- (更新:2024年11月11日)
- 離婚・男女問題
婚姻費用とは|養育費との違い、請求方法、支払われる期間について解説
結婚生活が立ち行かなくなり離婚に向けた話し合いを進めるにあたっては、まずは別居したいと考える方も少なくないでしょう。
しかし、一方の配偶者の収入が家計を支えているような場合には、別居後にかかる家賃や生活費などの費用負担への不安から、別居に踏みきることを躊躇される方もいるかもしれません。
配偶者間の収入に差がある場合や子どもがいる場合には、離婚前に別居したとしても夫婦であることは変わりないため、「婚姻費用」として生活費を相手に請求できるのが原則です。
本コラムでは、婚姻費用とは何か、請求方法と支払われる期間について解説します。
1. 婚姻費用と養育費の違い
(1)婚姻費用とは
婚姻費用とは、婚姻関係にある夫婦やその未成熟な子どもにかかる生活費のことです。
(同居、協力及び扶助の義務)
出典:e-Gov法令検索「民法」
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
婚姻届を提出し法律上の夫婦になると、お互いに生活保持義務があります(民法752条)。
(婚姻費用の分担)
出典:e-Gov法令検索「民法」
第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
また、民法760条にもとづき、結婚生活が続く限り、夫婦はお互いに婚姻費用を分担して負担しなければなりません(婚姻費用分担義務)。
配偶者などの被扶養者に対して、扶養者が自分と同程度の生活を保持することが義務付けられているため、夫婦関係が破綻し別居中であっても婚姻が解消され離婚するまでは、被扶養者に自分と同等の生活をさせる義務があるのです。
基本的には収入が少ない配偶者が、収入の高い配偶者に対して、婚姻費用を請求することが可能です。 婚姻費用は、離婚が成立するまで支払いを受けられます。
離婚が成立すれば、婚姻費用は原則として請求することはできず、支払いについて合意や決定がある場合にも、離婚に伴って支払いが終了します。
(2)養育費とは
養育費とは、子どもを監護・養育するために必要な金銭のことです。婚姻費用のように配偶者の生活費は含まれません。
親は未成熟の子どもに対して扶養義務を負うので、法律上の親子関係があれば養育費を負担しなければなりません。
法律上の親子関係は、父母が結婚している間だけでなく、離婚後、親権者でなくなっても変わることはありません。そのため、子どもと離れて暮らす親は養育費を支払わなければなりません。
養育費の支払期間は離婚後から、子どもが未成熟子でなくなるまでです。未成熟子でなくなる時期は、「成年になるとき」「大学卒業時期」など、個別具体的な事情により異なります。
2. 婚姻費用に含まれる費用
前述のように、婚姻費用は結婚生活を営む上で必要になる費用のため、配偶者と子どもの生活費が含まれます。離婚によって、婚姻費用の支払いは終了しますが、その代わりに養育費によって子どもの養育にかかる費用が支払われることになります。
では、婚姻費用には子どもを育てるための費用のほか、どのような費用が含まれるのでしょうか。
(1)婚姻費用の対象になるもの
具体的には、次のような費用が婚姻費用に含まれると考えられます。
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住居費
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食費や光熱費などの生活費
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子どもの養育にかかる費用
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医療費
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交通費
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洋服代などの被服費
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相応の交際費
など
通常はそれぞれを個別に計算して清算するのではなく、月額を定めて毎月定額で支払われることが多いです。
(2)婚姻費用の金額の決め方
婚姻費用の金額は、特に法律で決められているわけではありません。夫婦が合意できればいくらでも問題ありません。
しかし、当事者同士だけで話し合いを進める場合は、金額の決め方が難しく、話し合いがまとまらないことも少なくありません。金額をどのように決めればよいかわからない場合は、裁判所がホームページ上で公開している「婚姻費用算定表」を参考にするとよいでしょう。
算定表は、子どもの有無や人数、年齢によって分かれているので、ご自身の状況に当てはまる表を利用します。婚姻費用を請求する配偶者を「権利者」、請求される配偶者を「義務者」として年収を当てはめることで、目安となる金額を算出できます。
