自営業者と離婚…子の養育費をどう計算する? 履行確保の手段も解説

自営業者と離婚…子の養育費をどう計算する? 履行確保の手段も解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

子どものいる夫婦が離婚する場合、養育費の金額を決める必要があります。

養育費の金額は、夫婦の年収や職業を目安に決めますが、自営業者の場合、養育費の金額はどう計算すればよいのでしょうか?

本コラムで、自営業者と離婚する場合の養育費の計算方法、不払いに備えた履行確保の手段について解説します。

1. 離婚した場合の養育費は年収をもとに決まる

子どもがいる夫婦が離婚する場合、子どもの養育費を定めなければならないことは法律上規定されています(民法766条)。

養育費は夫婦の協議で自由に決めることができるため、夫婦がお互い納得すれば、相場より高い金額にしても低い金額にしても問題ありません。協議が調わない場合は「離婚調停」、調停が成立しない場合は「離婚訴訟」で裁判官によって養育費について決められます。

いずれの場合も、金額の目安として利用されるのが、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」です。

「養育費・婚姻費用算定表」は、標準的な養育費・婚姻費用を簡易迅速に算定するために作成された早見表で、「両親双方の年収」を基準として算定されています。

子どもの年齢・人数に応じて分かれている表から適切な表を選択すれば、「両親双方の年収」に応じて、養育費の金額の目安を簡単に計算することができるのです。

参照:「養育費・婚姻費用算定表

2. 自営業者の年収の計算方法|養育費の計算で損しないために

会社員(給与所得者)の場合、源泉徴収票の「支払金額」欄を確認すれば簡単に収入を把握することができます。その一方で、自営業者の場合は税法上の修正を考慮して、年収を計算しなければなりません。

では、自営業者の年収はどうやって計算すればよいのでしょうか? 養育費の計算で損をしないために、自営業者の年収を正確に計算する方法を解説します。

(1)確定申告書を確認する

まずは「確定申告書」を確認します。「確定申告書」の「課税される所得金額」欄に記載されている金額を基準にしますが、「自営業者の年収」と「課税される所得金額」はイコールではありません。ここに「社会保険料控除以外の所得控除の額」を加算する必要があるのです。

加算対象になる「社会保険料控除以外の所得控除」は、「実際の支出を伴わないもの」「養育費の計算上既に考慮されているもの」「養育費よりも優先度が低いもの」の3つの項目に分類されます。詳しくは以下のとおりです。

    ①実際の支出を伴わないもの

  • 雑損控除
  • 寡婦、寡夫控除
  • 勤労学生控除
  • 障害者控除
  • 配偶者(特別)控除
  • 基礎控除
  • 青色申告特別控除
  • ②養育費の計算上既に考慮されているもの

  • 医療費控除
  • 生命保険料控除
  • 地震保険料控除
  • ③養育費よりも優先度が低いもの

  • 小規模企業共済等掛金控除
  • 寄付金控除

その他にも、節税のために親族を雇ったことにして実際には給与を支払っていないようなケースでは「専従者給与(控除)」のうち、実際には支払っていない金額を加算する必要があります。

このように、自営業者の年収は、確定申告書に記載されている「課税される所得金額」に「社会保険料控除以外の所得控除の額」を加算することで計算できるのです。

(2)帳簿や預金通帳を確認する

(1)の段階でも十分に自営業者の年収を計算することはできますが、念のために帳簿や預金通帳を確認することをおすすめします。

なぜなら、自営業者は事業との関連性が低い出費も経費として計上しているケースがあるからです。事業で関係のない出費が多くなるとその分年収も少なくなり、結果として養育費の金額が本来もらえるはずだった金額よりも少なくなってしまいます。

