ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』3 ~独占禁止法に基づく損害賠償請求~
2022年7月18日第2回放送のドラマ『競争の番人』において、その取れた手段が弱く、悪い社長があまりダメージを負わなかったから抜本的解決に至れなかった点については、すでに言及しました。他にも公正取引委員会(公取委)が用いる手段は存在するものの、この事案において排除措置命令にとどまるのがやむを得ない点についても同じくです。ただ、この時、「公取委は」という留保を残していました。
また、最近では国会でも取り上げられ、やや知名度が上がった優越的地位の濫用についても、簡単に考え方を理解しておくことで、活用できるようになる事業者も少なくないと考えます。
このように、いくつかの論点について、もう少し深堀してみようと思います。
1. 競争の番人は公取委だけではない
元々、自由競争を第一とする市場を守る法律であり、お上である公取委が一方的にさまざまな制裁を加えられたら危険です。一方で、納入業者いじめにより被害を受けていた業者がいたのは確かで、ただ行いを正すだけで良いのかという点も残します。独占禁止法は、この場合に実際に被害を受けた人たちの損害賠償についても、請求しやすくしています。
独占禁止法25条は、民法709条と異なり、違反認定された業者に対しては故意・過失なく損害賠償請求を認めているのです。たとえばドラマの例だと、花屋が買わされたチケットやいらないもの、労働力を提供した人件費などについて、花屋たちは損害賠償請求をすることができるわけです。第3話で、戦うことを決意した花屋の皆さんが公取委に協力するだけでなく、このように自ら戦う道を選ぶかは、私は注目しています(執筆は2022年7月22日です)。というのも、基本的には自由市場を守る法律であるため、民間人が競争の番人となる方が、理念的にはよりあっているからです。
第1回で、アメリカは自由への介入について抑制的であると言いましたが、一方で、独占禁止法の事件は少ないどころか多数起きており、自由市場の秩序を法で守る動き自体は活発です。その理由は、このように民間による損害賠償請求が盛んだからです。私が以前講義を受けた(そして代わりに日本の温泉の魅力を教えてあげた)Howard Langer氏も、多数の被害者を集めて訴訟を起こすことにより、弱いものの味方をしながら弁護士としても経済的に成功していました。公取委の権限強化の動きと合わせて、民間人、市場の参加者たちもまた競争の番人として動きやすくなるような制度の作り方は、今後も模索されるべきでしょう。
2. フランチャイズにおける優越的地位の濫用のお話 ~コンビニ24時間戦争~
ドラマ内では、いじめという形で表現されていた優越的地位の濫用。ちなみに、独占禁止法において「いじめ」とは、予測できず不意打ちであったり(契約にはないサービスを求める、契約になく返品を受けさせる等)、契約化はされてるけど一方的で過大である(返品の条件がほとんど一方の自由だったりと、一方にしか利益がなかったり等)取引を指します。
法律の歴史を見ても、課徴金も課せるようになるなど強化されてきていますし、実際、より一般に生きる人たちとの関係も深いことから、注目度も上がってきています。
直近でも、2022年6月23日、セブン―イレブンのコンビニオーナーを巡る事件の判決が出たばかりです。この裁判は、あくまで契約解除と明け渡しがメインの争点となっていて、そもそも24時間営業を巡る問題が解除の原因かどうかというところ自体に争いがあり、個別の事情も多く作用しているため、コンビニオーナーの満足する形には進んでいないようです。
しかし、そもそもの出発点となった「24時間営業の強制」という点については、公取委は優越的地位の濫用の疑いが強いと警告しています。2021年4月28日に改正された「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」というガイドラインでも、24時間営業によって損失が出ているという申し出を受けながら協議を拒絶し、24時間営業を強制する行為は、優越的地位の濫用にあたると明示されています。
フランチャイズ契約では、売り上げを基準に本部へのロイヤルティーが決まるため、とにかく長く稼働して少しでも売り上げが増えた方が、本部側はもうかります。一方で、コンビニオーナー側は人件費などもかかるため、深夜に少し来る客のために店を開けていても赤字になってしまいます。そのため、深夜営業が、フランチャイザー、本部側にだけ利益があるものであり、それを強制するのは「いじめ」だと評価できるわけです。
ちなみに、上記ガイドラインで出てくる見切り販売の制限というのも、セブン―イレブンに対して公取委が排除措置命令を出した事件を基にしています。誤解をなきようにお伝えしておくと、セブンに限らず他のフランチャイズ事業でも公取委の案件化することは珍しくないです。独占禁止法は、大きな会社の事件とは限らず、フランチャイズ契約をするような個人店舗にとっても、しばしば問題となるものであることをよく示しています。
3. 独占禁止法ではない弱いものいじめ?
この弱いものいじめ類型の話をすると、本当は独占禁止法を話しているだけでは足りません。独占禁止法よりも、早く動きやすい法律なども存在しています。ですが、これはまた別の回にドラマで出てくるかもしれないので、ひとまず今回もここまでとしておきます。
- こちらに掲載されている情報は、2022年08月01日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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