親権者になるには? 決め方や離婚調停で聞かれることを解説

親権者になるには? 決め方や離婚調停で聞かれることを解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

離婚調停における質問は、「どちらを親権者とする方が子どもの利益になるか」という観点から行われます。

したがって、離婚調停で親権を獲得するには、ご自身が親権者となった方が子どもの利益になることを、調停委員に対して説得的に訴えることが大切です。

今回は、親権を獲得するためのポイントや離婚調停で親権に関して聞かれることの内容、親権を獲得するための留意事項、親権についての相談先などについて解説します。

1. 親権の基本|身上監護権と財産管理権の違いとは

親権獲得を目指すにあたり、まずは親権についての概要を理解しておきましょう。

(1)親権とは

親権とは、未成年の子どもを監護・養育し、その財産を管理するために与えられた「子どもの利益」を守るための権利や義務のことです。

親権のうちには、「身上監護権」「財産管理権」があり、基本的にはその両方を親権者が行使します。

(2)身上監護権

身上監護権は以下の4つの権利で構成されています。

  • 身分法上の行為をする際の同意や代理権
  • 居所を指定する居所指定権
  • しつけなどを行う懲戒権
  • アルバイトなどの仕事を許可する職業許可権

親権の中に含まれている身上監護権だけを、親権者ではない親に委ねる場合は、「監護権」と呼ばれます。

原則として「監護権」と「親権」は同一であることが望ましいとされていますが、以下の場合は分離されることがあります。

  • 親権者の長期入院
  • 刑務所服役
  • 長期海外出張

(3)財産管理権

財産管理権には、子どもの財産を守るための包括的な管理権が含まれます。たとえば、子どもの預貯金や不動産を管理する権限がこれに該当します。

また、子どもが契約や売買などの法律行為を行う際、親権者が同意を与える必要があります。この権利は、子どもが不利益を被ることがないよう親が責任を持つために重要な役割を果たしています。

2. 親権者の決め方

婚姻時は父母がふたりで親権を行使することが原則です。しかし、離婚する場合にはいずれか一方を親権者として定めなければならないとされています。

話し合いで親権者が決まらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。離婚と同時に親権を争う場合には、離婚調停の中で親権についても話し合うことになります。

なお、話し合いや離婚調停の中でも親権者が決まらなければ、離婚訴訟を提起して決めることになります。

3. 専業主婦でも親権は獲得できる

子どもがいる家庭の専業主婦が離婚する場合、「夫との経済力の差が原因で、親権を獲得できないのではないか」という不安を抱える方は多いでしょう。

離婚後に仕事を始めるとしても、十分な収入が得られるか、子育てとの両立ができるかなど、不安は尽きません。

しかし、実際には、親権を獲得するために経済力が絶対条件というわけではありません。

本章では、専業主婦が親権を獲得できる理由やそのポイントについてくわしく解説します。

(1)親権者決定の際の考慮事項

親権者を決める際は、以下の点が考慮されます。

  • これまでの監護状況

  • 子どもの意思

  • 子どもの生活環境の変化

  • 子どもを育てられるだけの資力があるかどうか

専業主婦の方が離婚をして親権を獲得したいと考える場合、特に気になるのが子どもを育てられるだけの資力の有無ではないでしょうか。結論を先に述べると、「専業主婦であったことから経済面に不安がある」などの理由で親権の獲得が認められないケースは少ないといえます。

なぜなら、離婚をする場合は、子どもを手元で育てない「非監護親」が監護親に対して養育費を支払うことになります。また国や自治体の児童扶養手当や児童手当、児童育成手当などの各種手当も充実しているため、手当を受け取りながら働けば十分に子どもを養えると判断されるでしょう。

子どもを育てるためのサポートが受けられる環境かどうかも判断材料とされます。「実家で暮らす」「両親から子育てに関するサポートを受けられる」などのポジティブな要素があれば、有利な判断がなされる可能性が高いです。

4. 親権者になるためのポイント

次に、専業主婦が親権者になるためのポイントについて解説します。

(1)子どもの精神的負担にならない離婚後の住居を考えること

両親の離婚は子どもにとって、大きな精神的な負担となります。そこに住環境のみならず教育環境の変化も重なると、子どもへの負担は甚大です。

離婚後の住まいを探す際に、子どもへの負担ができる限り少ない形にすることで、親権が獲得しやすくなります。

(2)働く見込みや援助の有無を明確にしておくこと

専業主婦の場合の離婚においては、経済面が問題視されることもあるため、その点をあらかじめクリアにしておきましょう。

親権獲得にあたり、経済的な問題がないことを示すために主張すべきことなどの例として、以下のようなことがあります。

  • 仕事を探して内定を受けておく
  • 就職活動をしていることを証拠化する(ハローワークへ登録するなど)
  • 実家で暮らすため生活費が最小限で済むことを主張する
  • 子どもの保育園の送迎を自身の両親に手伝ってもらえることを主張する

5. 親権が認められない可能性が高いケース

(1)子どもに対する愛情が不足している場合

具体的には以下の行為が頻繁にみられた場合は親権が認められない可能性が高まります。

  • 子どもへの虐待がある
  • 家事をしない
  • ギャンブルやアルコール・薬物に依存して、子どもを顧みない

(2)犯罪の常習性がある場合

前科の有無だけで判断されるものではありませんが、薬物依存などの場合には要注意です。そのほかの犯罪であっても、常習性が認められる場合には親権の獲得は難しいと考えられます。

