- (更新:2021年08月04日)
- 犯罪・刑事事件
良い示談と悪い示談 ~1歩進んだ示談の考え方~
「示談してくれますか?」
犯罪の疑いをかけられた方、あるいはそのご家族から、しばしば耳にする言葉です。刑事事件と言えば示談、というイメージは、一般の方もお持ちのようです。
一方で、その示談の効果については、よく知られていないように感じます。時に、弁護士にすすめられて、「良くない示談」を結ばされている方も見かけます。
そこで、今回は誰でも知っている示談について、私が本当は必要だと考える点を解説します。
1. 示談は効果を意識すべき
ターゲットにすべき効果は2つ、「不起訴」と「裁判における減刑」です。そうすると、不起訴を狙う上では検察官、減刑を狙う上では裁判官の考え方を踏まえないと、意味のある示談にはなりません。
2. 検察官に対して不起訴を働きかける時
検察官は、犯罪を起訴して裁判をするかどうかについて、裁量が認められています。そして、検察官が不起訴にする理由は、
- 犯罪の立証に必要な証拠が足りない「嫌疑不十分」
- 犯罪の証拠は十分だが前科をつけずに済ます「起訴猶予」
- 起訴には告訴が必要な親告罪だが、告訴が備わっていない「告訴欠如」
などがあります。
そうすると、名誉毀損や器物損壊のように、起訴に告訴が必要な親告罪では、今後告訴をしない、あるいは、告訴を取り下げてもらう示談をすれば、不起訴が絶対に獲得できることになります。ただ、大半は親告罪ではないため、「良い示談」をするためには以下のような考慮をしていくことになります。
(1)起訴猶予を狙えるかどうか判断する
親告罪でない事件では、まず起訴猶予が狙えるのかどうかを考えます。
この点は、後述する裁判段階での、科すべき刑の重さを決める考え方が、重要になります。
そして、「一度は罰を科さずに見逃しても良いだけの軽い犯罪」か、「示談にそれを認めさせるだけの回復効果を認められる犯罪類型」かといった点が、考慮要素になります。
特にその犯罪が、「個人の利益」よりは「社会の秩序を守ること」を重視してなされたものである場合、「個人が許すと言っているか」といった点をどのように評価するかについて、検察官によって個人差が出てくることもあります。
この場合、事件の担当になっている検察官のタイプを、やり取りの中で分析することも必要になってくるでしょう。
(2)嫌疑不十分しか狙えない時の注意点
逆に、起訴猶予が狙えない重さの事件においては、かなり注意が必要です。
この場合、いくらお金を積み上げようが、不起訴という効果は狙えないからです。しばしば誤解されていますが、ニュースになる性犯罪も、重さとしてはこちらの部類になるのが通常です。
刑事事件において犯罪の立証に必要な証拠とは、裁判で使えるものが揃っていることを意味します。そして供述証拠は、供述者本人が法廷で話すのが原則です。そのため、本人が法廷に行くのを拒否している場合は、立証が難しくなります。
また、性被害に関する話を、無理やり法廷に呼び出してまで証言させるのも、取るべき手段ではないでしょう。その結果として、裁判での立証が難しいとして、不起訴にすることがあるのです。
そうすると、いくら示談をしても、相手方が法廷での証言をかまわないと思っているなら、起訴の障害にはなりません。示談交渉の際にも、相手方の意思を良く確認し、裁判を望まない意思を持っていることは書面にもあらわれるようにしておくと良いでしょう。
また、犯罪の成立を否定する根拠がある場合、それに関する事実を確認しておくことが有益になる場合もあります。
3. 刑事裁判における示談の位置づけ
ここも大きな誤解がある点ですが、罪を軽くするための弁護において、示談はメインファクターではありません。刑事裁判で、量刑(懲役~年など)を決める際にも、ちゃんと法律の論理があります。この考え方を意識したものでないと、良い示談にはなりません。
(1)量刑の考え方
量刑を決めていく際、裁判官はまず「犯情」を考慮します。
犯情とは、犯罪行為そのものにあたる、「行為・結果・動機経緯といった要素に関わる事実」を指します。
そして、同じように人を傷つけた、同じように人に経済的損害を被らせた同種の犯罪の中で、悪質さが高いか低いかを考慮します。
この犯情で、おおまかな懲役の年数の幅が決まった後で、「一般情状」を考慮します。
一般情状とは、その人の素行や反省の程度などを指します。この一般情状で、犯情で決まった幅の中でどれくらいの刑にするかを確定させます。
(2)量刑に対する示談の位置づけ
それでは、示談は量刑を決めていく際に、どのような位置づけになるでしょうか?
基本的には、反省を示すものとして、一般情状に位置づけられることになります。そうすると、犯情が決めた幅を超えることはできません。これが、示談はメインファクターではなく、劇的に量刑を変えられるわけではない理由です。
ただし、たとえば犯罪による被害結果が経済的損失である場合、結果を直接回復させるため、示談での弁償に、犯情に等しい効果を認めるという論理が成り立つ場合もあります。
また、刑事裁判の当事者にとっては、刑務所に行くか執行猶予が付くかは大きな分岐点ですが、この分岐点においては、やはり示談が重要になることもあります。
4. 戦略的示談のススメ
以上のように、示談は、「起訴前なのか起訴後なのか」、「その事件においてどのような量刑が想定されるか」を考慮することが、本当は必要です。
正確に得られる効果を見立てられていれば、どの程度のコストを割くべきかを考えることもできます。
たとえば、不起訴は狙えるけど、起訴されても執行猶予は絶対付くという場合、示談の交渉期限を起訴までに区切るといったことも考えられます。
また、刑事裁判で劇的な効果が狙えない場合、民事的に相当な程度を金額のレンジに限定することも考えられます。逆に、このように一定の戦略を立てないと、厳密な相場のない示談交渉は、言われるがままになってしまう危険もあります。
示談が必要となる事件で当事者が晒されているリスクも、示談金でかかるお金も、決して軽いものではありません。やるならば、意味のある「良い示談」を、根拠をもって依頼される方々に提示すべきです。そのためには、結局のところ、刑事事件への理解が必要になってきます。
誰でも知っている示談であっても、弁護士の刑事事件に関する経験や専門知によって、差は出てきます。依頼者の利益に資する「良い示談」をお求めであれば、示談についても根拠をもって提案できる弁護士に依頼することをおすすめします。
- こちらに掲載されている情報は、2021年08月04日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
お一人で悩まず、まずはご相談ください
犯罪・刑事事件に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?