- (更新:2024年12月13日)
- 犯罪・刑事事件
緊急逮捕の要件とは? 現行犯逮捕との違いや逮捕後の流れを解説
突然、家族など身近な人物が緊急逮捕されたと連絡を受けた場合、何をすればよいのかわからず迷う人が多いのではないでしょうか。緊急逮捕の場合、勾留や刑事裁判になる可能性があるため、早めに対応する必要があります。
本コラムでは、緊急逮捕の概要やほかの逮捕との違い、対応方法について解説します。
1. 緊急逮捕とは
(1)「逮捕」とは
逮捕とは、犯罪を行った疑いのある人を拘束する刑事事件の手続きのひとつです。犯人の逃亡や犯行を証明する証拠隠滅を防ぐ目的で行われます。刑事訴訟法第199条第1項では、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」際に逮捕できるとしています。
ただし、あくまでも人から自由を奪う強制的な手段のため、警察など捜査機関だけの判断で逮捕を実施することは原則として認められていません。逮捕を行う際には、明確な現行犯を除いて裁判官が出す逮捕状を準備する必要があります。
(2)「緊急逮捕」とは
緊急逮捕は、事前に逮捕状を準備しなくても逮捕できる方法のひとつです。逮捕は、憲法の定めで裁判官が事前に発布した逮捕状を提示して行うことが原則ですが、緊急逮捕の場合は例外的に、逮捕理由を告げたうえで逮捕することが許されています
緊急逮捕のあとにはすぐに逮捕状の請求が必要です。請求後、要件が確実に満たされているか、逮捕理由に該当しているかなどを確認してから、問題が無かった場合に、裁判官から逮捕状の発布が認められます。もし逮捕状の発布が認められない場合、被疑者はすぐに釈放されます。
緊急逮捕については、以前は違憲ではないかという声もありました。日本国憲法第33条の、「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」に反するためです。しかし、過去の判例もあり、現在ではなんら問題がなく合憲だと解釈されています。
2. 緊急逮捕の要件
緊急逮捕を実施するには、刑事訴訟法 第210条にも定められている通り、
- 死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある
- 緊急を要し、裁判官に逮捕状を求められない
ことが要件です。
上記以外の理由、たとえば死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯していない場合は、緊急逮捕の実施は認められません。
(1)緊急逮捕できる罪名
緊急逮捕できる罪には以下のようなものがあります。
- 殺人罪(死刑または無期、5年以上の懲役)
- 現住建造物等放火罪(死刑または無期、5年以上の懲役)
- 不同意わいせつ罪(6月以上10年以下の懲役)
- 不同意性交等罪(5年以上の有期懲役)
- 傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)
- 傷害致死罪(3年以上の有期懲役)
- 窃盗罪(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
- 強盗罪(5年以上の有期懲役)
- 強盗致傷罪(無期または6年以上の懲役)
- 強盗致死罪(死刑または無期懲役)
- 詐欺罪(10年以下の懲役)
- 器物損壊罪(3年以下の懲役または30万円以下の罰金、科料)
※科料とは、1000円以上1万円未満の金額を支払わせる刑罰です。
緊急逮捕ができない罪名は以下の通りです。
- 脅迫罪(2年以下の懲役または30万円以下の罰金)
- 暴行罪(2年以下の懲役または30万円以下の罰金や拘留、科料)
- 軽犯罪法違反(拘留または科料)
(2)犯人と疑われる十分な理由がある場合
「犯人と疑われる十分な理由」とは、通常の疑い程度では生じません。警察官の主観的な考えだけをもとに疑いが生じている状況でも、緊急逮捕は行えません。客観的で明確な証拠がある場合や、被害者・目撃者の供述がある場合など、強い疑いがかけられる状況になってはじめて、「十分な理由がある」と認められます。
(3)急速を要するため、逮捕状を請求できない
逮捕状を事前に準備できないほど急を要する状況も、要件のひとつです。その場ですぐに逮捕しないと被疑者が逃亡してしまう、証拠を破壊されるなどのリスクが考えられる状況では、緊急逮捕による拘束が認められます。