(3)不貞行為による悪影響がある場合

不貞をしていた場合、親権者としてふさわしくないと考えられがちです。しかし、不貞の事実そのものは親権の獲得に大きな影響を与えません。ただし、不貞相手と会うために子どもを家に放置していた場合や、子どもを車内に放置していた場合などは、親権の獲得が難しくなることもあります。

6. 離婚調停で親権に関して聞かれること

離婚調停で親権が争われている場合、調停委員は「夫婦のどちらと暮らす方が子どもにとって利益になるか」を判断するため、さまざまな質問を行います。

具体的には、以下の各事項について質問される可能性が高いです。

(1)子どもの養育状況

離婚調停では、これまで子どもの養育を積極的に行ってきた側に親権を認めようとする傾向にあります。つまり、一般的には、普段の子どもの世話をしている親が有利となります。

そのため調停委員は、子どもの養育状況に関する以下のような事項につき、夫婦双方に質問してくることが予想されます。

  • 1日の中で子どもと関与する時間
  • 子どもとの普段のコミュニケーションの内容
  • 養育費の分担状況

など

(2)収入の状況・離婚後の収支の見込み

子どもを養育していけるだけの自立した経済力があるかどうかは、親権者を決定する際の一つの考慮要素です。

調停委員は、経済力や資金活用の計画性などに関して、以下のような事項を質問してくる可能性が高いです。

  • 現在の収入額
  • 将来的な収入の変動見込み
  • 離婚後の収支計画

など

(3)親権者となった場合に得られるサポートの内容

離婚後に一人で子どもを育てていくのは大変ですが、周囲にサポートしてくれる親族などがいれば、子どもにとって安心できる養育環境といえるでしょう。

したがって、仮に子どもの親権者となった場合に、サポートできる親族がいるかどうかについても、調停委員から質問される可能性があります。

(4)面会交流に関する意向

離婚調停では、離婚後の面会交流の方法についても取り決める必要があります。

そのため、仮に親権者になった場合には、面会交流についてどうするのか、たとえば、以下の事項について、調停委員から意向を確認されることになるでしょう。

  • 頻度
  • 場所
  • 活動内容
  • 面会交流時の子どもの引き渡し方法
  • 非親権者と子どもの間で普段の連絡を自由に認めるかどうか

など

7. 離婚調停における親権争いを有利に進めるためのポイント

離婚調停で親権を獲得したい場合、調停委員を味方に付けることが必要不可欠です。

そのためには、子どもの養育に積極的に関与すること、および客観的な資料を基に主張を行うことを意識するとよいでしょう。

(1)子どもの養育に積極的に関与する

親権は、子どもの養育に長い時間、多くの量、関与している親に認められやすいです。

また、子どもの年齢がある程度高ければ(おおむね10~12歳以上)、親権の決定に際して子どもの意思が尊重される傾向にあります。

養育の状況については、家庭裁判所調査官による調査の対象にもなりますので、離婚調停の最中は(できればその前から)、子どもと積極的にコミュニケーションを取るようにしてください。

(2)客観的な資料を基に主張を行う

離婚調停では、夫婦のどちらも自分に有利な主張を行うため、調停委員としては判断に迷う場面が多いです。

しかし、客観的な資料に基づく主張は信ぴょう性があるため、調停委員も判断の基礎としやすくなります。

たとえば、収入であれば確定申告書や源泉徴収票、養育費の分担状況であれば銀行口座の入出金履歴など、できる限り客観的なエビデンスに基づく主張を展開するように努めましょう。

8. 離婚調停で親権を獲得するためにやってはいけないこと

反対に、離婚調停の最中に以下のような行為をすると、調停委員の心証を害して親権を獲得できる可能性が低くなりますのでご注意ください。

(1)子どもを連れ去る

子どもと一緒に暮らしたという既成事実を作るため、相手の承諾なく子どもを連れ去って別居する方が稀にいらっしゃいます。

しかし、相手からDVやモラハラを受けている場合などを除けば、子どもを連れ去って別居することは「悪意の遺棄」に当たる違法行為です(民法第770条第1項第2号)。

調停委員からの印象も悪化するため、相手の承諾なく、子どもを勝手に連れ去るのはやめましょう。

(2)相手のことを侮辱する

ご自身の主張を伝えたい思いが余ってのことか、相手のことを口汚く侮辱する方もたまにいらっしゃいます。

しかし、相手に対する一方的な侮辱に当たる発言が、調停委員に受け入れられることは決してありません。

離婚調停では、努めて冷静かつ客観的な根拠に基づく主張を行い、調停委員の理解を得る姿勢が大切です。

(3)他の異性と交際する

離婚調停が続いている間は、まだ婚姻関係が継続している状態です。

夫婦仲がどんなに悪いとしても、他の異性と性交渉を行うことは原則として不貞行為に該当します(民法第770条第1項第1号)。

不貞行為をした側については、たとえ子どもとの関係自体には影響がない場合でも、調停委員の印象が悪化しかねません。

そのため、他の異性と交際するのは、正式に離婚が成立してからにしましょう。

9. 親権についての相談先

離婚時の親権について悩んでいる場合は以下の機関、専門家に相談可能です。

(1)自治体の無料相談

ほとんどの自治体で、自治体主催の弁護士による無料法律相談を行っています。また女性専用の相談窓口では、離婚後の生活や仕事の不安についても相談可能です。

(2)弁護士

一般的な相談であれば自治体が実施する法律相談などでも十分ですが、より詳しく相談したい場合には弁護士への相談をおすすめします。親権を獲得するための方法だけでなく、離婚後の生活をスムーズに送れるように養育費や財産分与面についてもアドバイスが可能です。

離婚を検討しているが親権の問題が不安な方には、弁護士に相談することを、ぜひおすすめします。

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