横領罪の「時効」とは? 時効期間、起算点、刑事と民事の違いやリスクを解説
他人の所有物を自分のものにしてしまう「横領罪」は、一定の期間が過ぎると公訴時効が完成し、刑事訴追されることがなくなります。
本コラムでは、横領罪の公訴時効について分かりやすく解説します。
1. 横領罪は3種類|公訴時効期間は何年?
刑法上の犯罪には、法定刑などに応じた「公訴時効」が定められています(刑事訴訟法250条)。公訴時効期間が経過すると、検察官は犯人を起訴できなくなります。
※言い渡された刑の執行が免除される「刑の時効」(刑法31条)は、公訴時効とは異なるものです。
刑法で定められた横領罪には「単純横領罪」「業務上横領罪」「遺失物等横領罪」の3種類があり、それぞれ公訴時効期間が異なります。
(1)単純横領罪の公訴時効期間
「単純横領罪」は、自己の占有する他人の物を横領した者に成立する犯罪です(刑法252条)。
単純横領罪の要件である「自己の占有」は、物の所有者または所有者から授権された者の委託に基づくことが必要とされています。占有が委託に基づかない場合は、単純横領罪は成立せず、遺失物等横領罪の成否が問題となります。
「横領」とは、不法領得の意思を外部に発現する行為をいいます(最高裁昭和27年10月17日判決)。たとえば、他人の物の売却・贈与・質入れや、他人の金銭を使い込む行為などが横領にあたります。
単純横領罪の法定刑は「5年以下の懲役」であるため、公訴時効期間は5年です(刑事訴訟法250条2項5号)。
(2)業務上横領罪の公訴時効期間
「業務上横領罪」は、業務上自己の占有する他人の物を横領した者に成立する犯罪です(刑法第253条)。
業務上横領罪では、単純横領罪の要件に加えて、横領行為が「業務上」なされたことが要件とされています。
「業務」とは、委託を受けて物を管理する内容の事務です。たとえば、質屋・倉庫業者・会社のお金を管理する役員や従業員などは、物を業務上占有しているので、その物を横領した場合は業務上横領罪が成立します。
業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」であるため、公訴時効期間は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。
(3)遺失物等横領罪の公訴時効期間
「遺失物等横領罪」は、遺失物・漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者に成立する犯罪です(刑法254条)。単に「遺失物横領罪」と呼ばれることもあります。
遺失物等横領罪は、単純横領罪・業務上横領罪と異なり、所有者等から占有を委託されていない物について成立します。たとえば、道端で拾った物を自分のものにする行為などが、遺失物等横領罪の典型例です。
遺失物等横領罪の法定刑は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料」なので、公訴時効期間は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。
2. 横領罪の公訴時効期間の起算点
犯罪の公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行します(刑事訴訟法253条1項)。
横領罪の場合、不法領得の意思が外部に発現された時点で直ちに既遂となり、犯罪行為が終了します(したがって、横領罪には未遂がありません)。
たとえば、以下のような横領行為がなされた時点が「犯罪行為が終わった時」であり、公訴時効期間の起算点となります。
- 他人から委託を受けて占有している物を売却した時
- 他人から委託を受けて占有している物を、別の人に贈与した時
- 他人から委託を受けて占有している物を質入れした時
- 他人から委託を受けて占有している金銭を、自分の支払いに充てた時
- 落ちている物を拾って、自分の物にする意思でカバンに入れた時
など
3. 公訴時効が停止されるケース
犯罪の公訴時効は、公訴が提起された(起訴された)場合に停止されるほか、犯人が国外にいる期間や逃げ隠れていて起訴状の送達等ができない期間についても停止されます。
(1)公訴が提起された場合
公訴時効の進行は、犯罪について検察官が公訴を提起した際に停止します。ただし、管轄違いまたは公訴棄却の裁判が確定した場合は、公訴時効の進行が再開します(刑事訴訟法254条1項)。
共犯の一人について検察官が公訴を提起した場合、他の共犯との関係でも公訴時効の進行が停止します。この場合、起訴された共犯について裁判が確定すると、他の共犯との関係では公訴時効の進行が再開します(同条2項)。
(2)犯人が国外にいる場合・逃げ隠れていて起訴状の送達等ができない場合
犯人が国外にいる場合には、国外にいる期間、公訴時効の進行が停止されます(刑事訴訟法255条1項)。
また、犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達もしくは略式命令の告知ができなかった場合には、逃げ隠れている期間、公訴時効の進行が停止されます(同項)。
上記の場合において、検察官が被疑者を起訴する際には、公訴の提起後速やかに、これらの事由を証明すべき資料を裁判所に差し出さなければなりません(刑事訴訟法255条2項、刑事訴訟規則166条)。
4. 公訴時効が完成しても、民事上の時効は完成していないことがある
公訴時効が完成し、横領罪によって刑事訴追されることがなくなっても、民事上の時効は完成していないことがあります。
横領をした者は、物の所有者に対して以下の責任を負います。
- 不当利得の返還(民法703条、 704条)
- 不法行為に基づく損害賠償(民法709条)
不当利得返還請求権および不法行為に基づく損害賠償請求権は、以下の期間が経過すると時効により消滅します。
不当利得返還請求権 | 以下のうちいずれか早く経過する方(民法166条1項) (a)債権者が権利を行使できることを知った時から5年 (b)権利を行使できる時から10年 |
---|---|
委託物横領罪(単純横領罪) | 以下のうちいずれか早く経過する方(民法724条) (a)被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年 (b)不法行為の時から20年 |
特に、被害者が横領の事実や犯人を知るタイミングが遅れた場合には、横領罪の公訴時効が完成しても、民事上の時効が完成しておらず、返金や損害賠償を請求される可能性がある点にご注意ください。
5. 横領がバレる前にすべきこと
横領事件が捜査機関に発覚すると、刑事訴追されて重い刑事罰を受けるおそれがあります。
それを避けるためには、被害者に対して横領したことを自主的に申し出て、被害弁償を行うべきです。自発的な被害弁償が行われれば、仮にその後刑事告訴をされたとしても、不起訴となる可能性が高まります。
横領罪によって処罰されることが不安な場合や、刑事手続きの流れなどについて知りたい場合は、刑事事件対応を得意とする弁護士に相談しましょう。弁護士に相談・依頼すれば、重い刑事罰を回避するために刑事弁護を行ってもらえるほか、民事上の請求への対応についても一任できます。
出来心から横領をしてしまった方は、お早めに弁護士へご相談ください。
- こちらに掲載されている情報は、2024年10月07日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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