私人逮捕という犯罪行為について弁護士が思うこと

私人逮捕という犯罪行為について弁護士が思うこと

昨今、私人逮捕という犯罪行為が横行しています。逮捕について例外的に認められた手段であったものが、収益目的と自己顕示欲の前に濫用されているところです。

私自身、犯罪行為を発見した時は、個人で通報するなどもしてきましたが、あまりに誤った私人逮捕への理解が広まっている様子を見て、逮捕という行為が許される前提としての重みを理解してもらうべく、本稿を執筆してみることにしました。

1. 逮捕は刑法の犯罪です

当たり前の大前提を確認しておきましょう。逮捕というのは、犯罪行為です。刑法に書いてあります。

刑法第220条
「不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。」

このように、逮捕というのは犯罪行為として、監禁と並んでいるものです。「監禁」が、特定の空間から出られないようにして場所的な移動の自由を奪う行為。「逮捕」が、直接的な強制作用を加えて場所的な移動の自由を奪う行為になります。それでは警察は犯罪をしているのか? と問われれば、私は表情を変えずに「そうですよ」と答えます。正確に言うと、犯罪行為にはなるんでしょうけどね。

警察のような捜査機関は、逮捕なり監禁にあたる行為を、刑事訴訟法という法律によって特別に許された存在です。法律に従っているから、「不法に」に該当せず、あるいは刑法35条「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」の効果として、犯罪にはなりません。しかし、そのためには刑事訴訟法に定められた手続きと前提条件を正しく守ることも要求されています。

2. 逮捕は刑事訴訟法の強制処分です

よく、「職務質問は任意の手続きだから~」といったセリフが、創作物でも出てきます。【任意】と【強制】の区別は重要ですが、そもそも任意というのは強制処分に至っていないものを指す言葉です。それでは強制処分とは何か。これは、類型的に人の権利を制約する度合いが強く、容易に許してはならない行為をくくりだすものです。強制処分にあたる場合、まず法律による権限付与という形で、国会(立法)から類型的な承認を得る必要が有ります。更に、具体的な場面において、その強制処分を行う必要が有ることについて、裁判所(司法)から令状という形でお墨付きを得る必要が有ります。

逮捕は、そのような強制処分の代表例です。各種ある刑事訴訟法上の行為の中でも、人権侵害の程度が大きいとされています。

3. 現行犯逮捕は、令状主義の例外です

2.のとおり、逮捕は本来、立法による事前チェックに加え、司法による事前チェックも経て行う必要が有るものになっています。しかし、事件が起きている現場で、目の前で犯罪が起きているような状況においても令状が必要とすると、犯罪を止めることもできず、また犯人を逃してしまうことにもなり、それは不合理な結果となります。

そこで、「犯罪があったこと」、そして「犯人であることが明白な犯罪直後の場面」において、現行犯人の逮捕を認めることにしました。また、そのような限定的かつ緊急の場面であり、しかも犯罪が起きたことが明らかで人違いといった誤りが起きない状況ということで、捜査機関以外の私人にも逮捕行為を許容しました。

しかし、もちろん緊急の措置であることから、逮捕行為が終わったら直ちに捜査機関に引き渡さないといけません。また、捜査機関だったら許される逮捕現場における捜索差押なども許容されていません。本当に「その瞬間」許可されただけの行為なので、緊急状態を逮捕によって解消したら、直ちに手続きを本来の担い手に戻しなさいということです。

なお、刑事訴訟法には明文で書かれていませんが、逮捕に際しては「逮捕の必要性」という要件をみたす必要が有る以上、例外的な措置である現行犯逮捕であっても、証拠隠滅を防ぐ・逃亡を防ぐ必要性のメリットが、身柄拘束によって生じる不利益を上回ってないといけないことになっています。逮捕は、72時間の拘束を認める、日を跨(また)ぐ拘束を認める重い効果が伴っている以上、それに見合った意味がなければならないはずなのです。

4. 逮捕のカジュアル化をやめろ ~ユーチューバーだけではない~

これまで解説してきたことは刑法や刑事訴訟法の基本であり、日本法は、これだけ重い意味合いを持って、犯罪行為であるはずの逮捕が解禁されているという作りになっています。そのため、あらゆる逮捕と称する行為は、刑事訴訟法に照らして適法なのかどうかを審査されるべきであり、捜査機関もユーチューバーたちが「私人逮捕」と称して人を連れてきたら、その後、本当の逮捕・現行犯逮捕が行われた時と同様の検察官に送致するような手続きを進めるのでない限り、まっとうな逮捕だとは評価していないわけですから、犯罪行為をした人間を捜査の対象にすべきです。逮捕のカジュアル化を許しては、捜査機関の、特別に暴力を許された立場が揺らぎます。

同時に、このような逮捕を軽んじるような人間が生まれた背景には、本来違法な逮捕を許してきた裁判所の怠慢もあると、私は弁護士として指摘したいです。2023年、富山県では、刑事罰を適用しないとまで明記された未成年同士の性行為について、警察による逮捕が行われてしまいました。事後的な言い訳をみても、とりあえず子どもたちの保護のために「逮捕」を使ってしまおうという安直さが露呈していました。これまで書いてきた、逮捕という行為への重みを、全く感じないカジュアル逮捕です。このようなことを公的機関が行い、裁判所が許容していて、ユーチューバーたちが逮捕をなめくさってしまっても、非難できるのでしょうか。

弁護士になって、一周回って私は、法学部時代の当たり前の原則を唱える必要を感じます。「逮捕は犯罪行為であり、例外的に認められる、重い措置である」と。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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