- (更新:2024年12月03日)
- 離婚・男女問題
家庭内暴力かも…DV被害者を守る法律と相談先を紹介
配偶者から家庭内暴力を受けているなどDVでお悩みの方も少なくないでしょう。DV被害者の中には、「自分にも悪いところがある」「自分さえ我慢すればよい」などと考え、深刻なDV被害にあっているにもかかわらず、相談できずにいる方も多く存在します。
しかし、DVは決して許される行為ではなく、生命や身体に対して危険がおよぶおそれもありますので、早めに相談をすることが大切です。今回は、DV被害者を守る法律と相談先、離婚する場合の慰謝料請求について紹介します。
1. DVにあたる行為
DVとは「ドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)」の略称であり、主に家庭内での暴力を指す言葉として使われています。しかしDVにあたる行為は、身体的DV以外にも様々な種類が存在します。
(1)身体的DV
身体的DVとは、殴る、蹴る、物を投げつける、髪を引っ張る、突き飛ばすなどの身体に対して直接暴力を加えることをいいます。DVという場合には、この身体的DVをイメージする方も多いように、典型的なDVの類型です。
(2)精神的DV
精神的DVとは、大声で怒鳴る、人格を否定するような暴言を吐く、無視をし続ける、交友関係を細かく監視するなど心理的に攻撃を加える行為のことをいいます。精神的DVのことを「モラルハラスメント(モラハラ)」と呼ぶこともあります。
(3)性的DV
性的DVとは、無理やり性的な行為を強要する、避妊に協力しない、中絶を強要するなど性的な暴力を加える行為のことをいいます。
(4)経済的DV
経済的DVとは、生活費を渡さない、お金を自由に使わせない、お金の使いみちについて厳しくチェックするなど経済的な圧迫を加える行為のことをいいます。
2. DV被害者を守る法律と加害者への罰則
「配偶者からの暴力の防止および被害者の保護等に関する法律」(いわゆる「DV防止法」)では、DV被害者を守ることを目的として、保護命令という制度を設けています。
(1)保護命令の種類
保護命令とは、配偶者や交際相手から身体的な暴力を受けた被害者がさらなる身体的暴力によって生命・身体に重大な危害を受けるおそれがある場合に、被害者の申し立てによって裁判所が加害者に対して発する命令をいいます。
保護命令には、被害者を保護する観点から以下5つの種類があります。
①接近禁止命令
接近禁止命令とは、加害者に対して、被害者の身辺につきまとったり、被害者の住居・勤務先などの付近を徘徊したりすることを禁止する命令です。接近禁止命令は、6か月の期間を定めて発令されますので、期間を延長する場合には、再度、裁判所に保護命令の申し立てをする必要があります。
②被害者の同居の子への接近禁止命令
子への接近禁止命令とは、加害者に対して、被害者と同居する子どもの身辺につきまとったり、子どもの住居・学校などの付近を徘徊したりすることを禁止する命令です。子への接近禁止命令の期間は、6か月とされています。
③親族等への接近禁止命令
親族等への接近禁止命令とは、加害者に対して、被害者の親族の身辺につきまとったり、住居・勤務先などの付近を徘徊したりすることを禁止する命令です。親族等への接近禁止命令の期間は、6か月とされています。
④退去命令
退去命令とは、加害者に対して、被害者と一緒に住む家から退去することを命じるものです。退去命令の期間は、2か月とされています。
⑤電話等禁止命令
電話等禁止命令とは、加害者に対して、被害者への電話、メール、FAX、面会の要求など一定の行為を禁止する命令です。電話等禁止命令の期間は、6か月とされています。
(2)保護命令違反の罰則
上記の保護命令に違反した場合には、違反者に対して、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
3. DV被害者の相談先
DVの被害にあっているという方は、すぐに以下の相談先に連絡してください。
(1)配偶者暴力相談支援センター
配偶者暴力相談支援センターとは、配偶者からの暴力の防止や被害者保護を目的として、相談機関の紹介、カウンセリング、一時保護、保護命令制度についての情報提供などを行っている機関です。
男女共同参画局のホームページ上に、各都道府県の配偶者暴力相談支援センターの一覧が掲載されていますので、そちらをご参照ください。
(参考:「配偶者暴力相談支援センター」(内閣府男女共同参画局))
(2)婦人相談所
婦人相談所とは、各都道府県に必ず1つ設置されており、DV防止法により配偶者暴力相談支援センターの機能を担う施設です。婦人相談所では、配偶者暴力相談支援センターの行う業務のうち、一時保護を行っています。
(参考:「婦人相談所」(内閣府男女共同参画局))
(3)警察
家庭内暴力などのDVは、暴行罪、傷害罪などの刑法上の犯罪に該当する可能性があります。そのため、配偶者からのDVによって身体や生命に対する危険を感じた場合には、警察に助けを求めることも有効な手段となります。
(4)弁護士
家庭内暴力などのDVの被害者が保護命令の発令を求めるためには、法律に基づいて裁判所に保護命令の申し立てをしていかなければなりません。DV被害者の方は、精神的にも余裕がない状況ですので、不慣れな手続きを自分で行うというのは非常に難しいといえます。
また、状況によっては迅速な申し立てをする必要もありますので、保護命令の申し立てを検討している方は、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
