親権争いで母親が負ける場合とは? 親権を決める基準について

親権争いで母親が負ける場合とは? 親権を決める基準について

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

離婚時に親権争いが起きると、一般的に、母親に親権が渡るというイメージを持つ方が多いでしょう。実際、父親と比べると母親が親権者になるケースが多い傾向にあります。では、親権争いで母親が負けるケースにはどのようなものがあるのでしょうか。

本コラムでは、親権争いで母親が負けるケースや親権を決める基準について解説します。

1. 親権争いで母親が負けるケース

親権争いで母親が負ける可能性が高いケースについて解説します。

(1)母親が虐待や育児放棄(ネグレクト)をしている

母親が子どもに暴力や暴言を行っている場合や、食事を与えない、医療機関を受診させないなどの育児放棄を行っている場合は、子どもの健全な成長に悪影響を与える可能性があります。

そのため、虐待や育児放棄をしている母親は、親権争いで負ける可能性が高いでしょう。

(2)母親が精神疾患などの重大な病気を患っている

母親が精神疾患などの重大な病気を患っている場合は、子どもの監護・養育を行うことは難しくなるため、親権争いで負ける可能性があります。

(3)父親に育児を任せていて、母親の監護実績がない

親権獲得の判断基準のひとつが「監護・養育の実績」です。いかに子どもの監護実績を作っていたかが親権争いのポイントにもなるため、父親に育児を任せきりにしていた場合、母親に親権が渡らない可能性が高いでしょう。

(4)子どもが父親と暮らすことを望んでいる、すでに一緒に暮らしている

子どもがある程度の年齢になると、「どちらの親と暮らしたいか」という子どもの意思が尊重されるようになります。

そのため、子どもが父親と暮らすことを望んでいる場合や、すでに別居中で子どもと父親が一緒に暮らしている場合、親権争いで母親が負ける可能性が高いでしょう。

2. 親権を決める際に考慮されること

親権争いが離婚調停や裁判にまで発展した場合に、親権決定において裁判所に考慮されることを解説します。

(1)継続した監護・養育の実績がある(継続性の原則)

裁判所は、子どもの生活環境の安定性・継続性を重視します。そのため、監護・養育を主に行ってきた親に親権が認められる可能性が高いです。

(2)母性優先の原則

子どもが乳幼児の場合、親権者には母性を発揮できる母親が優先されるという原則を「母性優先の原則」といいます。

ただし、子どもが乳幼児の場合であっても、母親が育児放棄(ネグレクト)をしていて、父親の方が育児を積極的に行っていたようなケースでは、父親に親権が渡る可能性が高いでしょう。

(3)兄弟不分離の原則

「兄弟不分離の原則」とは、子どもが2人以上いる場合、兄弟は分離せず同一親権者の下で養育する方が望ましいという原則です。

それまで一緒に生活してきた兄弟は、精神面や情緒面でのつながりが強く、分離によって悪影響が生まれる可能性を防ぐために、この原則があります。

(4)子どもの意思の尊重

「どちらの親と暮らすか」という選択の場面で、子どもの意思は尊重されるべきでしょう。しかし、まだ幼く意思表示ができない場合や判断能力に欠ける場合があるため、全ての子どもの意思を尊重するわけにはいきません。

裁判所で子どもの意思が尊重される年齢は「15歳」からです。15歳以上の子どもについては、裁判所が親権者を定めるにあたって、子どもの意見を聴取しなければなりません。ただし、判断能力があると判断されれば、10歳前後の場合であっても意思を尊重してもらえる場合もあります。

(5)面会交流への積極性

親権者(あるいは監護権者)になって子どもと一緒に暮らしていきたい親が、子どもと非親権者(あるいは非監護権者)になった親との面会交流に積極的かどうかも、親権者を決めるときの重要なポイントです。

面会交流は、子どもが離婚後も両方の親からの愛情を感じることができる大切な機会でもあります。「離婚後も会いたい」という子どもの気持ちを尊重できるかどうかが、親権者を決める大切な判断基準のひとつになるのです。

