共働きの場合でも婚姻費用を請求できる? 算定方法についても解説
従来の日本では、夫が外で働き、妻は専業主婦という家庭が多くを占めていました。しかし、社会の変化とともに、夫婦ともにフルタイムで働く共働きの夫婦が増えています。
しかし、必ずしも同等の収入があるとは限らず、一方の収入が主に家計を支えているというケースもあります。このようなケースで別居した場合、収入が少ない側は今までの生活を維持することが難しくなることがあります。夫婦仲が悪化して別居に至った場合、共働きでも婚姻費用を請求することはできるのでしょうか。
1. 共働きの場合の婚姻費用の考え方
(1)婚姻費用の基礎知識
婚姻費用とは、夫婦が生活を維持するために必要な生活費のことを意味します。夫婦は、お互いに相手と自分が同じ程度の生活レベルを維持させる義務(生活保持義務)があり、婚姻中は婚姻費用を収入に応じて分担する義務を負います。
(2)共働きの夫婦の場合の婚姻費用
共働きの場合でも、一方の収入が多い場合には、別居によって経済的な打撃を受けることになります。そのような場合は、婚姻費用を請求することが可能です。収入が多いのが夫であれば、妻が夫に対して、逆に妻の収入が多い場合は、夫が妻に対して婚姻費用を請求できます。
なお、別居に至った理由は原則として婚姻費用には影響しません。たとえ不仲であったとしても、正式に離婚するまでは、相手の生活レベルを自分と同じ程度に維持できるように婚姻費用を支払い続ける必要があるのです。
ただし、別居や離婚に至る原因(例:不貞行為など)をつくった側からの請求は認められない可能性があり、たとえ認められても、大幅に減額される可能性があります。
(3)婚姻費用に含まれる出費内容
婚姻費用には、生活を営む上で必要となる支出が含まれます。具体的には次のようなものが考えられます。
- 住宅費
- 食費
- 被服費
- 家具や電化製品などの購入費
- 光熱費や電話などの通信費
- 医療費
- 交通費
- 旅行や趣味などの娯楽費
- 生命保険や医療保険などの保険料
- 車両費(車の購入代、駐車場代、自動車保険料、ガソリン代など)
- 冠婚葬祭費や生活レベルに応じた交際費
- 子どもの教育費用
2. 婚姻費用の算定方法
婚姻費用を請求する場合、具体的にはいくら請求すれば良いのでしょうか。婚姻費用の算定方法についてみていきましょう。
(1)裁判所の婚姻費用算定表を使う
婚姻費用の金額は、法律で定められているわけではありません。そのため、基本的には夫婦が合意できれば、どのような金額でも問題はありません。しかしながら、目安がなければ話し合い自体が進まず、揉めてしまうこともあります。そのような場合に役に立つのが、裁判所がホームページ上で公開している「婚姻費用算定表」です。
婚姻費用算定表は、次の要素を元に、おおよその目安となる金額を算出します。
- 夫の収入額(額面)
- 妻の収入額(額面)
- 子どもの年齢
- 子どもの人数
ご自身の場合はいくらになるのか、話し合う際に確認しておきましょう。
(2)婚姻費用の算出時に考慮するべき要素
婚姻費用の算定表は、一般的な夫婦の生活を前提として金額が掲載されています。しかし実際には、各家庭によって事情は異なるでしょう。算定表の数字では、生活実態とかけ離れているという場合も考えられます。たとえば、次のような事情があれば、算定表だけでは適切な金額が算出できない可能性があります。
- 夫婦の片方が、家族の生活のために多額の借金を抱えて返済に追われている場合
- 極端に高い住宅ローンや家賃を払っている場合
- 夫婦や子どもに持病があって医療費がかさんでいる
- 学費や塾代などの教育費が通常の家庭に比べて高い など
あくまで一例ですが、このように特殊な事情がある場合は、算定表の金額に加味して協議を進める必要があります。
(3)婚姻費用の話し合いができないときはどうすればいい?
婚姻費用は、夫婦で話し合って決めることができます。しかし、別居時にはすでに夫婦の仲が悪化していることが多いため、すんなりと話し合いが進まないケースが大半です。話し合いができない場合や、金額で折り合いがつかない場合は、家庭裁判所に対して婚姻費用の分担請求調停を申し立てることができます。
調停では、調停委員が間に入って金額や支払い方法について協議を進めることができます。基本的に、お互いに顔を合わせる必要はありません。調停で折り合いがつけば、調停成立となり、取り決めた内容が記載された調停調書が作成されます。
一方、調停で折り合いがつかなければ調停不成立となり、審判に移行します。審判では、家庭裁判所の裁判官が、一切の事情を考慮した上で妥当な婚姻費用を決定します。
調停や審判で婚姻費用の金額が決定すると、支払い義務者は、調停や審判で決定した金額を支払わなければなりません。仮に、義務者の支払いが滞留した場合や支払いをしない場合は、受け取る権利のある配偶者は、強制執行によって、給与や不動産などを差し押さえることも可能です。
婚姻費用は収入の少ない配偶者にとっては特に重要なものです。共働きであっても、収入に差がある場合は、婚姻費用を請求することができますし、子どもがいる場合には収入が同じであっても請求することができます。別居前に話し合って婚姻費用を決めておくと安心ですが、別居前に合意できなかった場合には別居後すぐに婚姻費用分担請求調停を申し立てて請求しましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2021年08月30日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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