過失割合が9対1の交通事故、被害者が示談交渉で注意すべき点は?
交通事故では「加害者が一方的に悪い」という事態は稀であり、被害者にも一定の過失が認められることが一般的です。
過失割合が「9対1」という場合には、被害者の過失はかなり軽微なものとされます。それでも、若干ではありますが、加害者に請求できる損害賠償の金額は減額されることになるのです。
この記事では、過失割合が9対1となる交通事故の具体例や、示談金額の計算方法などについて紹介します。
1. 過失割合が9対1の交通事故とは?
まず、交通事故の過失割合が9対1であるということは具体的にはどういうことかについて記します。
(1)過失割合とは?
交通事故における「過失割合」とは、「被害者と加害者が、事故についてそれぞれに負っている責任」の割合を示すものです。
過失割合が「9対1」である場合には、加害者に90%、被害者に10%の責任がある交通事故ということになります。
過失割合は、後述する「過失相殺」によって、慰謝料をはじめとする示談金の金額に影響を与えることになるのです。
(2)過失割合が9対1になる交通事故の具体例
過失割合が9対1の交通事故とは、事故の責任の大半は加害者にあるものの、被害者にも軽微な交通法規違反が存在する、というものであることが大半です。
過失割合が9対1となる交通事故の具体例としては、以下のようなものが考えられます。
もっとも、具体的な事故状況に照らし、過失割合に修正が加わることもあります。
①信号機が設置されておらず、交差道路の片方が優先道路の交差点で、自動車同士が出会い頭に衝突した場合
過失割合は劣後車90%、優先車10%
優先道路と通常の道路の交差点では、通常の道路を走行する車(劣後車)のみに徐行義務が課されるため(道路交通法第42条第1項)、劣後車の過失割合が大きくなります(90%)。
一方、優先道路を走行する車(優先車)にも、交差道路を通行する車両等に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行する義務があるため(同法第36条第4項)、軽微ではあるものの、一定の過失が認められるのです(10%)。
②駐車スペース内で、自動車と歩行者が衝突した場合
過失割合は自動車90%、歩行者10%
自動車と歩行者の交通事故では、一般的には自動車側に大半の責任が課されます。
駐車スペース内では、自動車側は常に安全を確認して、歩行者がいる場合にはただちに車を止めなければなりませんので、大きな過失が認められます(90%)。
一方、歩行者側としても、駐車スペースでは自動車が来ることが当然予想されますので、自動車の動きに注意する義務があることから、軽微ではあるものの、一定の過失が認められるのです(10%)。
2. 過失割合が9対1のとき、示談金額はどうなる?
過失割合が9対1である場合には、「過失相殺」の考え方により、示談金額が調整されることになります。
(1)過失相殺とは?
過失相殺とは、被害者側の過失割合を考慮して、不法行為に基づく損害賠償金額を減額するという考え方です(民法第722条第2項)。
たとえば被害者側に10%の過失が認められる場合(過失割合9対1)、被害者が受けた損害のうち、加害者による賠償が認められるのは90%の部分のみとなります。
このように、被害者の過失割合が大きいほど、加害者に対して請求できる損害賠償の金額は減ることになるのです。
交通事故では、原則として、被害者側と加害者側とで示談交渉を行った後に、損害賠償は「示談金」として加害者側から被害者側に支払われます。したがって、過失相殺は示談金の金額に適用されることになるのです。
(2)過失割合が9対1の場合における示談金額の計算例
過失割合が9対1の交通事故に関する二つのケースを想定したうえで、示談金額を実際に計算してみましょう。
<ケース1>
- 過失割合は加害者90%、被害者10%
- 被害者のみに100万円の損害が発生
このケースでは、被害者に生じた損害は100万円ですので、そのうち90%にあたる90万円を加害者側に対して請求できます。
<ケース2>
- 過失割合は加害者90%、被害者10%
- 加害者に20万円、被害者に80万円の損害が発生
このケースでは、被害者・加害者の双方に損害が発生しています。
この場合、被害者が加害者に請求できる損害賠償は、80万円の90%にあたる72万円となります。
一方で、加害者の側も、自分に発生した損害額である20万円の10%にあたる2万円を、被害者に対して請求することができるのです。
したがって、被害者は、最終的には72万円から2万円が引かれた金額である70万円について、加害者から支払いを受けることになります。
上記のケースはあくまで例であり、非常に単純化したものであることにはご留意ください。
また、実際の示談交渉では「被害者と加害者の具体的な過失割合の数値はどうなっているか」ということについてもめることも多々あります。そのような場合には、被害者側の過失が少ないことや加害者側に重大な過失があることを、証拠を用いながら客観的かつ説得的に主張することが重要になるのです。
通常、示談では、加害者側は任意保険会社の担当者が交渉を担当することになります。対等な立場で交渉を行い、自身の権利や利益を適切に主張するために、被害者側でも法律の専門家である弁護士に交渉を依頼することをおすすめいたします。
- こちらに掲載されている情報は、2022年06月30日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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