(6)祖父母が近くにいるなど、育児のサポート体制がある

1人で子どもを育てていく中で、他者の助けが必要になってくる場面もあります。

たとえば、どうしても仕事を早退できない日に幼稚園から電話があり、「具合の悪くなった子どもを迎えにくるように」と言われることは決してまれなことではないでしょう。そのようなとき、祖父母が近くにいるなどサポートを受けやすい体制が整っていると、親権決定時に有利になることがあります。

このように、親権者を決めるときにはさまざまな要素が考慮されて判断されることになりますが、最も重視されるのは「子どもの幸せ(福祉)」です。親権争いで負けないためには、「自分が親権者になった方が子どもの幸せにつながる」とアピールする必要があります。

そのために、監護・養育を積極的に行い、その様子を母子手帳や育児日記、写真などで記録しておきましょう。また、面会交流を積極的に認めることも大切です。

3. 離婚前に別居をする場合は注意が必要

離婚前に子どもを連れて別居をする場合は、「連れ去り」とされて親権争いで不利になる可能性もないわけではありません。

では、連れ去りに該当するのはどのようなケースなのでしょうか。連れ去りにならないための条件についてもみていきましょう。

(1)「連れ去り」に該当するケース

離婚前の行為で、連れ去りに該当するケースは、以下のとおりです。

  • 親権争いが起きている中、勝手に子どもを連れ出す
  • 抵抗している子どもを無理やり連れて行く
  • 保育園や幼稚園、小学校などで待ち伏せして子どもを無理やり連れて行く

このように、配偶者の意思や子どもの意思に反して無理やり連れて行く行為は、連れ去りに該当する可能性がでてきます。

(2)「連れ去り」にならないための条件

離婚前の子ども連れでの別居が、連れ去りにならないための3つの条件を解説します。

  1. 配偶者の同意を得る
  2. 監護者指定調停を行う
  3. 正当な理由がある場合に連れ出す

①配偶者の同意を得る

子ども連れでの別居に、配偶者からの同意を得ている場合は、連れ去りには該当しません。

ただし、後に「連れ去りだ」と主張された場合に備えて、同意があったことがわかる書面やメールといった証拠を残しておくように留意しましょう。

②監護者指定調停を行う

配偶者の同意が得られなかった場合、「監護者指定調停」の手続きをとり、別居に伴い子どもと一緒に暮らす監護者になれば、連れ去りにはなりません。

調停は家庭裁判所に申し立て、調停委員や裁判官の仲介のもと話し合いを行う制度です。調停不成立の場合は自動的に「審判」に移行し、裁判官によって「どちらを監護者にするか」の判断が下されます。

監護者になれば子どもと一緒に別居しても連れ去りにはならないため、協議がうまくいかない場合はこのような裁判上の手続きを検討しましょう。

③正当な理由がある場合に連れ出す

正当な理由がある場合に子どもを連れ出すことは連れ去りにはなりません。具体的には以下のような場合です。

  • 配偶者から自身がDVを受けている
  • 子どもが虐待されている

このような場合は、母親と子どもの安全のためにやむなく家を出た証拠として、DVを受けたときの診断書やけがの写真、暴行を受けている映像などを集めておきましょう。

4. 親権争いについてのよくある質問

Q1. 親権争いにおいて経済力は重要か

A. 親権争いにおいて経済力も大切ではありますが、そこまで重要というわけではありません。

たとえば専業主婦の場合であっても、養育費を受け取ることができる場合や祖父母からの援助が期待できる場合など、子どもの福祉にかなう状況があれば、親権争いで大きな問題になることはないでしょう。

Q2. 離婚原因が母親の不倫の場合、親権争いに影響するか

A. 離婚原因が母親の不倫であったとしても、親権争いに必ずしも影響があるわけではありません。

不倫のために子どもを1人で家に残して頻繁に外出していた場合など、子どもに悪影響があった場合は不利になる可能性があります。

Q3. 親権が決まった後、親権者の変更はできるか

A. 親権が決まった後も、「親権者変更調停」で変更に合意した場合や「親権者変更審判」で認められた場合、変更することが可能です。

親権争いは、一般的に母親が有利となるケースが多いものの、場合によっては父親に親権が認められるケースもあります。離婚や親権についてお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

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