国家賠償法により公務員を訴えたい! 個人の責任追及はできない?
公務員個人を訴えたい場合、どうしたらよいのでしょうか?
たとえば、公立学校の現場では、しばしば教員による生徒への体罰や行き過ぎた指導などが問題となっています。このような場合、教員の責任を訴訟によって追及したいと考える方もいらっしゃるでしょう。
公立学校の教員は公務員であるため、公務員に対する法的責任の追及を考える際には、「国家賠償法」との関係に注意する必要があります。今回は、公務員が第三者に損害を与えた場合の法的責任について、国家賠償法などの観点から解説します。
1. 公務員が第三者に損害を与えた場合の法的責任
公務員が故意または過失により第三者に損害を与えた場合、公務員に発生し得る法的責任は「民事上の責任」「刑事上の責任」「行政上の責任」の3つです。それぞれについて、法的観点から検討してみましょう。
(1)民事上の責任は負わない
国家賠償法に基づく求償は可能
公務員が故意または過失により第三者に損害を与えた場合、公務員自身が被害者に対して、直接損害賠償責任を負うことはないと解されています。つまり、公務員個人に対して民事上の責任を追及することはできないのです。
これは、国家賠償法第1条第1項において、次のように定められているためです。
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
(国家賠償法第1条第1項)
したがって、公務員が第三者に与えた損害は、所属する国または公共団体が、公務員個人の代わりに国家賠償責任を負うのです。その反面、公務員個人は、被害者に対して不法行為(民法第709条)等に基づく損害賠償責任を負いません(最高裁昭和30年4月19日判決)。
ただし、国家賠償法の次の条文では、以下のようにも規定されています。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
(国家賠償法第1条第2項)
つまり、公務員に故意または重過失がある場合に限り、被害者に対して損害賠償を行った国または公共団体が、「求償」という形で間接的に公務員の個人責任を追及することが認められているのです。
なお、普通地方公共団体(都道府県、市町村など)が適切に公務員個人への求償権を行使しない場合には、「住民訴訟」によって普通地方公共団体に対して求償権の行使を求めることができます(地方自治法第242条の2第1項第4号)。
(2)刑事上の責任は発生し得る
民事上の責任とは異なり、刑事上の責任については、明文の免責規定はなく、公務員個人の責任を直接追及する余地があります。
たとえば公立学校において、教員による体罰が行われた場合には、教員は暴行罪・傷害罪等の犯罪に問われる可能性があるのです。
被害者としては、加害者である公務員を「告訴」することで、捜査機関(警察・検察)に事件の捜査を求めることができます(刑事訴訟法第230条)。ただし、起訴するか否かは検察が裁量で決めることができます。
(3)行政上の懲戒処分を受ける可能性がある
公務員による違法行為・公務員としてふさわしくない非行などがあった場合、国または公共団体によって、公務員に対する「懲戒処分」が行われることがあります(国家公務員法第82条第1項、地方公務員法第29条第1項)。なお、裁判官の懲戒手続については、裁判官分限法が定めています。
懲戒処分の種類には、通常、戒告・減給・停職・免職の4つがあります。
2. 被害者が公務員の個人責任を訴訟で追及した事例
大分地裁平成25年3月21日判決の事案では、実際に公立高校の部活動で生徒が死亡したことが問題となり、顧問等の教員が被害者遺族から不法行為責任を追及されました。
同判決では、加害者教員が酷暑の中で被害者生徒の出すSOSを意図的に無視して練習を続けさせ、深刻な意識障害が発生するまで医療機関へ搬送する措置を怠ったことが認定されました。そして、熱中症に陥った被害者生徒が死亡したことは、顧問等の教員による違法行為に起因するものであると結論付けられました。
しかしながら国家賠償法に基づき、公務員の個人責任は否定され、県および市の損害賠償責任のみが認められました。
その後、被害者遺族が県および市に対して住民訴訟を提起し、顧問等の教員に対する求償権を適切に行使するよう求めたところ、高裁で被害者遺族の請求が一部認められています(福岡高裁平成29年10月2日判決)。
なお、被害者遺族は、顧問等の教員を刑事告訴しましたが、刑事手続では不起訴となり、さらに、不起訴処分を不服として、検察審査会に申し立てをしましたが、こちらも不起訴相当となりました。
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