名誉毀損で訴える条件とは? 成立要件・証拠収集などのポイントを解説

名誉毀損で訴える条件とは? 成立要件・証拠収集などのポイントを解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

インターネット上における誹謗中傷などは「名誉毀損」にあたり、被害者は刑事告訴や損害賠償請求などを行うことができます。

本コラムでは、名誉毀損行為を理由に加害者を訴えるための条件について解説します。

1. 名誉毀損とは? 考えられる法的措置

「名誉毀損」とは、他人の社会的評価を下げるような言動をすることです。

名誉毀損は刑法上の「名誉毀損罪」にあたりうるほか、民法上の「不法行為」にも該当することがあります。したがって名誉毀損の被害者は、加害者に対して刑事上および民事上の法的措置をとることができます。

(1)刑事上の措置|名誉毀損罪による刑事告訴

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して他人の名誉を毀損する行為に成立する犯罪です(刑法230条)。名誉毀損罪の法定刑は「3年以上の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」とされています。

名誉毀損罪の被害者は、警察官または検察官に対して刑事告訴をすることができます(刑事訴訟法230条)。刑事告訴をすると、警察や検察による捜査が促され、犯人が検挙される可能性が高まります。

(2)民事上の措置|損害賠償請求・名誉回復措置請求

名誉毀損によって他人の社会的評価を下げることは、民法上の不法行為にも該当します。不法行為とは、故意または過失によって、他人の権利・利益を違法に侵害して損害を与える行為です。

名誉毀損の被害者は、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償(慰謝料など)を請求できます(民法709条、710条)。さらに、裁判所へ訴訟を提起して、加害者に対して名誉を回復するための措置(例:謝罪広告など)を命ずるように請求することもできます(民法723条)。

2. 刑法上の名誉毀損罪で訴えるための条件

名誉毀損の加害者が名誉毀損罪によって処罰されるためには、以下の条件をすべて満たさなければなりません。

(1)言動が公然と行われたこと

名誉毀損罪が成立するのは、言動が公然と行われた場合に限られます。

「公然と」とは、不特定または多数の人に向けた言動であることを意味します。クローズドな場でなされた言動であっても、不特定または多数の人に伝わる可能性を認識した上でなされたものであれば、名誉毀損罪が成立する余地があります。

(2)言動において何らかの事実が摘示されていること

名誉毀損罪が成立するためには、言動の中で何らかの事実が摘示されていることが必要です。事実の摘示がなければ、侮辱罪(刑法231条)が成立し得るにとどまります。

(例)

  • AはBと不倫している。
    →「不倫」という事実が摘示されている
  • Aはバカだ。
    →単に侮辱しているに過ぎず、事実は摘示されていない。

摘示する事実は、真実であるか虚偽であるかを問いません。ただし、死者に対する名誉毀損については、虚偽の事実を摘示した場合でなければ罰せられません(刑法230条2項)。

また後述のとおり、真実である言動については、公共の利害に関する場合の特例によって名誉毀損罪の成立が否定されることがあります。

(3)言動が自分の社会的評価を下げるような内容であること

名誉毀損罪の対象となるのは、被害者の社会的評価を下げるような言動です。実際に社会的評価が下がったことは必要なく、そのおそれがある言動であれば足ります。

(4)公共の利害に関する場合の特例の要件を満たさないこと

上記の条件をすべて満たしている場合でも、以下の条件をいずれも満たす場合には、公共の利害に関する場合の特例によって名誉毀損罪が不成立となります(刑法230条の2)。

  1. 言動が公共の利害に関する事実に係ること

  2. 言動の目的が専ら公益を図ることにあったと認められること

  3. 言動において摘示した事実が真実であることの証明があったこと

したがって、名誉毀損罪によって加害者が処罰されるためには、上記①~③の要件のうち、いずれかを満たしていないことが必要です。

なお、言動において摘示した事実の内容が真実であると加害者が誤信していた場合には、公共の利害に関する場合の特例の要件を満たしません。

ただし、誤信したことについて確実な資料・根拠に照らして相当の理由がある場合には、犯罪の故意が否定されて名誉毀損罪が不成立となります(最高裁昭和44年(1969年)6月25日判決)。

(5)公訴時効期間が経過していないこと

犯罪の公訴時効期間が経過すると、検察官は犯人を起訴できなくなります。

名誉毀損罪の公訴時効期間は、犯罪が終わった時(=名誉毀損にあたる言動がなされた時)から3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。この期間が経過すると、名誉毀損罪による起訴はできなくなるので、刑事告訴も受理されません。

3. 名誉毀損で損害賠償などを請求するための条件

名誉毀損を理由に、被害者が加害者に対して損害賠償や名誉回復措置を請求するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

(1)加害者を特定すること

警察や検察が加害者をすでに特定している場合を除き、民事上の損害賠償などを請求する際には、被害者が自ら加害者を特定しなければなりません。

匿名でなされた名誉毀損(SNS投稿や匿名掲示板への書き込みなど)について、投稿者を特定するためには「発信者情報開示請求」を行うことが考えられます。

裁判手続きにおいて名誉毀損を受けていることを疎明すれば、裁判所がサイト管理者やインターネット接続業者などに対して発信者情報の開示を命じ、投稿者を特定できる情報の開示を受けられることがあります。

(2)不法行為の要件を満たすこと

名誉毀損的な言動について不法行為が成立するのは、故意または過失によって被害者の権利・利益を違法に侵害して損害を与えた場合です。

刑法上の名誉毀損罪が成立する場合には不法行為にあたるほか、名誉毀損の故意がなくても、加害者に過失があれば不法行為が成立します。また、言動の中で事実が摘示されていなくても、被害者に精神的な損害を与えるような言動であれば、不法行為が成立する余地があります。

(3)損害賠償請求権の時効が完成していないこと

名誉毀損による損害賠償請求権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効により消滅します(民法724条)。

  • 損害および加害者を知った時から3年

  • 不法行為の時から20年

消滅時効が完成すると、名誉毀損による損害賠償請求はできなくなってしまいます。

損害賠償請求権の消滅時効完成を阻止するためには、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などの方法があります。

特に時効完成が間近である場合には、すぐに内容証明郵便を送付すれば、時効完成を6か月間猶予することができますので(民法150条1項)、猶予期間に訴訟提起などの準備を整えましょう。

4. 名誉毀損で訴えて損害賠償を得るには弁護士に相談を

名誉毀損の加害者に対して、損害賠償など民事上の請求をしたい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

名誉毀損やインターネットに関するトラブルに詳しい弁護士に相談すれば、加害者の特定や証拠保全、損害賠償に関する交渉や裁判手続きなど、幅広くサポートを受けることができます。

誹謗中傷の被害にお悩みの方は、お早めに弁護士へご相談ください。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

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