合
過失割合は劣後車90%、優先車10%
優先道路と通常の道路の交差点では、通常の道路を走行する車(劣後車)のみに徐行義務が課されるため(道路交通法第42条第1項)、劣後車の過失割合が大きくなります(90%)。
一方、優先道路を走行する車(優先車)にも、交差道路を通行する車両等に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行する義務があるため(同法第36条第4項)、軽微ではあるものの、一定の過失が認められるのです(10%)。
②駐車スペース内で、自動車と歩行者が衝突した場合
過失割合は自動車90%、歩行者10%
自動車と歩行者の交通事故では、一般的には自動車側に大半の責任が課されます。
駐車スペース内では、自動車側は常に安全を確認して、歩行者がいる場合にはただちに車を止めなければなりませんので、大きな過失が認められます(90%)。
一方、歩行者側としても、駐車スペースでは自動車が来ることが当然予想されますので、自動車の動きに注意する義務があることから、軽微ではあるものの、一定の過失が認められるのです(10%)。
5. 過失割合が9対1のとき、示談金額はどうなる?
過失割合が9対1である場合には、「過失相殺」の考え方により、示談金額が調整されることになります。
(2)過失割合が9対1の場合における示談金額の計算例
過失割合が9対1の交通事故に関する二つのケースを想定したうえで、示談金額を実際に計算してみましょう。
<ケース1>
- 過失割合は加害者90%、被害者10%
- 被害者のみに100万円の損害が発生
このケースでは、被害者に生じた損害は100万円ですので、そのうち90%にあたる90万円を加害者側に対して請求できます。
<ケース2>
- 過失割合は加害者90%、被害者10%
- 加害者に20万円、被害者に80万円の損害が発生
このケースでは、被害者・加害者の双方に損害が発生しています。
この場合、被害者が加害者に請求できる損害賠償は、80万円の90%にあたる72万円となります。
一方で、加害者の側も、自分に発生した損害額である20万円の10%にあたる2万円を、被害者に対して請求することができるのです。
したがって、被害者は、最終的には72万円から2万円が引かれた金額である70万円について、加害者から支払いを受けることになります。
上記のケースはあくまで例であり、非常に単純化したものであることにはご留意ください。
また、実際の示談交渉では「被害者と加害者の具体的な過失割合の数値はどうなっているか」ということについてもめることも多々あります。そのような場合には、被害者側の過失が少ないことや加害者側に重大な過失があることを、証拠を用いながら客観的かつ説得的に主張することが重要になるのです。
通常、示談では、加害者側は任意保険会社の担当者が交渉を担当することになります。対等な立場で交渉を行い、自身の権利や利益を適切に主張するために、被害者側でも法律の専門家である弁護士に交渉を依頼することをおすすめいたします。
6. 過失割合でもめたときの対処方法
被害者側の過失割合が上がれば上がるほど、加害者側、つまり加害者の加入している保険会社が支払う賠償金額は低くなります。そのため被害者の過失割合が0になるべきケースでも、保険会社がさまざまな理由を並べて被害者にも責任があると主張してくることがあります。
保険会社の主張や提案する過失割合、賠償金額に納得できない場合には、そのまま受け入れず、見直しを求めていきましょう。
ただし、被害者が個人で交渉しても、簡単には変更してもらえません。その場合は交通事故に詳しい弁護士に相談してください。弁護士は過去の裁判や事故事例をもとに適切な過失割合を算出して保険会社と交渉するほか、裁判になった場合にもサポートしてくれます。
交通事故については無料相談を行っている法律事務所もありますので、過失割合に疑問がある場合は活用してください。
- こちらに掲載されている情報は、2025年01月09日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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