立てこもりは何罪になる? 実際の判例をもとに解説
家族が立てこもり事件を起こし、逮捕されてしまった場合、早急に対処する必要があります。
本コラムでは、立てこもりがどのような罪に該当し、どの程度の刑罰が科されるのか、実際の事例にも触れながら詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
1. 人質をとって立てこもった場合の罪
立てこもりはしばしばニュースをにぎわせる事件ですが、立てこもり行為そのものが犯罪として刑法に定められているわけではありません。ここでは人質をとって立てこもった場合に成立しうる罪を解説します。
(1)立てこもりとはどのような行為?
立てこもりとは、外から簡単に立ち入ったり見通したりできない場所に閉じこもること、またはその事件を指します。犯罪者が逮捕を免れようと立てこもる場合には、人質をとるケースも少なくありません。
(2)人質をとって何かを要求した場合
人質をとって立てこもり、第三者に対して何かを要求することがあります。たとえば、「人質を傷つけられたくなかったら逃走用の車を用意しろ」などと求めるケースです。この行為を刑法に定められた犯罪の枠組みから捉えようとすると、逮捕監禁罪と強要罪に該当します。
逮捕監禁罪(刑法第220条)の刑罰は3か月以上7年以下の懲役で、強要罪(刑法第223条第1項)の刑罰は3年以下の懲役です。逮捕監禁を手段として強要を行う場合、もっとも重い刑が適用されることになり、量刑の上限は懲役7年となります(刑法第54条第1項)。
しかし、これでは窃盗罪(10年以下の懲役)と比べても軽いことになり、人質をとる行為の危険性を考えるなら、バランスを欠く結果といわなければなりません。そこで、人質をとっての強要については、「人質による強要行為等の処罰に関する法律」という法律で別に罰則が定められています。
この法律によると、人質による強要は6か月以上10年以下の懲役となります(第1条第1項)。また、2人以上で共同し、凶器を示して強要に及んだ場合は無期または5年以上の懲役(第2条)、人質を殺害してしまった場合は死刑または無期懲役です(第4条第1項)。
2. 立てこもりの状況によって該当しうる罪
立てこもりは、その状況によって複数の罪に問われる可能性もあります。
(1)成立する可能性のある罪
①建物に立てこもっている場合
不法侵入であれば建造物侵入罪(刑法第130条前段)が成立します。また、退去を求められているにもかかわらず出ていかないことから、不退去罪(同条後段)も成立すると考えられます。罰則は3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
②ナイフなどの凶器を所持していた場合
銃刀法違反(銃刀法第22条)にも該当します。罰則としては、2年以下の懲役または30万円以下の罰金です(同法第31条の18第2項第2号)。
③人を傷つけた場合
立てこもりに特有の罪ではありませんが、人を傷つけたのであれば傷害罪(刑法第204条)や殺人罪(同法第199条)といった罪が成立することもあります。前者の罰則は15年以下の懲役または50万円以下の罰金、後者の罰則は死刑または無期もしくは5年以上の懲役です。
(2)立てこもりの事例
立てこもりについて、実際の事例をいくつか紹介します。
①バス立てこもり事件
平成24年には千葉地裁で、路線バス立てこもり事件を起こした男性に対し、懲役5年の判決が言い渡されました。これは、路線バスの車内で女性乗客にナイフを突きつけ、女性乗客とバスの運転手を人質にとり、約40分のあいだ監禁した事件です。
出典:日本経済新聞「バス立てこもり男に懲役5年の判決 千葉地裁」②アパート立てこもり事件
令和5年には金沢地裁で、自宅のアパートに立てこもった男性に対し、懲役1年2か月の判決が言い渡されました。これは、窃盗未遂事件の捜査として自宅を訪れた石川県警の捜査員3名に対し、包丁を向けて大声で脅迫した事件です。男性は、公務執行妨害罪の容疑で逮捕されました。
出典:NHK「立てこもり公務執行妨害の被告に懲役1年2か月の実刑判決」③インターネットカフェ立てこもり事件
令和4年にはさいたま地裁で、インターネットカフェの個室に立てこもった男性に対し、懲役20年の判決が言い渡されました。これは、インターネットカフェの女性従業員を個室内へと誘い入れた上で約32時間にわたって監禁し、首や顔に約2週間のけがを追わせた事件です。長時間の監禁の悪質性が、重い刑罰につながったと見られます。
出典:埼玉新聞「恐怖32時間…女性人質、男に懲役20年 弁護士「男が自殺図った時、監禁解かれた」裁判長が否定「当然」」3. 立てこもり事件を起こしたら弁護士に相談を
身内などが立てこもり事件を起こし、複数の罪に問われてしまった場合、刑罰が重くなる可能性もあります。たとえば、それぞれの罪が別個独立に成立する併合罪として処理されたのであれば、最も重い懲役刑または禁錮刑の1.5倍として刑罰が科されるリスクが考えられます。つまり、懲役10年の罪が含まれていたとすると、懲役15年になってしまうということです(刑法第47条)。
このような複数の犯罪が成立する可能性があるケースでは、加害者としての対応も難しくなります。たとえば、被害弁償の金額をどの程度にするか、人質になった被害者との示談交渉をどのように行うかといった問題をスムーズに解決することは、一般人には困難です。
そこで、弁護士に相談することで被害者との和解や、賠償金額の減額といったメリットを得られやすくなります。また、不起訴処分や刑の減軽も目指すことが可能です。
立てこもりは、場合によってはかなり重い刑罰が科されることもある犯罪です。家族が立てこもり事件を起こしてしまったときには、早めに弁護士に相談することが大切です。
- こちらに掲載されている情報は、2024年05月07日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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