問題の原因を解明し執行猶予に導け ~示談だけではない情状弁護~
創作作品では、冤罪が疑われ、無実の人を救う姿が描かれることも多いです。しかし、世の中の大半の刑事事件は、罪があったこと自体は確かで、何とか刑務所にだけは行かないで済まないか、社会生活だけは保てないかと、弁護士に相談される方が多いです。
本稿では、罪を軽くする情状弁護活動のうち、ギリギリで執行猶予の可能性を問われる事案において、示談以外の、時には示談以上に有効な手段について解説します。またそのための前提知識として、執行猶予制度についてもはじめに解説します。もっとも、細かい仕組みの話が面倒な方は、3から読み始めても良いかもしれません。
1. 執行猶予には最低限の条件がある
執行猶予をつけるには、一定の条件があります。刑法25条のルールをざっくりと見てみましょう。
まず、今回の刑が懲役や禁錮3年以下でなければなりません。懲役4年や5年になると、どれだけ反省していても、執行猶予はつけられません。また、執行猶予期間中であったり、実刑になって刑務所から出てきてから5年以内の時も、執行猶予をつけられないのが原則になります。
そして、執行猶予期間中に犯罪を行った場合でも、保護観察中ではなく、今回の刑が懲役や禁錮1年以下であるなら、例外的に執行猶予をつけられます。これが、いわゆる「再度の執行猶予」というものです。その例外さは、「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という、法律に書かれた要件からも伺われます。
2. 次善の手段としての、特殊な執行猶予
執行猶予の中には、通常の執行猶予ではないものもあります。
弁護士の目線では、前述した執行猶予の獲得が難しい時には、こちらを獲得目標とすることもあります。特に法律上は通常の執行猶予が獲得可能である場合、弁護側から積極的に次善の手段を主張することはしにくいですが、裁判官が落としどころとしてこちらを選ぶことは頭の中で想定して裁判に臨むこともあります。
(1)一部執行猶予
刑のうち、一部について執行猶予とすることにより、刑務所にいる時間が短くなり早めに社会復帰ができる制度です。
刑法27条の2に法律上の要件が書かれています。また、薬物事犯の場合、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」により、得られる可能性が拡大されています。
弁護士目線では、通常の執行猶予が獲得可能ならそちらを目指すことになるため、実際には執行猶予期間中であって今回の刑について懲役1年以下が難しい時や、薬物事犯で直近に前科があったりはするものの懲役3年以下は見込める時に、獲得目標とすることがあります。
基本的には、薬物事犯で認められていることが多いですが、法律の制度としてはあらゆる犯罪類型について可能性があり、統計を見ると他の犯罪でも認められるのがわかります。
(2)保護観察付き執行猶予
厳密に言えば、保護観察付き執行猶予という類型があるわけではなく、1で述べた通常の執行猶予や①で述べた一部執行猶予に、保護観察というオプションも加えられたものになります。法律上、裁判所の裁量が認められるものと、絶対に保護観察をつけなければいけないものがあるのですが、再度の執行猶予及び一部執行猶予の場合は、保護観察もついてくると考えて良いです。
社会生活が送れる、あるいは早まるという点ではメリットなのですが、保護観察が執行猶予期間中付される分、国家の監督下にいる時間自体は長くなる点には注意が必要です。
基本的には、それでも刑務所にいるより圧倒的に自由であるため、認められた方が良いと考えられますが、施設内の方が安定した生活が送れるという人が現実に存在するのも事実であるため、ご本人によく理解してもらい、希望に沿う形で提案するようにしています。
3. つまるところ執行猶予はどういう時に出るのか
いろいろと法律上の仕組みを説明してきましたが、結局、何を訴えるとベストな形になるのかというのが、弁護士に依頼される方の関心事かと思います。
私も、あえてシンプルにお答えするとすれば、裁判官に「この人を信じてみよう」「もう一度チャンスをあげよう」と思ってもらえた時に、さまざまある執行猶予の形から、法律上可能なものを付してもらえると言えます。
そして、そのように思ってもらえるのには、問題を解明し、今後の再発防止のための措置が取られているかという点が重要になります。
4. 犯罪の原因はどこにあるかの原因解明
これは、類型化しきれるものがありません。同じ犯罪の中でも、人によって異なるものがあります。
窃盗のような財産犯でも、経済的困窮といった追い詰められた状況が理由の人もいれば、隠れて犯罪に及ぶ高揚感や成功への達成感が理由になる人(この場合、窃盗でなく盗撮などに流れることもあります)、いわゆるクレプトマニアと呼ばれる自らのコントロールが効かない人とさまざまです。
性犯罪においても、性的執着が強い人ばかりではなく、劣等感から女性子どもに力を誇示したい衝動にかられている人(この場合、レイプのような暴力性の高い犯罪には走りにくいです)、あるいは性的な距離感を全くつかめていないというケースもあります。
薬物事犯においても、「依存症」と一言でくくることもできますが、薬物を複数回使わなければならない背景までたどると、たとえば精神疾患への苦しみからの逼迫(ひっぱく)感と正しい解法が違法薬物しかないという誤解があったり、あるいはたまたま身体が薬物に親和的であったため、その危険度を低く見積もってしまっているなど、さまざまな思考があり得ます。
5. 原因が解明されれば、良い未来の姿が想像できる
刑事裁判は、そこで全ての問題を解決する手続きではありません。
刑事裁判で示された内容から、その人の未来を想像し、必要な手当てとして刑が科されます。そして原因解明までを済ませ、そこへの意識をした本人や関係者たちの姿が伝われば、刑務所に入らずともやっていける姿を想像しやすくなります。これらが、さまざまな執行猶予、法律上可能な範囲で社会生活を送ることができるという結論を支えます。
こうやって書いていると当たり前の話をしているようですが、多くの刑事裁判では、この原因解明の視点がおざなりのまま、法律違反への反省と監督が語られ、表面的なやり取りに終始しています。
それでも、犯罪の程度によっては、執行猶予自体は取れてしまうのですが、だいたい執行猶予がギリギリつくかという状態になっている人は、前科の時点で十分な手当てがなされていないことが多いです。そのため、原因解明に着目した情状弁護は、ちゃんと評価を得られるという実感があります。そして、その人の特性に着目した弁護を行うには、やはり人を理解する想像力や経験と、その人を理解して取り組もうとする熱意が必要になります。
ギリギリの中で執行猶予を得たい、あるいは家族が起こした問題を今回限りで終局的に解決したいというご希望があれば、刑事事件と犯罪の問題に習熟した弁護士に依頼するのが、オススメです。
- こちらに掲載されている情報は、2021年09月06日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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