4. DVで離婚した場合の慰謝料はいくら?
配偶者によるDVが原因で離婚を考えている方もいると思います。相手と離れたいという気持ちからとりあえず離婚をしてしまいがちですが、配偶者からDVを受けている場合には、離婚時に慰謝料を請求することができる可能性があります。DVによる離婚慰謝料の相場や証拠収集の方法を知ることによって、離婚への不安も多少は和らぐかもしれません。
本章からは、DVで離婚をした場合の慰謝料相場、証拠の集め方、慰謝料の請求方法について解説します。
DVで離婚をした場合の慰謝料の金額は、ケースバイケースですので一概にはいえませんが、相場としては、50~300万円程度といわれています。以下では、DVで離婚をした実際の事例における慰謝料額を紹介します。
(1)DVによる離婚で50万円が認められたケース(東京地裁平成18年8月28日判決)
この事案では、夫が、妊娠していた妻のいる方向に物を投げつけ、これに怒り謝らせようとした妻の肩を突き飛ばし、妻の物品など(合計約25万円)を壊したことや、その後、生活費・出産費用を妻に渡さなかったことが認定され、50万円の慰謝料の支払いが命じられました。
慰謝料額が低くなったのは、夫が上記行為を行ったことについて、妻にも責任の一端があったことと、夫婦の性格が合わなかったことが夫婦関係の破綻の原因になっている(DVだけが離婚の原因ではない)と認定されたためです。
(2)DVとモラハラで100万円が認められたケース(東京地裁平成18年1月17日判決)
この事案では、夫が妻に対して、ベッドから突き落とす、顔を足で踏むなどのDVが認定されましたが、けがをしない程度の暴力であったことから、100万円の慰謝料の支払いが命じられました。
婚姻期間が1年2か月という短期間であったことからすると100万円という慰謝料は、比較的高額であるといえます。
(3)DVで200万円が認められたケース(東京地裁平成18年7月27日判決)
この事案では、夫が妻に対して、10年以上の長期間において、激しい暴力を加え、時には妻が骨折したことがあったと認定され、200万円の慰謝料の支払いが命じられました。
DVが長期間であったことと、暴力の程度も重いことから比較的高額の慰謝料が命じられた事案です。
(4)DVで300万円が認められたケース(東京地裁平成18年11月29日判決)
この事案では、夫が妻に対して、度重なる暴力を加えたことにより、妻には後遺障害が生じたことが認定され、DVによって離婚することを余儀なくされたとして300万円の慰謝料の支払いが命じられました。加えて、入院慰謝料や後遺障害慰謝料などの請求についても認められています。
婚姻期間が10年以上で、後遺障害等級併合8級が認定されたため、非常に高額な慰謝料の支払いが命じられた事案です。
※以上は、事例を簡素にしたものです。事例の詳細は、判例をご確認ください。また、実際の事案におけるDVによる離婚慰謝料の額を保証するものではありません。具体的な見込み金額は、弁護士にご相談ください。
5. DV離婚の慰謝料請求|証拠を確保する方法は?
DVを理由に離婚慰謝料を請求するためには、DVを証明するための証拠が必要になります。
(1)けがをした部分の写真や動画
配偶者からDVを受けてけがをした場合には、その部分を写真や動画で撮影をしておきましょう。撮影する際には、けがをした部分を拡大したものとご自身であることがわかるように顔が写るように撮影したものが必要です。また、写真を撮った日付が分かるような形であると証拠価値が上がります。
また、けがの程度によっては、数日で跡が消えてしまうこともありますので、早めに撮影することが大切です。
(2)暴力を振るわれているときの録音や録画
配偶者から暴力を振るわれているときの録音や録画があれば、DVを立証する直接的な証拠になります。ただし、突発的に行われたDVなどでは、録音や録画をする余裕がないこともありますので、無理に準備する必要はありません。
(3)詳細な日記
配偶者からDVを受けた場合には、その状況を詳しく記載した日記についてもDVの証拠になります。継続的に日記をつけていれば、日記の証拠としての信用性が高くなりますので、普段から日記をつけておくことが大切です。
(4)医療機関に受診する
けがをしている場合には、医療機関で治療を受けることを検討してください。医療機関を受診した場合には、カルテにけがの状態が記録され、のちに証拠として活用できます。けがを早く治すためにも、受診を強くおすすめします。
6. DV離婚の慰謝料請求の手順は?
DVの証拠収集ができた段階で、以下のような方法で、慰謝料請求を行います。
(1)第三者を交えた交渉
離婚や慰謝料請求をする場合には、まずは当事者同士の話し合いによって行うのが一般的です。しかし、DVを理由とする離婚や慰謝料請求では、離婚の話を切り出したことでDV加害者から暴力を振るわれるリスクがありますので、できる限り当事者だけの話し合いは避けた方がよいといえます。
話し合いをする際には、弁護士などの第三者を間に入れて交渉を進めるようにしましょう。
(2)離婚調停の申し立て
話し合いでは解決することができない場合には、家庭裁判所に離婚調停の申し立てを行います。離婚調停では、離婚に関する話し合いだけでなく、DVを理由とする慰謝料についての取り決めをすることができます。
当事者同士の話し合いとは異なり、離婚調停では、当事者の間に調停委員が入って話し合いを進めてくれるため、顔を合わせて話し合いをする必要はありませんのでご安心ください。
(3)離婚訴訟の提起
離婚調停で離婚の合意や慰謝料の金額の合意が得られない場合には、最終的に離婚訴訟を提起して解決を図ることになります。配偶者からDV被害を受けていたという事情は、立証することができれば離婚やDV慰謝料が認められる可能性が高いでしょう。
- こちらに掲載されている情報は、2024年12月03日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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