ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』10 ~入札談合等関与行為防止法~
ドラマ『競争の番人』第9回(9/5放送)も、引き続き談合のエピソードが続きます。小日向文世演じる事務次官が本作のラスボスなわけですが、ラスボスとしての強さを示す回になりましたね。
ところで、このラスボスに適用される法律は何だかわかりますか? 「独占禁止法」ではなく、「入札談合等関与行為防止法」という法律になります。独占禁止法が対象とするのは、あくまで本来競争関係にある事業者同士の間に競争を生じさせなくなる行為です。そのため、発注する側、役人の不正を規制する法律は、別に作られています。
最終話に向けて、どんな法律を使うために何を立証しようとしているのかを確認すべく、今回は「入札談合等関与行為防止法」を読み解いておこうと思います。
1. 誰が対象か? ~入札談合等関与行為防止法上の公務員~
国や地方公共団体の職員が対象になるのは当然です。それに加えて、国や地方公共団体と一定以上のつながりがある、半分公的機関な組織(特定法人)の職員も対象になります。
2条2項では、
一 国又は地方公共団体が資本金の2分の1以上を出資している法人
二 特別の法律により設立された法人のうち、国又は地方公共団体が法律により、常時、発行済株式の総数又は総株主の議決権の3分の1以上に当たる株式の保有を義務付けられている株式会社(前号に掲げるもの及び政令で定めるものを除く。)
と示されています。
国または地方公共団体が資本金の2分の1以上を出資している法人は、日本銀行・日本年金機構・法テラスのようないかにも公的なところから、日本郵政・東京メトロ・東西の高速道路会社・日本中央競馬会などもう少し身近な事業体、そして国立大学法人と呼ばれる各都道府県を代表する大学などが具体例です。
それに加えて、議決権の3分の1以上の公共保有が義務付けられている会社で、しかも政令で除外されていないものの代表例である、日本たばこ産業(JT)なども、規制対象になります。ちなみに、政令で二号から除外されているのは、NTTと日本郵政です。そのため、NTT職員は同法適用対象から外れます。一方で、日本郵政職員はそもそも一号に該当してしまっているので、適用対象です。
こうして見ると、そもそも注意しなければいけない企業から、一見明白ではないですね。
2. どんな場面で問題になるか? ~入札談合等には随意契約も含まれうる~
2条4項で、
「国、地方公共団体又は特定法人(以下「国等」という。)が入札、競り売りその他競争により相手方を選定する方法(以下「入札等」という。)により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結」
が、入札談合等として問題となる場面とされています。
ここで誤解してはならないのが、典型的な談合の場面となる入札だけでなく、随意契約の方式を採る場合でも、複数業者が見積もりを出して競争を行うようであれば、やはり適用場面に含まれるという点です。
3. どんな行為が問題になるか? ~独禁法の不当な取引制限より広い~
2条5項で、以下のように列挙されています。
一 事業者又は事業者団体に入札談合等を行わせること。
二 契約の相手方となるべき者をあらかじめ指名することその他特定の者を契約の相手方となるべき者として希望する旨の意向をあらかじめ教示し、又は示唆すること。
三 入札又は契約に関する情報のうち特定の事業者又は事業者団体が知ることによりこれらの者が入札談合等を行うことが容易となる情報であって秘密として管理されているものを、特定の者に対して教示し、又は示唆すること。
四 特定の入札談合等に関し、事業者、事業者団体その他の者の明示若しくは黙示の依頼を受け、又はこれらの者に自ら働きかけ、かつ、当該入札談合等を容易にする目的で、職務に反し、入札に参加する者として特定の者を指名し、又はその他の方法により、入札談合等を幇助すること。
独禁法における不当な取引制限が、「意思連絡」と「相互拘束」という、より固い謀議を要件としていたのと比べると、「示唆する」といった行為も包含しており、特にこういう問題において悪事を働きそうな人間が、罪を免れるべく行いそうな程度のものも捕捉しようとしています。入札価格そのものでなくとも、プロが見れば要するコストなどから入札価格が推測できてしまう資料などを「教示し」、「示唆する」行為も、規制対象になります。また、「幇助」として、入札参加者らの希望を聞いて、特段の指示はしていないけどその意向に合わせた発注の仕組みにしたりする行為も捕捉できるようにしています。
小日向事務次官殿みたいに、確信犯的に指示を飛ばしている場合でなくとも、違法行為になり得るんですね。
4. 違法になるとどんな効果が生じるか?
公正取引委員会が行える行為そのものは、3条に記載されている「改善措置」のみです。ただし、それを受けた各組織は、改善措置や懲戒処分に必要な調査を行わなければならないだけでなく、4条5項より、職員に故意または重過失があって国や地方公共団体、特定法人に損害が生じた場合、個別の職員に対し損害賠償を求めなければならないとしています。
8条のように「5年以下の懲役又は250万円以下の罰金」という刑事罰があるのは決して珍しくないですが、民事的にも個人の責任を義務的に追及させる仕組みが取り入れられているのは、この法律の面白いところです。刑事事件の対象になったけど執行猶予はとれてセーフ、家にはお金があって私生活は余裕といった形だったら、悪人が結局得してしまいますからね。
最終話では、ラスボスにどのような制裁が待っているのでしょうか。法律は、上記のラインアップをご用意しています。
- こちらに掲載されている情報は、2022年09月07日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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