モザイク処理をしても違法? 「わいせつ画像」による罪と成立要件
ネットで女性の陰部がモザイク処理されている画像を拾って、それを拡散した…。
友達から送られてきたモザイク処理された画像をSNSに載せた…。
そのような行為をした場合、果たして、モザイク処理がされていれば犯罪にはならないと言い切れるのでしょうか。
本コラムでは、実際にモザイク処理された「わいせつ画像」を投稿・拡散した場合にどのような犯罪が成立しうるのかについて解説します。
1. モザイク処理がされていれば、原則「わいせつ物」ではない
このパートでは、刑法上の「わいせつ」の定義を確認したうえで、モザイク処理された画像や動画の「わいせつ物」の該当性について解説します。
(1)刑法上の「わいせつ」の定義とは
刑法上、画像をインターネット上に投稿する行為が処罰されるのは、わいせつ物頒布等罪(刑法175条1項)に該当する場合です。なお、画像データは「物」ではありませんが、同条は「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布」する行為も処罰しています(同条同項後段)。
そこで、わいせつ物頒布等罪における「わいせつ」の定義が問題となります。判例(最高裁昭和32年3月13日判決)は、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」と定義しています。
つまり、他人を性的に興奮させたり刺激させたりするような文書・画像であれば、特別な事情がない限り、わいせつ物に該当するということになります。特別な事情とは、芸術性・科学性が高く、わいせつ性を意識させないような場合です。
(2)「わいせつ画像・動画」のインターネット上での投稿・拡散が刑法上処罰される場合
先ほども解説したとおり、刑法上「わいせつ画像」をインターネット上で投稿・拡散する行為が処罰されるのは、わいせつ物頒布等罪に該当する場合です。
わいせつ物頒布等罪に該当するのは、以下の行為です。
- わいせつな画像や動画のデータ(電磁的記録)を収蔵した記録媒体を「頒布」または「公然と陳列」する行為(175条1項前段)
- わいせつな画像や動画のデータ(電磁的記録)を電気通信の送信により「頒布」する行為(同条同項後段)
いずれも、2年以下の懲役刑若しくは250万円以下の罰金もしくは科料に処せられます。
「電磁的記録に係る記録媒体」とは、わいせつな写真や動画のデータを保存されたパソコンのハードディスクやインターネット上のサーバー等を指すと考えられています。
以下、「頒布」「公然と陳列」の要件について解説します。
「頒布」とは、有料無料問わず、不特定又は多数の人に配布することをいいます。
判例は、たまたま1人に対して交付しただけであっても、不特定又は多数の人に対して交付する目的でなされれば頒布に該当するとしています(東京高判昭和47年7月14日)。つまり、特定少数人に画像・動画のデータを送っただけであっても、そこから不特定多数人へと拡散されることが明らかである場合は、頒布にあたるということです。
「公然と陳列」した場合も、わいせつ物頒布等罪が成立します。これは、不特定又は多数の人が認識できるような状態に置くことを指します。
わいせつな画像データや動画のデータをインターネット上で自由に閲覧・再生できる状態に置くと、「公然と陳列した」に該当します。
以上を前提とすると、わいせつ画像データや動画データをサーバーにアップロードして一般公開する行為は「わいせつな電磁的記録に係る記録媒体」の「公然陳列」に該当します。また、わいせつな画像や動画のデータを記録媒体に焼いて頒布した場合には、「わいせつな電磁的記録に係る記録媒体」の「頒布」に該当します。
(3)モザイク処理された画像は原則的には「わいせつ物」に該当しない
上記の「わいせつ」の定義に照らすと、モザイク処理がされた画像の頒布等は、原則として、他人を性的に興奮させたり刺激させたりするような画像の頒布等には該当しないと評価され、わいせつ物頒布等罪では処罰されないということになります。
しかし、実際に過去の裁判例を見ると、モザイク処理された画像でも、わいせつ物頒布等罪の成立が認められているものが散見されます。以下では、この点について解説します。
2. モザイク処理されていても「わいせつ」となる場合がある
(1)モザイク処理された画像にわいせつ性が認められた事例について
過去にモザイク処理されたわいせつ画像として代表的なものに、「FLMASK」事件というものがあります。モザイク処理されたわいせつ画像とのリンクを貼った行為について、わいせつ図画公然陳列ほう助罪に該当するとされ、懲役1年執行猶予3年の判決が下された事例です。
(2)モザイク処理された画像・動画はどのような場合に違法になるか
過去にモザイク処理された画像や動画についてわいせつ性が認められた事例を見ると、モザイクをかけていても、容易に復元して認識・閲覧ができる場合には「わいせつ」に該当すると判断されていると考えることができます。
たとえば、モザイク処理した動画配信に併せて、モザイク処理を除去できる手段を伝えたり、除去のためのツールを配布したりすると、「わいせつ物を頒布等した」と評価されるといえます。
技術の進歩により、モザイク除去技術が一般的になれば、モザイク処理した画像や動画も、一般的に「わいせつ」に該当すると評価されるようになる可能性があります。
3. まとめ
本コラムでは、モザイク処理をした画像や動画の投稿・拡散や入手等についてどのような犯罪が成立しうるかについて検討してきました。
モザイク処理がかかってさえいれば問題ないと考えていた人もいらっしゃったことと思いますが、実際にはモザイク処理がされていたとしても、画像や動画の頒布等が犯罪に該当することがあるとお分かりいただけたでしょう。
モザイクがかかっているから大丈夫と安易に判断しないようにすることが大切です。
- こちらに掲載されている情報は、2024年08月14日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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