- (更新:2023年01月23日)
- 裁判・法的手続
『女神(テミス)の教室』のウソ? ホント? ~弁護士の回顧録~
ウソとか書きましたけど、全ロースクールを知っているわけでもなく、ある時期に2年所属していただけなので、ウソとは断じられないと思います。おおむねいつも通り、杉山大介なりの注釈を加えていくコラムです。よろしくお願いします。
1. ロースクールって何するところ?
まずここの前提が、一般視聴者さんだと共有できていない気がします。過去に月9で放映した司法修習をテーマにした名作ドラマ『ビギナー』の時代、司法修習は1年6月でした。今は1年です。その代わりロースクールに行って、実務家としての教育も、試験前に受けてくることになっています。
そのため、ロースクールで司法試験には直結しない実務科目があるのは制度上当たり前ですし、北川景子演じる柊木雫のような実務家教員も、基本的には実務面について教えることが期待されています。
だから、2023年1月9日に放送された1話を見ていても、柊木が特段変なことをしているとは思いませんでした。記述式答案において正解か不正解かで割り切れることはなく、事実評価を適切に行った方が得点にもつながるわけですから、高得点を目指す指導としても成立するんじゃないかなあとも。司法試験考査委員をつとめているのも大半は実務家です。問題を作っている人の思考をちゃんと知るのも大事なはずなんですよね。
ただ、合格への近道を考えると、そのような指導がオーバースペックなのも確かです。2時間で読んで答える答案における合格水準って、そんなプロレベルでしっかり考察された文章ではないんですよね。これが正しい教育と試験合格との間でジレンマを生む理由です。
2. 杉山のロースクール生活はどうだったか?
私、全然試験のこと考えていませんでした。面白くないから(笑)
憲法の授業では、セオリー通りの回答をしてくる優等生に足払いをかける教員の裏をかき、自説を積極的に述べることを楽しみにしていました。民法の授業では、判例評釈を書いたりもしました。司法試験にも出てくる会社法や商法そのものの授業もあったのですが、選択でM&Aや契約法務の授業を選んでも必修の単位になるので、そちらを選びました。
国際仲裁や国際民訴、国際私法の分野についてひたすら英語で議論する科目は、外国人留学生もオブザーバーでいて白熱しました。独占禁止法も、日本だけでなくアメリカやEUのものも勉強しました。租税法や金融商品取引法は、学んでみてその読みにくさと肌の合わなさをよく理解しました。江戸時代の裁判制度や司法の独立性などについて研究した外国人研究者の英語論文を読んだり、統計分析を使って日本人の法意識をもとに制度設計を考えるといった、実務法律ですらない科目もありました。
なお、山田裕貴演じる藍井仁ほど特化しているわけではありませんでしたが、受験指導が上手な教員はちゃんといましたよ。
これらの経験の大半は、司法試験には役に立っていません。試験を意識して行われた授業の内容ですら、合格のためにはオーバースペックだった気がします。ただ、現在仕事をしていく上で、基礎体力なり引き出しの多さなり、先例としての答えがないときの発想力なりに活きています。ちなみに、上記の科目からもわかるようにロースクール時は刑事系への関心が薄く、そちらは司法修習に行った後で、しっかり取り組みました。
昨今は予備試験と比較されることも多いロースクールですが、私は長く勉強していた分、多くをため込みましたよ、と自負しているため、引け目を感じるところは全くありません。
ただ、ドラマで描かれているのは、南沙良演じる照井のセリフにもあったように「合格者3人」のロースクールなんですよね。試験に受かるところがまず例外というぐらいなので、余裕がなくなるのもわかります。
実際、私も上記のようなロースクール生活を送ったら、試験では思った以上に苦労する羽目になりました。ただ、司法試験で早期に上位合格する人と比較されるからこそ、時間をかけたに値するものを示す必要があるという、より長期的で現実主義的な発想も、持って良いと思います。ロースクールに行く以上、ロースクール的な価値観のものも活かさなければならないという覚悟を持とうと、個人的には思いました。
3. 模擬裁判のウソ? ホント? ~公判前整理手続~
ドラマの模擬裁判では、いきなり争点が変わり、全く想定していなかった供述が出てくるという急展開がありましたね。これは実際の模擬裁判含めた裁判では起きないかなと思います。
まず普段行われる模擬裁判の当事者や証人役には、それぞれ弁護人や検察官などとは別に、設定資料集が用意されています。そのため、全く知らないキャラクターを作り出すことはできないですし、どういう人だったのかはもう少し資料からわかるようになっています。今回のドラマの模擬裁判は、そこらのゲームの作りが甘かったように思いますね。そのため、想像力によっていじれる領域が広くなっていました。
その想像力に基づく新たな主張ですが、これも法律上制限があります。裁判員裁判は、あらかじめ裁判員に予定をおさえてもらい、その週にまとめてケリをつける必要があります。そのため、本番の日までに、争点が何で、そのためにどのような手続が必要かを打ち合わせる手続を行うのが必須とされています。それが公判前整理手続です。
これ自体も、一つのコラムを書けるぐらいに内容の多いものなのですが、その中で弁護側の主張の骨子を事前に開示する主張明示義務も定められています(刑訴法316条の17第1項)。そして、この主張明示義務違反があって、公判前整理手続を行った意味を失わせるような主張がいきなり出てきた場合、刑訴法295条1項に基づき被告人質問の制限も行えると解されています(最決平成27年5月25日刑集69巻4号636頁)。
今回のドラマでは、公判前整理手続のシーン自体ありませんでした。でも、こういうルールがある以上、裁判員裁判において検察官が全く知らない話が突然出てくるなら手続法に反した手続になっていることは明らかです。検察官役として被告人が突然新しいことをいろいろしゃべるのを制止したいのなら、「根拠」などと不規則発言をするのではなく、手続法違反であることを主張し異議申し立てするのが正しい作法です。ちなみに、この論点は司法試験にも出たことがあるので、受験に専念しているとしても当然知ってなきゃダメだったりします。
検察官チームは正統派を自負するなら、ちゃんと刑事訴訟法と刑事訴訟規則に従った、正しい異議を出して争ってほしかったですね。
4. 次回のテーマも面白そう
1月16日に放送される第2話の予告では、銭湯と入れ墨の問題が扱われていました。入れ墨や銭湯に対する憲法的な評価も加味した考察が必要であり、民法的な判断が定まり切ってない領域で、テーマ選択として面白そうです。
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松村 大介 弁護士
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