養育費の算出で損をしないためにも、帳簿や預金通帳の入出金履歴を詳しく調べるようにしましょう。

3. 養育費の不払いに備えて…履行確保の手段

自営業者の配偶者の年収を正確に計算し、適正な金額で養育費の取り決め、協議離婚をしても、養育費が支払われない場合もあります。

それに備える方法として、「公正証書」を作成しておくことが重要です。公正証書の内容と、実際に養育費の不払いが起きた場合の対応方法を解説します。

(1)公正証書を作成しておく

「公正証書」は、公証役場で「公証人」といわれる公務員に作成してもらえる公文書のことで、以下の3つの特徴があります。

  • ①証拠力が高い
  • ②紛失・改ざんを防げる
  • ③執行力がある

①証拠力が高い

公正証書の作成時には当事者の立ち会いが必要であること、そして公証人が職務上作成した文書であることから、公正証書には私文書(離婚協議書など)よりも高い証拠力があります。

そのため、たとえば養育費についてもめて裁判に発展した場合、公正証書を証拠として提出すれば、自分の主張を裁判官に認めてもらえる可能性が高いでしょう。

②紛失・改ざんを防げる

離婚協議書は、自宅に保管すると紛失や改ざん(内容を勝手に書き換えられること)のリスクがあります。一方、公正証書は公証役場で原本を20年間保管してもらえるため、紛失や改ざんのリスクがありません。

③執行力がある

債務者が債務を履行しなかった場合に強制執行(強制的に金銭を回収する)ができる効力のことを「執行力」といいます。通常、裁判を経なければ強制執行の手続きを行うことはできません。

しかし、公正証書に強制執行認諾文言(例「養育費の支払い義務者が義務を怠った場合は、強制執行を受けることに同意した」)を付けている場合は、裁判を行わずに、公正証書を債務名義(民事執行法第22条5号)として強制執行をかけることができます。

(2)不払いが起きたら強制執行をかける

前述のとおり、強制執行認諾文言付きの公正証書があれば、直ちに強制執行の手続きを行うことが可能です。

強制執行の手続きは、以下の流れで進みます。

  1. 地方裁判所へ申し立てる
  2. 差し押さえ命令が発令される
  3. 差し押さえる

ただし、申し立てるためには強制執行の対象にする財産の情報(たとえば預貯金なら金融機関名)を把握していなければなりません。そこで利用されるのが「財産開示手続」です。

「財産開示手続」は、裁判所が債務者を呼び出して自分の財産情報を陳述させる手続きで、これにより債権者は債務者の財産の情報を得ることができます。

財産開示手続は、令和2年4月1日の民事執行法改正前はあまり意味のない手続きだといわれていました。従来では、債務者が呼び出しに応じない場合などの罰金が少ないことから債務者が出頭せず、財産情報を得ることができずに強制執行を行えないケースが多かったためです。そこで、改正によって以下の変更が行われました。

  • ①財産開示手続に応じない場合の罰則が強化
  • ②公正証書に基づく申し立てが可能に
  • ③第三者からの情報取得手続が可能に

①財産開示手続に応じない場合の罰則が強化

財産開示期日に出頭しない場合やうその陳述をした場合、従来であれば30万円以下の罰金が科されるだけでしたが、改正後「6か月以下の懲役」または「50万円以下の罰金」という罰則に強化されました。

②公正証書に基づく申し立てが可能に

従来、「公正証書」は財産開示手続ができる債務名義の対象外でしたが、改正により公正証書に基づく申し立てができるようになりました。

③第三者からの情報取得手続が可能に

改正により、預貯金については金融機関から、不動産については登記所からというように、第三者から情報を取得できるようになりました。

以上の改正により、債務者の財産情報を得やすくなったことで、強制執行をして養育費の未払い分を回収できるケースが今後増えていくことが期待されます。そのため、養育費の支払いが滞ったとしても未払い分の回収を諦めず、ぜひ強制執行をご検討ください。

また、自営業者の年収の計算に不安な場合や公正証書の作成をする場合、強制執行を検討する場合には、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

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