算定表で目安となる金額を把握した上で、それぞれの事情を考慮し金額を決めるのがスムーズでしょう。
3. 婚姻費用の請求方法と流れ
一般的に、収入の少ない一方配偶者は収入の高い他方配偶者に婚姻費用の支払いを請求することができます。
婚姻費用を請求する方法としては、「直接配偶者に請求する方法」と「家庭裁判所の調停・審判を利用して請求する方法」があります。
(1)婚姻費用の請求方法と流れ
①配偶者への直接請求(夫婦の話し合い)
直接話し合いをして請求する場合は、請求したことが証拠として残るよう電子メールなどの書面にすることが望ましいです。
話し合いは、生活費がもらえない期間が発生しないように別居前に済ませておく方がよいですが、すでに別居している場合は、請求したことが証拠として残るよう「内容証明郵便」を利用することをおすすめします。
夫婦の話し合いによって婚姻費用の支払いや金額に合意ができた場合は、取り決めた内容を執行認諾文言付き公正証書にしておきましょう。
執行認諾文言付き公正証書にしておけば、婚姻費用の支払いが滞った場合に、給与の差し押さえなどの強制執行を迅速に行うことが可能になります。
ただし、公正証書の作成には費用がかかりますので、どの程度離婚が現実化しているかなど個別の事情を踏まえた上で、作成の要否を検討しましょう。
②婚姻費用分担請求調停の申し立て
相手との直接の話し合いでは結論が出なかった場合は、家庭裁判所に必要書類の提出と費用の支払いをして「婚姻費用分担請求調停」を申し立てましょう。
調停を行う裁判所は、相手の居住地の家庭裁判所、もしくは当事者同士が合意で決めた家庭裁判所になります。
調停を申し立てると家庭裁判所から各当事者へ「呼び出し状」が届きます。第1回期日の日時が書いてありますので、指定された日時に家庭裁判所へ行き調停に出席します。
調停では、原則としてお互いが顔を合わせることはなく、調停委員を介して話し合いを行い、婚姻費用を決めることになります。
調停委員は、前述した算定表を基礎に、夫婦の資産や収入、支出、生活様態、子どもの有無や年齢などを考慮した上で、解決策の提示や双方が折り合えるよう助言を行います。
なお、調停はあくまでも話し合いによって合意を図る手続きです。そのため、調停委員や裁判官が結論を出してくれるわけではないということを、念頭におく必要があります。
調停で双方が合意できたときには調停成立となり、取り決めた内容が記載された調停調書が作成されます。
調停で取り決めた内容は、強制的に執行が可能になるため、取り決めた調停内容を相手が守らない場合は、給料や預貯金などを差し押さえることになります。
1回の調停で合意に至らない場合は、何度か期日を繰り返して話し合いを継続します。
③婚姻費用分担請求審判への移行
双方が合意できないときは調停不成立となり、自動的に審判手続きに移行します。審判では、裁判官がこれまで明らかになった一切の事情を踏まえて審理し、婚姻費用の金額を決定します。
審判によって婚姻費用が確定した場合は、決定事項が記載された審判書が作成されます。
(2)請求する際の注意点
別居を言い出したのが夫婦のどちらであったとしても、婚姻費用の請求に影響しません。
ただし、不倫(不貞行為)した末に別居したケースのように、別居原因をつくった側(有責配偶者)による請求は、認められない場合があります。その場合、子どもの養育にかかる費用に限り請求しうることになります。
4. 婚姻費用が支払われる期間
では、婚姻費用は、いつから請求できるのでしょうか。ここでは、婚姻費用が支払われる期間について解説します。
(1)原則としてさかのぼって支払ってもらうことはできない
別居後しばらく経ってから婚姻費用を請求した場合には、支払いを受けていなかった時期もさかのぼって支払ってもらいたいと考えるかもしれません。
しかし基本的には、請求前にさかのぼって婚姻費用を支払ってもらうことはできません。婚姻費用の支払いを受けられるのは、原則として「婚姻費用分担請求の調停の申し立てをしたときから」とされています。
もっとも、調停の申し立てよりも前に、内容証明郵便などで明確に相手に対して請求をしていた事実がある場合には、請求時点から認められる可能性もあります。
婚姻費用に関しては、早い段階から請求することと、証拠が残る形で請求することが非常に重要です。なるべく早期に婚姻費用分担請求調停を申し立てるのが得策です。
(2)支払われる期間
離婚すれば法律上の夫婦ではなくなるため、扶養義務もなくなります。そのため、婚姻費用の支払いを受けられる期間は、「別居解消または離婚するまで」です。
たとえば、長期間別居が続いたとしても、離婚をしなければ婚姻費用の支払いを受け続けることはできます。
また、夫婦関係が改善するなどして同居を再開した場合にも、婚姻費用の支払いは終了します。
- こちらに掲載されている情報は、2024年11月11日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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