- (更新:2024年11月26日)
- 離婚・男女問題
離婚届を勝手に出されたら? 対処法と予防策を解説
協議離婚は、夫婦一方の意思だけで成立するものではありません。
しかし、離婚を拒否し続けていることに業を煮やした配偶者が、協議離婚届を勝手に一人で書いて役所に提出してしまったときには、どうなるのでしょうか?もしそのまま離婚が認められてしまうのであれば、勝手に提出された側にとって、あまりに酷な結果になります。
離婚を無効にしたり取り消したりする方法はあるのでしょうか?
1. 離婚届を勝手に出された場合のリスク
夫婦の一方が勝手に出した離婚届が受理されてしまった場合には、その効果はどうなるのでしょうか。
(1)受理されても離婚は無効
離婚届を提出した場合、市区町村役場では、離婚届に当事者双方と成年の証人2人以上が署名していることや、未成年の子どもがいるときには親権者が定められていることなどを確認します。しかし、本当に夫婦双方の意思で記載されているかなどをチェックするわけではありません。役所では形式的な確認しか行わないため、実際には夫婦の一方が離婚に同意しておらず、勝手に離婚届を出された場合でも、届出が受理されてしまうことがあります。
しかし、離婚には「離婚意思」と「離婚の届け出」の両方が必要で、どちらか一方でも欠ければ有効に成立しないとされています。勝手に離婚届を出された場合には、夫婦の一方の離婚意思が欠けているといえるので、届け出が受理されたとしても離婚は無効です。なお、離婚は無効であっても、後から離婚の意思がなかった一方が離婚を追認して有効にすることもできます。
(2)無効の手続きを早急に行う必要がある
離婚届を勝手に出された場合、離婚は無効です。しかし、届け出が受理されたことによって、戸籍上には、協議離婚している旨が記載されています。したがってそのまま何もしなければ、協議離婚したものとして扱われることになります。たとえば勝手に離婚届を提出した相手が、別の相手と婚姻届を提出して再婚することも可能になります。そのような場合、状況がさらに複雑化してしまいます。
そのため離婚届を勝手に出された場合には、早急に離婚が無効であることを主張して、戸籍を訂正する手続きを行う必要があります。
2. 離婚届を無効にするための対処法
具体的には、次のような手続きで離婚が無効であることを確認し、戸籍の訂正を申請しなければなりません。
(1)協議離婚無効確認調停で審判を得る
まず、家庭裁判所に協議離婚無効確認調停を申し立て、審判を得る手続きが必要です。この調停では、当事者双方が協議離婚は無効であることに合意し、家庭裁判所がその合意を正当であると認めた場合、合意に従った審判が下されます。審判が確定した場合、申立人は確定証明書付きの審判書謄本を添えて、市区町村役場に戸籍訂正の申請を行います。
なお、配偶者がすでに再婚している場合には、その配偶者と再婚相手に対して婚姻取消しの調停も申し立てる必要があります。
(2)離婚無効確認訴訟で勝訴する
協議離婚無効確認調停において、当事者間で合意できなかったり、裁判所が合意を正当と認めなかったりするときには、調停は不成立になります。調停不成立の場合は、離婚無効確認訴訟を提起して、解決を図ることになります。
裁判では、当事者の主張や立証にもとづいて、裁判官が最終的に判決で離婚が無効かどうかを判断します。離婚の無効を確認する判決が確定したときには、審判を得たときと同様に、市区町村役場に戸籍を訂正する申請を行います。
3. 離婚届不受理申出とは
配偶者から勝手に離婚届を出されないようにする制度として「離婚届不受理申出制度」があります。これはあらかじめ本籍地の役所に離婚届不受理申出を提出しておくことで、役所に離婚届が提出されても、受理されないようにできる制度です。
申出に期限は設けられていないため、知らないうちに離婚が成立する心配なく、納得できるまで話し合いの時間を持てるようになります。また離婚だけでなく、婚姻届や養子縁組届、養子離縁届や認知届も不受理申出の提出が可能です。
4. 離婚届不受理申出を提出した方がよいケースとは?
