【熟年離婚】年金分割の方法と手順、注意点について解説
子どもも自立し、そろそろ配偶者と離婚をしたいと考えたときに不安になるのが、老後のお金のことではないでしょうか。
本コラムでは、年金分割の具体的な手続きや手順について解説します。
1. 年金分割の基本
熟年離婚をするとき、離婚後の生活のためにも「年金分割」をすることが大切です。
なぜ熟年離婚をするときに年金分割をする必要があるのでしょうか。熟年離婚とは何か、年金分割制度とはどういうものなのか解説します。
(1)熟年離婚とは
熟年離婚には明確な定義があるわけではありません。一般的には、長年結婚生活を続けた夫婦が離婚することを「熟年離婚」といい、具体的には婚姻期間が20年以上のケースが多いようです。
熟年離婚の場合は子どもがすでに独立しているケースや養育の必要がない年齢になっているケースが多いため、親権や養育費などの離婚条件でもめない場合が多いという特徴があります。
その一方で、離婚後の生活を考えて財産分与や年金分割などの金銭に関する離婚条件についての取り決めをしっかりと行うことが大切です。
(2)年金分割制度とは
「年金分割制度」とは、離婚した場合に夫婦の婚姻期間中の年金保険料納付額に対応する厚生年金記録を分割して、それぞれの年金にする制度のことです。年金分割できるのは「厚生年金」に限り、また将来受け取れる年金を分けることはできません。
熟年離婚で長年専業主婦(夫)だったというケースでは特に、年金分割をしないと将来受け取れる年金の金額が減ってしまうため、離婚後の生活のためにも、年金分割制度を利用することが大切です。
2. 年金分割の方法には2種類ある|合意分割・3号分割
年金分割の方法は「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
それぞれの違いと年金分割の流れを解説します。
(1)合意分割と3号分割
合意分割と3号分割の違いは以下のとおりです。
合意分割 | 3号分割 | |
---|---|---|
請求ができる人 | 夫婦の双方またはどちらか | 第3号被保険者 |
合意 | 必要 | 不要 |
按分割合 | 上限50% | 一律50% |
対象になる離婚 | 2007年4月1日以降 | 2008年5月1日以降 |
分割対象になる期間 | 婚姻していた期間 | 2008年4月1日以降第3号被保険者だった期間 |
※按分割合は、当事者双方の対象期間標準報酬額の合計額の分割を受ける側の持分のことです。
(2)年金分割の流れ
年金分割の流れは以下のとおりです。
-
情報通知書の請求・入手
-
(合意分割の場合)年金分割の協議
-
年金事務所への申請
-
標準報酬改定通知書の受領
①情報通知書の請求・入手
まずは、年金分割の割合を決めるための情報を入手するために、年金事務所に対して「情報通知書」の請求手続きを行います。情報通知書は、離婚の前後どちらのタイミングでも請求可能です。
「年金分割のための情報提供請求書」と共に以下の書類を添えて提出しましょう。
- 基礎年金番号、またはマイナンバーを明らかにすることができる書類
- 婚姻期間等を明らかにすることができる書類
提出の約1週間後、日本年金機構から「情報通知書」が送られてきます。夫婦が一緒に請求した場合はそれぞれに送付されますが、離婚前に1人で請求した場合は相手方には送付されません。
②(合意分割の場合)年金分割の協議
情報通知書に記載された情報をもとに年金分割についての協議を夫婦で行い、取り決めた内容を書面にします。できれば、書面は公証人が作成する公文書である「公正証書」にしておくことがおすすめです。
協議が決裂した場合、「調停」や「審判」で決める必要があります。
「調停」は調停委員や裁判官の仲介のもと、アドバイスを受けながら当事者で話し合って争いを解決する制度です。「調停」で合意できなければ「審判」に移行し、裁判官によって年金分割割合に関する審判が下されます。
③年金事務所への申請
年金分割の割合が決まると年金事務所への申請を行いますが、いつでも申請できるというわけではありません。年金事務所への年金分割申請は「離婚成立後」に行うことができます。
合意分割の申請時に必要な書類は以下のとおりです。
- 標準報酬改定請求書
- 基礎年金番号、またはマイナンバーを明らかにすることができる書類
- 婚姻期間等を明らかにすることができる書類
- 請求日前1か月以内に交付された2人の生存を確認できる書類(それぞれの戸籍謄本など)
