為せば成る、為さねば成らぬの身柄解放~逮捕勾留:裁判所対応編~
「私は逮捕されるんですか!?」
犯罪の疑いをかけられた時、真っ先によぎる不安だと思います。実際、日々の相談を受けていても、逮捕されるのかという不安を抱えて相談される方は多いです。3日間の逮捕、そして20日間の勾留は、あらゆる犯罪について行うわけではなく、証拠をつぶす罪証隠滅と逃亡を防ぐために行うこと、その目的に比して勾留されることによる不利益が大きくなく「勾留の必要性」が認められることを条件として、裁判によって決定されることは、以前の基礎知識編(逮捕・勾留からの自由を勝ち取れ~身柄解放:基礎知識編~)で説明しました。
今回は、そのような逮捕・勾留のルールに基づいて実際に戦う手法として、裁判所との対応方法を、具体的なエピソードを交えながら紹介したいと思います。
1. 裁判所が身柄拘束に関与するタイミング
勾留は書面上の裁判によって決定され、書面上の裁判によってその効果の消滅を争われます。そうして裁判官の判断を求める機会は、起訴を決めるまでの捜査段階、そして起訴後の公判段階で多数あります。それぞれどのような手続きであるかを概観してみます。
(1)捜査段階の勾留決定、勾留延長、準抗告、勾留取消請求
①勾留決定
「勾留決定」は、一番初めに勾留するかを決める裁判です。逮捕前、あるいは逮捕直後に弁護士を雇っていた場合、ここから争うことができるのは、以前のコラムでも紹介した通りです。
②勾留延長決定
「勾留延長決定」は、元々10日間の勾留に対して、最大10日間の延長を認めるかを決める裁判です。捜査機関にとって、身柄拘束をしながら捜査を続ける必要がある場合に認められます。
③準抗告
「準抗告」とは、すでになされた勾留決定、勾留延長決定について異議を申し立てて、別の裁判官による判断を求めるものです。裁判実務も割れているところですが、勾留決定、勾留延長決定それぞれに対して準抗告が可能なことから、勾留決定に対する準抗告では罪証隠滅・逃亡・勾留による不利益の大きさを判断対象に、勾留延長決定に対する準抗告では捜査機関に身柄拘束での捜査を続ける理由があるかを判断対象にする、と考える裁判官もいるようです。この点の峻別(※厳しくけじめをつけること)がついていないと、裁判所がそもそも申し立てを受け取らないこともあるため、注意が必要です。また、準抗告は1回しかできないため、いつやるかのタイミングも重要です。
④勾留取消請求
「勾留取消請求」とは、最初に勾留を決定した1人の裁判官に、再度の判断を求める請求です。基本的には、別の結論を期待して別の裁判官に判断してもらえる準抗告を用いることの方が多いのですが、準抗告失敗後に再度の判断を求めたい時は、こちらの請求を用います。
たとえば、準抗告時にはなかった示談が成立した時、あるいは勾留満期ギリギリになって不起訴も確定した時などに、1日でも早く出られるよう求めていくといった場面が、特に想定されます。なお、厳密に言えば勾留取消請求は公判段階でも可能なのですが、起訴された後は保釈を用いないと身柄解放が認められないため、現実的ではありません。
(2)公判段階の保釈請求、準抗告又は抗告、そして保釈請求
保釈は起訴された後に初めて使える手段です。保釈保証金を担保とすることにより、逃げたら数百万円を無にする圧を受けることで、逃亡のおそれが減殺される結果、身柄解放を得やすくなります。この保釈の判断も、裁判の進み具合によりますが、準抗告又は抗告によって別の裁判官による判断を求めることができます。
もっとも、保釈の判断も一応裁判であるため、全く前提条件が同じ時には異なる結論が出せないと考えられていますが、一方で事情の変化さえあれば、何度でも新たな請求をすることは可能ですし、認められる可能性があります。元々の保釈請求で必要な要素はそろっていたのに裁判官が誤っていると考えるのか、追加の事情を踏まえて新たに判断してほしいのかによって、行う手続きを選択しても良いかもしれません。
いずれにしても、準抗告や抗告で負けたとしても、また新たに保釈を求める機会はあります。
2. 裁判官面談を活用せよ
これら複数ある手続きのたびに、裁判官と話す機会があります。私は、この裁判官面談を非常に大事だと考えています。まず、勾留自体が、実はかなり理論的な議論が多い領域であり、いつの事情をどの程度考慮できるのかについて、裁判官によって認識が違っていることもあります。
そういった理論的前提を擦り合わせておかないと、明後日の方向で申し立てをしてしまう可能性もあります。また、検察官が身柄解放への反論を書いてくる手続きもあるのですが、それを踏まえて、その場で再反論ができることもあります。
勾留を認めないにしても、なぜ認められないかのヒントを口頭で伝えたり、後から作成される決定文に反映してくれたりすることもあります。保釈保証金について、金額が少し少なく済んだことも、何度かありました。
正直なところ、中には何も話してくれない裁判官もいるのですが、一方で重要な話をしてくれる裁判官も上記のようにいるため、その機会をつかめるよう面談はすべきです。
3. 身柄解放は、諦めないのが肝心
勾留を争う段階は、何度もあります。それは、身柄解放に関わる判断材料が、刻々と変化していくからです。捜査が進み、あるいは裁判が進むにつれ、問題となる証拠が絞られ、罪証隠滅のおそれが減少していきます。
勾留を争う手続きをするたびに、裁判官と面談する中で、必要なアプローチのヒントを積み重ねることができることもあります。弁護側の裁判準備の中で、より提出できる資料が増えてきます。そして、これは本来あるべきことではないのかもしれませんが、評価が介在する問題であるため、担当する裁判官によって、微妙に判断がわかれてくるところもあります。そうして、トライし続けることにより、いずれは身柄解放が認められるタイミングが来るかもしれません。
このように、逮捕勾留からの身柄解放は、複数の手続きを為し続ける忍耐力も重要な仕事です。わずかな機会を逃さず、早期の社会生活への復帰を希望されるなら、裁判官と対話できる理論面を理解している、情熱を持った弁護士に依頼するのがオススメです。
- こちらに掲載されている情報は、2021年10月11日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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