(1)配偶者に署名押印済みの離婚届を渡している
夫婦げんかなどの際に、勢いで離婚届にサインしてしまった、ということもよくある話です。もし、その離婚届を相手が持っている場合は注意が必要です。後から離婚の意思を撤回したい、あるいは条件を細かく決めてから離婚したいと思っていても、相手が離婚届を提出してしまうと離婚が成立してしまいます。
(2)配偶者が子供の親権を強く望んでいる
未成年者の子供がいる場合、離婚すると夫婦のうちどちらかが親権を持つことになります。離婚届には親権者を記入する欄があり、そこに勝手に記入して提出されると、親権が相手に渡ってしまう可能性があります。
離婚が成立してしまうと、親権者の決定において夫婦の合意がなかった場合でも、話し合いで親権者を変更することはできません。変更するためには家庭裁判所での調停や審判が必要になります。
(3)配偶者が離婚を急いでいる
配偶者に再婚したい相手がいる場合などは、離婚を急ぐこともあるでしょう。もし不倫や浮気をしていたら、配偶者や不倫相手に慰謝料を請求できます。しかし勝手に離婚届を提出されてしまうと、慰謝料や養育費などの条件についてきちんと話し合えないまま離婚が成立してしまいます。
慰謝料や養育費は、離婚が成立した後でも請求は可能ですが、話し合いから逃げられやすくなってしまいますので、離婚成立に先立って話し合っておきたい事項です。
5. 離婚届不受理申出の具体的な手続き
では、離婚届不受理申出の手続きはどのように行えばよいのでしょうか。以下に具体的な手順を紹介します。
(1)申出書の入手
申出書は、居住市町村の戸籍課や市民課などの窓口で入手可能です。また自治体によってはホームページからダウンロードすることもできます。
(2)申出書の記入
申出書を入手できたら、必要事項を記載します。
記入する項目は、申出人本人と配偶者の氏名・生年月日・住所・本籍・申出人の連絡先などです。ほかにも、申出本人の自筆による署名が必要です。
(3)申出書の提出
記入が済めば、申出本人の本籍地の役所に申出書を提出します。もし本籍地が遠方の場合、居住地など任意の役所でも手続きは可能です。
しかし、原本を提出した市町村から本籍地の役所まで送付するため、その期間中に離婚届が提出される可能性もあります。急を要するなら、本籍地で直接手続きを行いましょう。
申出書の提出は、原則として申出本人が役所に出向いて手続きを行わなければならず、電話や郵送による届出は受け付けていません。どうしても本人が行けず、代理人が提出したいという場合には、事前に提出先の役所に必要書類などを確認して、準備した後に行いましょう。
手続きの際は、申出書のほか、本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなど)が必要です。
申出書は戸籍の窓口が閉まっている夜間や休日でも、所定の窓口で提出できます。ただし、時間外は書類の確認までは行わないので、不備があれば後日再提出しなければなりません。急ぎで手続きを行いたい人は、平日の窓口が開いている時間に行くことをおすすめします。
なお、申出書が受理されても、役所から特に通知などは送られないので、手続きを行ったことを配偶者に知られることはありません。ただし、この点については、提出の際に、役所の担当者に確認すると安心でしょう。
(4)申出書の取り下げについて
夫婦間で十分に話し合い、離婚の合意がまとまれば、申出書の取り下げを行います。
手続きは申出を行った本人のみ可能で、申出書のときと同じように本人確認書類を持参し、不受理申出取下書を役所の窓口に提出します。ちなみに申出を行った本人が離婚届を提出した場合は、取り下げ手続きは不要です。
もし離婚届不受理申出の提出が間に合わず、離婚が成立してしまった場合、それを無効と確認するためには、家庭裁判所へ調停や審判の手続きが必要になります。そのため、専門家のサポートを受けることをおすすめします。もしお困りの場合は、弁護士にご相談ください。
6. 離婚届を勝手に出す行為は罪になる?
調停や裁判で協議離婚の無効を確認できれば、戸籍上の記載を訂正することができます。しかし相手が離婚届を勝手に出した行為までも、なかったことになるわけではありません。
(1)刑法上の犯罪行為にあたる
離婚届を勝手に出す行為は、複数の刑法上の犯罪行為に該当する可能性があります。たとえば離婚届の署名捺印を偽造して役所に提出したのであれば、「私文書偽造罪」と「私偽造文書行使罪」が成立します。また離婚届が受理された場合には、戸籍に虚偽の記載をさせることになることから、「公正証書原本不実記載等罪」も成立する可能性があります。
そのため勝手に離婚届を出した相手に対して刑法上の罪を問うのであれば、刑事告訴などを検討することもひとつの方法になります。
(2)離婚届を勝手に出されるおそれがあれば対策を
離婚届を勝手に出された場合には、家庭裁判所の調停や裁判手続きが必要になり、時間も労力もかかることになります。そのため離婚届を勝手に出されるおそれがある場合には、「離婚届不受理申出」という制度を利用して対策を取っておくことがのぞましいといえます。
「離婚届不受理申出」をしておけば、申し出を取り下げない限り離婚届は受理されないので、たとえ勝手に離婚届を出されても受理されずに済みます。
7. 離婚届のトラブルは専門家へ相談を
離婚届を勝手に出された場合、その無効を確認する手続きや刑事上の責任追及には専門的な知識が必要です。適切な対応を行うためには、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士は、離婚の無効確認や不受理申出の手続きだけでなく、刑事告訴やその後の対応についてもアドバイスを行い、問題解決に向けてサポートします。
ご自身で判断が難しい場合は、迷わず専門家の意見を求めてください。
- こちらに掲載されている情報は、2024年11月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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