- 年金分割の割合を明らかにすることができる書類(公正証書など)
- 本人確認ができる書類(運転免許証など)
3号分割の申請時には以下の書類を用意しましょう。
- 標準報酬改定請求書
- 基礎年金番号、またはマイナンバーを明らかにすることができる書類
- 婚姻期間等を明らかにすることができる書類
- 請求日前1か月以内に交付された相手方の生存を確認できる書類(戸籍抄本など)
④標準報酬改定通知書の受領
必要書類を提出してから約2〜3週間後に、標準報酬改定通知書(厚生年金の標準報酬が改定された年金記録が記載された通知書)が日本年金機構から通知され、これを受領すれば年金分割手続きは完了です。
3. 【ケース別】年金分割の計算方法
年金分割の計算のためには、情報通知書に記載されている「対象期間標準報酬額」と「按分割合の範囲」を確認する必要があります。
「専業主婦(夫)の場合」と「共働きの場合」の年金分割の計算方法を、具体的な例と共に解説します。
(1)専業主婦(夫)の場合
夫が専業主夫で、妻が会社員のケースを例に年金分割の計算方法をみていきましょう。
ケース①
夫の対象期間標準報酬額:0円
妻の対象期間標準報酬額:6000万円
按分割合:50%
まずは、夫と妻の対象期間標準報酬額の合計額を計算します。
0円+6000万円=6000万円
次に、按分割合50%で分割後のそれぞれの対象期間標準報酬額を計算しましょう。
夫:6000万円×0.5=3000万円
妻:6000万円×0.5=3000万円
最後に、分割後の夫婦の老齢厚生年金額を計算して年金額を算出します。
夫:3000万円×5.481÷1000=16万443円
妻:3000万円×5.481÷1000=16万443円
5.481とは、老齢厚生年金額を算出するために国が定めた係数(給付乗率)です。年齢や加入期間によって異なります。
今回のケースでは、年金分割によって双方の年金額が16万443円になりました。
(2)共働きの場合
今度は共働きのケースを例にみていきましょう。
ケース②
夫の対象期間標準報酬額:6600万円
妻の対象期間標準報酬額:1500万円
按分割合:50%
まずは、夫と妻の対象期間標準報酬額の合計額を計算します。
6600万円+1500万円=8100万円
次に、按分割合50%で分割後のそれぞれの対象期間標準報酬額を計算しましょう。
夫:8100万円×0.5=4050万円
妻:8100万円×0.5=4050万円
最後に、分割後の夫婦の老齢厚生年金額を計算します。
夫:4050万円×5.481÷1000=22万1980円
妻:4050万円×5.481÷1000=22万1980円
今回のケースでは、年金分割をしたことで双方の年金額が22万1980円になりました。
4. 熟年離婚における年金分割の注意点
熟年離婚の際、年金分割だけでは生活が苦しくなるケースがあります。たとえば、前述の専業主夫の年金分割の例では年金額が16万443円になりましたが、月額にすると毎月受け取れる金額は1万3370円です。これだけで生活をしていくのは難しいのではないでしょうか。
また、配偶者が自営業者で厚生年金に加入していない場合は、年金分割自体を行うことができません。
そのため、熟年離婚後の生活を考えると、年金分割だけではなく「財産分与」を行うことが重要です。
また、年金分割には請求期限があります。離婚の翌日から2年を経過すると、年金分割の請求ができなくなってしまうのです。
年金分割を行うためには、前述のとおり配偶者との話し合いを行い、それが決裂すれば調停や審判を行わなければならず、どうすればいいのか困っている間に請求期限を過ぎてしまう場合もあります。
そんなとき、弁護士からのサポートを受け配偶者との交渉を任せることで、ご自身で行うよりも円滑に年金分割の手続きを進めることが可能です。また、調停や審判になった場合の手続きも弁護士に任せることができます。
年金分割についてお困りの際や熟年離婚にお悩みの際には、なるべく早く離婚問題の解決実績がある弁護士に相談するようにしましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2024年10月28日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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