3. ほかの逮捕との違い
逮捕には、緊急逮捕以外に「通常逮捕」と「現行犯逮捕」があります。それぞれの違いについて解説します。
(1)通常逮捕との違い
刑事訴訟法第199条第1項では、「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる」とされています。これに当てはまる逮捕を通常逮捕といいます。
緊急逮捕よりも要件が厳しくないため、犯罪行為を行ったことが相当程度疑われる状況や、被疑者の逃亡・証拠隠滅のおそれがある状況であれば逮捕を行えます。通常逮捕は、一部を除きほとんどすべての犯罪で可能です。
ただし、過失傷害罪や侮辱罪など、30万円以下の罰金や拘留、科料に該当する軽微な犯罪では、被疑者が無職や住所不定、もしくは正当な理由が無いにも関わらず任意取り調べの出頭に応じない状況でない限り逮捕状が発布されません。
(2)現行犯逮捕との違い
現行犯逮捕とは、犯罪を行っている最中もしくは犯罪を行った直後の人物を逮捕することです。逮捕状が不要で、司法警察職員などに限らず誰でも犯人の逮捕を行えます。さらに、逮捕状の請求も必要ありません。
ただし、通常逮捕と同様に、軽微な犯罪の際には、犯人の住所や氏名が不明、または犯人が逃亡するおそれがある場合以外での逮捕はできません。
緊急逮捕は、犯罪行為を行ったとされる十分な理由がなければできませんが、現行犯逮捕は、「犯人と犯罪行為が明確な場合」で「逮捕の必要性」がある状況であれば可能です。
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4. 緊急逮捕後の流れ
緊急逮捕のあとには、ほかの方法とは順番が前後しますが、逮捕状の請求・発布が必要です。逮捕状請求以外のほとんどの流れはほかと同じです。留置場に収容されている間に、もし逮捕状の発布が認められなかった場合、被疑者はそのまま釈放されます。
逮捕状が発布されたあとの流れは、警察署で弁解録取(取り調べなど)が行われ、48時間以内に検察へ送致(送検)、検察官の弁解録取を受けます。検察官が逮捕から72時間以内(送検後24時間以内)に勾留・釈放のどちらかを決めます。
検察官が裁判官に勾留を請求した場合、被疑者は裁判官の勾留質問を受け、その結果で勾留か釈放のどちらかに決まります。勾留が決定すると、最大20日の間身柄が拘束され、事件の捜査が行われます。勾留期間中の捜査結果により、検察官は、起訴・釈放のどちらかを決定します。
起訴された場合には刑事裁判にかけられ、判決を受けます。逮捕から弁解録取、勾留と、刑事裁判にかけられるまでには、最大で20日以上身柄を拘束されます。緊急逮捕は、比較的重罪の場合に行われるため、勾留されるリスクが高い点に注意が必要です。
ただし、事案によっては早期釈放を目指せるケースもあります。長期間の勾留は、仕事など日常生活に影響を及ぼすおそれもあります。勾留を防ぐには、早めの弁護士への依頼が肝心です。
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5. 家族が緊急逮捕されたら弁護士へ相談・依頼しよう
前述の通り、緊急逮捕には釈放されにくい特徴があります。家族が緊急逮捕された場合には、少しでも釈放の可能性を高めるために早めの対応が必要です。ただ、逮捕されてからの72時間は、弁護士以外との面会が許されていません。
もし誰からのアドバイスももらえずに弁解録取が行われると、何もわからないまま自身に不利な状況を作ってしまうおそれもあります。弁解録取前に弁護士への依頼を済ませて法的なアドバイスを受けることをおすすめします。
※弁解録取とは、逮捕された被疑者の弁解を聴く手続きのことをいいます。
刑事事件は対応が遅れてしまうと大きな不利益を被るケースもあります。早めに弁護士に依頼すれば、注意すべき点に関して、前もって適切なアドバイスが受けられます。さらに必要な証拠の収集や、裁判所などに被疑者の主張を伝えるといったさまざまなサポートを得られ、不起訴の獲得を目指せます。家族の緊急逮捕で生じる不利益の拡大を避けるためにも、早い段階で弁護士に相談するとよいでしょう。
- こちらに掲載されている情報は、2024年12月13日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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