【犯罪・刑事事件】刑事責任能力とは? 無罪との関係性
犯罪に当たる行為をした場合でも、刑事責任能力がないと認められれば、刑事裁判において無罪となります。
今回は、刑事責任能力に関する刑法のルールや、刑事責任能力鑑定(刑事精神鑑定)の概要などを解説します。
1. 刑事責任能力とは
「刑事責任能力」とは、犯罪の責任を負わせてよいだけの判断能力(責任能力)をいいます。
刑事責任能力がない状態(=責任無能力)でなされた行為は、罰することができません。刑事責任能力が著しく限定された状態(=限定責任能力)でなされた行為については、刑が必ず減軽されます。
規範の問題(罪を犯すことに関する抵抗)に直面しながら、あえて罪を犯す反規範的人格態度を非難するというのが、刑事責任(故意責任)の原則です。
責任無能力者は、犯罪に関する規範の問題に直面することがないため、刑事責任を課すべきでないとの価値判断があります。
限定責任能力者についても同様に、規範の問題に直面した際の抵抗感が働きづらいため、刑事責任を減軽すべきと考えられています。
刑法上、責任無能力とされているのは「心神喪失」と「14歳未満(刑事未成年)」、限定責任能力とされているのは「心神耗弱」です。
(1)心神喪失
責任無能力により不可罰
「心神喪失」とは責任能力が欠如していること、具体的には以下のいずれかの能力のうち、少なくとも一方を欠いていることを意味します。
- 弁識能力
行為の違法性を認識する能力です。 - 制御能力
違法性の認識に従って、自らの行動を制御する能力です。
<心神喪失の例>
- 重度の統合失調症を患っている場合
- 他人に大量のアルコールを飲まされ、酩酊(めいてい)状態に陥っている場合
など
心神喪失に陥っているかどうかは、以下の事情を総合的に考察して判断されます(最高裁昭和53年3月24日判決)。
- 病歴
- 犯行当時の病状
- 犯行前の生活状態
- 犯行の動機、態様
- 犯行後の行動
- 犯行以後の病状
など
心神喪失者による行為には、刑罰を科すことができません(刑法第39条第1項)。
(2)心神耗弱
限定責任能力により刑を減軽
「心神耗弱」とは、弁識能力と制御能力のうち、少なくとも一方が著しく限定されているものの、欠如してはいない状態です。心神耗弱者による犯罪行為については、刑が必ず減軽されます(刑法第39条第2項)。
心神喪失と心神耗弱のどちらに当たるかは程度問題であり、刑事裁判でもよく争点になります。
(3)14歳未満
責任無能力により不可罰
14歳未満の者(刑事未成年者)による行為には、刑罰を科すことができません(刑法第41条)。
刑事未成年者を処罰しないものとされているのは、刑法が目的とする犯罪予防の見地から、処罰を控えることが妥当であるという刑事政策的理由によります。
2. 刑事責任能力鑑定(刑事精神鑑定)とは
犯罪当時に心神喪失または心神耗弱であったか、または完全責任能力を有したかを判断する必要がある場合は、「刑事責任能力鑑定(刑事精神鑑定)」が行われます。
(1)起訴前鑑定と公判鑑定
刑事責任能力鑑定には、「起訴前鑑定」と「公判鑑定」があります。
①起訴前鑑定
検察官が被疑者を起訴するかどうかを判断するに当たって、刑事責任能力の有無を調べるために行われる鑑定です。半日から1日程度で行われる「簡易鑑定」と、2か月程度の鑑定留置期間を設けて行われる「起訴前本鑑定」の2種類があります。
②公判鑑定
公判手続き中に、裁判所の判断によって実施される鑑定です。
鑑定では、被疑者・被告人に対する行動観察やテストなどが行われ、その結果を踏まえて医学専門家が意見を述べる報告書が作成されます。
(2)鑑定はあくまでも参考資料
ただし重要度が高い
鑑定によって得られた報告書などの資料は、刑事手続きにおける参考資料に過ぎません。あくまでも起訴・不起訴の判断は検察官、公判手続きにおける判決内容は裁判所が、それぞれ自由裁量によって決定します。
しかし、検察官も裁判所も医学専門家ではないので、基本的には鑑定結果を尊重した判断を行うケースが大半です。そのため、刑事責任能力鑑定の結果は、被疑者・被告人の処罰を決定する上できわめて重要といえます。
3. 刑事責任無能力者が無罪となった後はどうなる?
刑事責任無能力者は、公判手続きにかけられたとしても無罪になります。
ただし、以下のいずれかの犯罪に当たる行為をした刑事責任無能力者については、原則として入院などの医療措置を受けさせる旨が決定されます(医療観察法※第2条第1項、第33条、第42条)。
正式名称:心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律
- 現住建造物放火罪
- 非現住建造物等放火罪
- 建造物等以外放火罪
- 強制わいせつ罪
- 強制性交等罪
- 準強制わいせつ罪、準強制性交等罪
- 監護者わいせつ罪、監護者性交等罪
- 殺人罪
- 自殺関与罪、同意殺人罪
- 傷害罪
- 強盗罪
- 事後強盗罪
※いずれも未遂犯を含む
医療観察法に基づく審理の手続きについては、弁護士が付添人としてサポートできます。精神障害者のご家族が犯罪に当たる行為をしてしまった場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
- こちらに掲載されている情報は、2023年04月27日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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