養育費には時効がある! 時効を更新する方法を解説

養育費には時効がある! 時効を更新する方法を解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

養育費の請求権には時効があることをご存じでしょうか。時効が成立すると、未払いの養育費が請求できなくなってしまうのです。

本コラムでは、養育費の請求権の時効と、時効を更新する方法を解説します。

1. 養育費の時効とは

養育費請求権の時効については、民法166条と169条に定められています。

民法166条1項

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1.債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2.権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

民法169条1項

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。

養育費の請求権の消滅時効期間はケースによって異なるため、3つのケースに分けてみていきましょう。

(1)取り決めをしなかった場合

離婚時に、養育費についての取り決めをしなかったケースでは、親権者は非親権者に対して子どもが未成熟子(社会的・経済的に自立していない子ども)の間は養育費を請求することができます。ただし、過去分の請求は認められない可能性が高いです。

たとえば、子どもが10歳のときに離婚が成立し、子どもが14歳になってから養育費の請求をした場合、請求前である10歳から14歳の期間の養育費分は請求できない可能性が高いでしょう。

そのため、養育費についての取り決めをしなかった場合、なるべく早く養育費を請求することが大切です。

(2)取り決めをしたが、支払いを拒否されている場合

養育費について「離婚協議書」や「公正証書」で取り決めていたにも関わらず、支払いを拒否されているケースでは、支払われなかった日の翌日から5年経過すると未払い養育費に対する請求権が消滅し、請求できなくなってしまいます。

(3)調停や裁判で未払い分の養育費について取り決めした場合

過去の未払い分の養育費について調停や裁判で取り決めをした場合、その消滅時効期間は10年です。消滅時効が10年になるのは、あくまでも過去の未払い分に対してのみであるため、将来の養育費の請求権の時効は5年になります。

このように、養育費の消滅時効期間は養育費についての取り決め方によって異なるのです。

なお、養育費の請求権は、時効期間を過ぎた場合であっても請求ができる場合があります。それは「時効の援用」がない場合です。

時効の援用は、義務者が権利者に対して「時効が来たため、未払い分の養育費は支払わない」という意思表示をすることを指します。

養育費の支払い義務者からこのような意思表示をされなければ、消滅時効を迎えていても未払い分を請求できる場合もあるのです。

2. 養育費の時効が完成しそうな場合の対処法

養育費の時効が完成しそうな場合、以下の3つの方法をとることで時効を更新(リセット)することができます。

  1. 債務承認
  2. 裁判での請求
  3. 仮差し押さえ・差し押さえ

(1)債務承認

「債務承認」とは、支払い義務者が支払い義務を認めることです。

「未払い分の養育費を支払う義務があることを認める文書の作成」や「未払い分の一部だけ支払う行為」が債務承認に該当します。

(2)裁判での請求

家庭裁判所に対し、調停の申し立てや裁判の提起によって養育費の支払いを請求し、支払いが確定すると、時効を更新することが可能です。

裁判での請求が必要なため、口頭での請求をしても時効の更新にはならないことを留意しておきましょう。

(3)仮差し押さえ・差し押さえ

「仮差し押さえ」や「差し押さえ」も時効を更新する方法です。

仮差し押さえを裁判所に申し立てることで、相手が財産を隠すことを防ぐことができます。

また、強制的に債務を履行させる「強制執行」という手続きによる差し押さえは、時効が更新できることに加えて、未払い分を回収することが可能です。

なお、強制執行は通常裁判を経てからでないと実行することができませんが、「強制執行認諾文言付きの公正証書」を作成していれば、裁判を提起しなくても強制執行できます。

このように、「債務承認」「裁判での請求」「仮差し押さえ・差し押さえ」という3つの方法をとることで、時効の更新が可能です。

ただし、時効の完成まで時間があまりなく、これらの方法をとることが難しい場合もあるでしょう。その場合、「催告」をすることで、一時的に時効の完成を遅らせること(完成猶予)が可能です。催告は「内容証明郵便を送付し、請求の意思表示をする方法」で、これを行うと時効の完成が6か月猶予されます。

ケースに応じて、「更新」の方法をとるか「完成猶予」の方法をとるか、検討するようにしましょう。

3. 未払いの養育費を請求する方法

未払いの養育費を請求する方法を、2つのケース別にみていきます。

(1)離婚協議書がある場合

協議離婚の際に「離婚協議書」を作成していた場合は以下の手順で養育費の請求を行いましょう。

①相手に支払いを促す

養育費が支払われない場合、まずは相手に電話や手紙、メール、LINEなどを使い、養育費を支払うように促します。

相手と連絡がつかない場合や直接やりとりをしたくない場合は、「内容証明郵便」の送付を行いましょう。内容証明郵便は、発送日や発送場所、文書の内容などを郵便局が証明してくれる制度のことです。

内容証明郵便を送ると、相手に「養育費を支払わないと裁判になるかもしれない」というプレッシャーを与えることができます。

ただし、内容証明郵便はあくまでも催促にとどまるため、強制的に回収することはできません。

そのため、内容証明郵便を送っても支払ってもらえない場合は、次の「調停」や「審判」の申し立てを行います。

②調停または審判を申し立てる

内容証明郵便送付後も養育費が支払われない場合、家庭裁判所に「養育費請求調停」または「養育費請求審判」を申し立てましょう。

「調停」では、裁判官と調停委員からの仲介やアドバイスを受けながら当事者同士で話し合いを行います。調停で合意に至った場合は裁判所に「調停調書」を作成してもらいますが、決裂した場合には自動的に「審判」の手続きに移行し、両方の意見や提出された資料をみた裁判官によって審判が下されるのです。

なお、離婚時は「調停前置主義」といって、審判よりも先に調停を行わなければなりませんが、養育費に関しては最初から審判を申し立てることもできます。

そのため、調停の成立が難しそうな場合や、早く支払いを受けたい場合は最初から審判の申し立てをすることを検討しましょう。

(2)公正証書、調停証書がある場合

協議離婚の際に「公正証書」を作成していた場合や、裁判手続きを経て「調停証書」や「判決書」がある場合も、まずは相手に支払いを促します。

それがうまくいかなかった場合は、「強制執行」の手続きを行って相手の給与や預貯金を差し押さえましょう。この際、裁判を起こす必要はありません。

ただし、公正証書の場合、裁判を起こさず強制執行を行えるのは「強制執行認諾文言」を入れている場合に限ります。そのため、裁判の手間を省きスムーズに強制執行を行うためにも、公正証書には「義務者は養育費の支払いが滞った場合は強制執行を受けることに同意した」などの文言を必ず付けておきましょう。

このように、未払い養育費を回収する方法は養育費の取り決め方法やケースに応じて異なります。

そして養育費の請求権に時効がある以上、どのような方法をとるべきか、どのように手続きを行えばいいか悩んでいる間に時効が成立し、回収ができなくなってしまう場合もあるでしょう。

弁護士に相談すると、ケースに応じて時効を更新する方法や未払い養育費を請求する方法についてのアドバイスを受けることができます。

時効成立を防いでスムーズに回収するためにも、養育費についてお困りの場合はお早めに弁護士に相談しましょう。

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