マネーロンダリングとはどんな罪? 企業がやるべき対策
企業として複数の取引先とやり取りしていると、知らず知らずのうちにマネーロンダリング(資金洗浄)に巻き込まれるおそれがあります。そのようなリスクを回避するには、正確な知識と対策が必要です。
本コラムでは、マネーロンダリングとは何かという概要から、マネーロンダリングに巻き込まれないための対策まで解説します。
1. マネーロンダリング(資金洗浄)とは
(1)マネーロンダリングの定義
マネーロンダリング(資金洗浄。以下「マネロン」)とは、違法に獲得された収益の出どころや所有者を隠すことで、捜査機関などによる摘発や検挙を免れようとする行為を指します。
具体例としては、違法な収益を会社設立の出資金とするケースや、特殊詐欺でだまし取った電子マネーの利用権を他人になりすまして売却するケースが挙げられます。
マネロンが問題視されている理由は、お金に色がないことを悪用して違法に獲得された資金が暴力団やテロリストといった反社会的勢力に流れるおそれや、健全な経済活動が阻害されるおそれがあるためです。
(2)疑わしい取引の届出制度
マネロンを取り締まる制度のひとつに、「疑わしい取引の届出制度」があります。これは、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)に基づき、金融機関や協同組合などの特定事業者に行政庁への届出義務を課す制度です。
届出が義務付けられているのは、顧客から預かった財産や取引に、以下のような疑わしい点が認められる場合です。
- 犯罪収益やテロ資金供与ではないかと疑われる場合
- マネロンが行われているのではないかと疑われる場合
疑わしい取引の例としては、多額の入出金が短期間で頻繁に行われるケースや、異なる名義・住所の顧客によるWeb取引が同一IPアドレスから行われているケースなどが挙げられます。
2. マネーロンダリングに該当する行為と罪
(1)マネロンを規制する法律・ガイドライン
企業としては、自社の取引行為を適正なものに保つため、マネロンを規制する法律等を知っておく必要があります。
とりわけ重要なのは以下の3つです。
- 組織的犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)
- 犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)
- マネロンガイドライン(マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン)
①組織的犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)
重大な結果を引き起こす一部の組織犯罪を、刑法よりも重く処罰する法律です。
組織的犯罪処罰法の規制対象となっているマネロンの行為は、以下の3つです。
- 法人等の事業経営の支配(同法9条):犯罪で得た収益などで株主となり、法人などの経営権を奪って支配する行為
- 犯罪収益等の隠匿(同法10条):犯罪による収益や、その発生原因などを隠す行為
- 犯罪収益等の収受(同法11条):犯罪による収益だと知りつつ、それを受け取る行為
これらに加えて、組織犯罪で得た収益の没収(同法13条)などの定めもあります。
出典:e-Gov法令検索「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」②犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)
犯罪による収益が疑われる金銭移動などに対する、取引の監視や防止、不正の処罰を目的とした法律です。金融機関や特定の士業(弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士)などの「特定事業者」に対し、以下の3つの義務が課されています。
- 顧客等の取引時確認(本人特定事項)
- 本人確認記録・取引記録の作成・保存
- 疑わしい取引の届出
これらの情報や記録は、7年間保存しなければなりません(犯罪収益移転防止法6条第2項)。
本法に違反した場合、行為ごとに罰則が定められています。主要なものは以下のとおりです。
- 本人特定事項の虚偽申告:1年以下の懲役または100万円以下の罰金(※併科も可。同法27条)
- 預貯金通帳等の不正譲渡・譲受:1年以下の懲役または100万円以下の罰金(※併科も可。同法28条1項・2項)
- 預貯金通帳等の不正譲渡・譲受(業として行った場合):3年以下の懲役または500万円以下の罰金(併科も可。同法28条3項)
- 報告拒否・虚偽報告、資料提出拒否・虚偽資料提出:1年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科も可。同法26条1号)
- 質問への答弁拒否・虚偽答弁、立入検査拒否・妨害・忌避:1年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科も可。同法26条2号)
- 是正命令違反:2年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科も可。同法25条)
③マネロンガイドライン(マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン)
上記の法律による規制のほか、金融庁がマネロンガイドライン(マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン)を定めています。
各事業者がみずから、マネロンやテロ資金供与に関与してしまうリスクを特定し、リスクごとの評価に基づいた低減対策を行うようにするためのガイドラインです。この方法論を「リスクベース・アプローチ」といいます。
出典:金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(2)「犯罪収益」と「前提犯罪」
マネロンとして規制される行為は、いずれも「犯罪収益」を用いるものです。つまり、それ自体が犯罪であるマネロンを行うには、前提として不法な収益を得るための犯罪がなされていなければなりません。この犯罪を「前提犯罪」といいます。
前提犯罪には、主に窃盗罪や詐欺罪、薬物取引、違法賭博、テロ資金提供等が挙げられますが、脱税等の一部の租税犯も含まれます。
出典:国税庁「税務当局によるマネー・ロンダリング対策」3. マネーロンダリングについて企業がやるべきこと
企業の立場からは、まず取引に関わる担当者や経営者が、マネロンに関する知識を備えておくことが重要です。そうすることで、「疑わしい取引」に該当しないかどうかが判断できるようになります。
次に、自社にとって、どの場面でマネロンに関するリスクが生じるかを把握しておくことも欠かせません。そこで、前述のマネロンガイドラインが役立ちます。資金の移動に不明点や怪しまれる点がないか、確認しておきましょう。
これらに加えて、取引についての情報共有や相互監視体制の構築といった取り組みにより、違法な取引に巻き込まれるリスクを減らせます。
マネロンの手口は多様です。もし、自社がマネロンに関与している、あるいは巻き込まれるリスクがあると疑われるのであれば、企業法務に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
- こちらに掲載されている情報は、2024年08月23日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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