大麻取締法の使用罪創設は問題を解決するのか?~ダメ絶対では防げないドラッグ~

大麻取締法の使用罪創設は問題を解決するのか?~ダメ絶対では防げないドラッグ~

昨今、刑事司法の法改正が定期的に話題になります。少年法が改正され、侮辱罪の厳罰化や性交同意年齢など、強制性交の規定を改正することを議論するための法制審議会が、2021年秋より始動しています。

そして今年、厚生労働省側で、規制を強化するかという手段も含めてより包括的に大麻や薬物への対応方法を検討されたのが、大麻規制法に大麻使用罪を創設するかというテーマです。大麻等の薬物対策のあり方検討会の報告書を読む限り、政府の方向性としては規制強化、使用罪創設に進んで行きそうに見えます。

そこで、今回は話題の大麻規制に絡んで、刑事事件や少年事件の現場に触れた弁護士の目線から考えているところを述べてみようと思います。

1. 違法ドラッグ使用罪の実態~立証が容易な使用罪~

違法ドラッグ事件では、実際に使っている現場を押えられることは少なく、基本的には怪しい行動をとる人間に対し捜査をしたところ、体内からドラッグ成分が検出されるといった形で事件化することが多いです。

そして、体内から検出されれば使用の立証は容易です。適法に体内に摂取される、本人の意図せぬところで摂取されることなど通常はなく、そのような特殊事情を被告人が積極的に立証しない限り、犯罪の成立は認められます。X月からY月にかけてのいつかで、A県かB県のどこかで、〇〇のドラッグを使用したという内容で、犯罪が認定されます。具体的な使用の場面がどうだったかとかは、良くわからないままでも有罪になります。使用したことは間違いないからです。

しかし、使用罪のない大麻ではこうはいきません。

2. 大麻取締法違反は、嫌疑不十分、嫌疑なしで終わることがしばしばある!

大麻を所持するというのは、ただ近くにいるということではなく、自分のものとして持っており管理処分できるということです。

そうすると、たとえば大麻を積極的に取得し持ち込む人がいて、その人に誘われて少し吸った家族や友人がいた場合、その家族や友人は「所持」にあたらない可能性がでてきます。使用罪があれば鑑定をするだけで立証できるのに、どういう経緯でそこに存在していて、誰がどの程度主体的に関わっていてを細かく立証する必要が出てきます。これは決して容易なことではありません。

一方で弁護側は仮に大麻に関与してしまっていたとしても、法律の適用という点からは反論できる余地があることになります。

私の体感としては、しばしば罪に問われずに終わることがあります。

3. そもそも処罰が問題解決につながるのか?

以上のような話を踏まえると、大麻使用者を処罰できていないなんてけしからんという話になるかもしれません。実際、持っていることが犯罪なのだから、使用することだけ禁止されないのはおかしいといった話が霞ヶ関での検討会でも出ています。法律の論理的一貫性としてはわからなくもないです。

ただ、犯罪として最終的に罰をくだすことにどれほどの効果があるか、私は疑問に思うところがあります。なぜなら、所持として最終的に処罰されるかはともかく、使用していれば捜査対象にはなり、しかもたいていの場合逮捕勾留もされ、約20日の身柄拘束下にも置かれることになるため、十分に一般人にとっての威嚇は存在しているからです。実際、最終的に所持に問われなかった人でも、使用と所持の区別といったところを意識していたわけではなく、むしろ大麻が違法な存在であることを分かった上で使用していたのを多々見てきています。

違法ドラッグは、一度親和性を抱いてしまうとその後も全くクリーンには戻れないところが問題とされ、利用してしまうこと自体を防ぐのが本当は必要なはずです。海外では違法としていない国もある大麻について、日本が取り締まる側の立場にあるのも、飛び石理論なりゲートウェイドラッグ理論なり、入口を塞ぐことが趣旨のはずです。刑事司法的には、十分に威嚇をしながら、なおも人々が大麻に触れてしまうところが、一番の問題ではないかと私は考えます。

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4. 「ダメ、絶対」のヴェールが、大麻の実態を隠してしまう

私は、大麻の問題で刑事事件の対象になってしまった人に、大麻とはどんな存在と認識するかをいつも質問します。実は、使っている人たちも良くわかっていないことが多いです。中には、自然由来で身体に良いといった誤った認識を持っている人までいます。ただ一方で共通して持っていると感じるのが「言うほど悪くないじゃん」というものです。

大麻の問題で難しいのは、この「言うほど悪くないじゃん」には、ある程度の真実が含まれているということです。もちろん、大麻は有害です。ただ、その有害さは覚醒剤や麻薬等の違法ドラッグ水準というよりは、アルコールやタバコに近いです。実際、宗教上の理由でアルコールを飲めない文化圏の人は、アルコールで得る感覚を求めてマリファナ・ハシシと母国で呼ばれる大麻を用いることもあるくらいです。

このような実態が、「ダメ、絶対」と法律で禁止されていることに抱いていたイメージとの間でギャップとなり、「言うほど悪くない」を超えて肯定的な評価に向かっていくのも、大麻が支持される理由の一つとして認識されています。

そのため、私は大麻の問題を扱う時、相手にまず等身大の大麻という存在について、その有害さを誇張なく理解できるよう試み、またアルコールやタバコとの比較を、書籍に基づき比較してもらったりしています。

5. 法は常に正しさを教えてくれるものではない

大麻の問題でさらに難しいのは、4で書いたような等身大の大麻をも理解して、確信犯的に、タバコやアルコールと同等なものを使って何が悪いのだと思っている人もいるということです。私は、そういう時はもう、日本では違法として取り扱うことに決めたので日本で生きるならその選択に現状従うしかない、違法なものを取引すれば犯罪組織を助長することになってしまうと言った点を説き、法規範に従うよう求めるしかなくなります。

しかしここまで来ると、法律をどう作るか、国としてどう選択するのかだけの話にも思えてきます。犯罪組織を助長してしまうのも現状では違法なもので、そのような人しか扱わないからではないか、だったら自然に生えている物を使えば問題ないんじゃないか、など自分の中で反論も浮かんできます。

近年ではタバコやアルコールについて、その使用が違法でなくとも抑制的な社会が出来上がってきています。それは、タバコやアルコールが持つ害を、社会が当たり前のものとして共有するようになったことにも一因があるのではないでしょうか。大麻とはどのようなものか、そこにどんな害があるかについて認識を共有し、「やっぱ大麻良くないよね」と自然に話すような社会、それもまた法規制とは異なる形で、大麻問題への対抗策にはなるかもしれません。

法は常に正しい答えを与えてくれるとは限りません。正しい社会の在り方についての考えがあり、それを実現するために法があるのが本来です。社会の在り方を決めるのは、皆さんです。大麻という異物についても、本当に存在が問題なら、どうあるべきかを考えてみたらいかがでしょうか。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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