夫婦財産契約とは? 結婚前に財産分与を決める意味
「夫婦財産契約(婚前契約)」は、海外で有名人が利用していることなどから、日本でも知られるようになってきました。
経営する会社や自分の資産を守りたい、結婚後の生活についてできるだけ明確にしておきたいといった理由で、利用を検討している方もいるでしょう。
そこで今回は、夫婦財産契約についてご紹介します。ぜひ参考にしてください。
1. 夫婦財産契約とは
夫婦財産契約は、日本ではなじみが薄い仕組みです。まずは概要を確認していきましょう。
(1)夫婦財産契約とは
民法755条は、「夫婦財産制」の総則規定として、夫婦財産契約に基づく約定財産制が、法定財産制に優先することを定めています。
「夫婦財産契約」とは、結婚前に、結婚後の財産管理の方法や離婚時の財産分与などについて取り決めをしておく契約です。「婚前契約」「プレナップ(prenup)」と呼ばれることもあります。
欧米では、結婚後のお金や家事・育児、不倫などについて、結婚前にその対応を定める手段としてよく利用されています。
日本ではまだあまり普及しておらず、一般的には離婚時に民法の定めに従って財産分与などについて決める「法定財産制」が利用されています。
(2)夫婦財産契約を利用する財産上のメリット
夫婦財産契約の大きなメリットといえるのが、財産を守るのに役立つという点です。
離婚時の財産分与では、夫婦が結婚生活の中で協力して築いた財産を原則2分の1ずつの割合で分けます。
共有財産であれば、名義に関係なく財産分与の対象となるため、夫名義の不動産、妻名義の貯金も、2分の1ずつ分割します。一方、お互いの結婚前の貯蓄や親からの相続財産などは、「特有財産」として扱われ、財産分与の対象外です。
ところが、結婚前から貯めていた銀行口座を結婚後に家族の生活口座として利用した場合など、共有財産と特有財産が混ざってしまい、判別が難しくなることは珍しくありません。
特有財産であると証明できない財産は、すべて共有財産とみなされます。
そのため、先祖代々の資産家など、結婚前に多額の財産を保有している方や、どうしても分与したくない財産がある方は、夫婦財産契約で結婚前にそれらを財産分与の対象外とすることを明記しておけば、財産を守ることができます。
また、会社を経営していて、自社株を保有している場合、離婚時に株式が分与され、相手がそれを売却してしまうと、会社の経営が不安定になりかねません。
夫婦財産契約で自社株は分与しないと決めておけば、そのような事態を防止することができます。
2. 「財産分与」を結婚前に話し合う意味
結婚前に離婚する場合のことを想定して夫婦財産契約の締結を提案することは、相手が不信感を抱く可能性もあり、気が引けるでしょう。ですが、結婚前に、万が一の事態を想定して夫婦財産契約を締結しておくことには、重要な意義があります。
(1)結婚後には契約できない
夫婦財産契約は、結婚前に契約を締結することが、契約成立の要件とされています。婚姻届を出した後は、夫婦財産契約を利用することはできなくなるため、契約したい場合には、必ず婚姻届を出す前に行いましょう。
一度決めた内容は、一方的に変更したり、破棄することはできないため、しっかりと約束を守ってもらうことができます(民法758条1項)。
結婚後にも夫婦が合意すれば、財産分与などについて約束はできます。その場合には、後でトラブルになるのを防ぐため、内容を書面にして残しておきましょう。
ただし、民法754条では「夫婦間でした契約は婚姻中、いつでも夫婦の一方からこれを取り消すことができる」としています。約束を破っても法的には問題がないため、夫婦財産契約に比べて拘束力は弱いと考えてください。
(2)夫婦財産契約の内容
一般的な夫婦財産契約では、民法760条から762条に規定されている以下のような内容について取り決めをします。
- 婚姻費用の分担
- 日常家事債務の連帯責任
- 互いの財産の帰属の明確化
ただし、内容について細かな規定はないため、家事や育児の分担、不倫があった場合の対応、ギャンブルの禁止、契約に違反した場合のペナルティなど、法定財産制に規定のない事項を盛り込むこともあります。
また、「いつまでも相手を大事にすること」など、相手方に誓約してほしいと考える事項を柔軟に盛り込むことができます。
(3)夫婦財産契約でNGな内容
夫婦財産契約では、どのような内容でもOKという訳ではありません。次のように、法律に違反することや、公序良俗に反する内容を定めた場合、その項目は無効になることがあります。
- 一方の財産分与の割合を不当に低く設定
- 男女差別的な項目
- 夫婦の助け合いや子どもの扶養をしない
- 相手の家族の遺産相続の内容を決める
- 相手の同意なしに離婚を可能とする
3. 夫婦財産契約の注意点
夫婦財産契約は、通常の契約と同様、作成すること自体は、それほど難しくありませんが、以下の点には注意してください。
(1)書面化の重要性
契約は、お互いの合意があれば成立します。
もっとも、後日、成立した合意の内容を証明するためには、合意の内容を書面化しておくことが重要です。さらに、夫婦財産契約を公正証書で作成しておけば、いざというときの証拠となるほか、書類の破棄や改変も防止することができます。
(2)契約内容を第三者に対して主張するためには、登記が必要
合意内容を書面化しただけでは、夫婦間では有効でも、第三者や、夫婦の承継人(相続人など)には対抗することができません。
たとえば、第三者が勝手に夫婦共有財産を処分してしまっても、夫婦財産契約をもとに、それが夫または妻が受け取るはずの財産であると主張することはできないのです。
夫婦財産契約の内容を、夫婦以外の第三者や、夫婦の承継人にも対抗できるようにするためには、婚姻届を提出するまでの間に、登記をする必要があります(民法756条)。契約内容により確実性を持たせたい場合には、登記をしましょう。
(3)弁護士のチェックを受けよう
婚前契約書は、日本ではまだ前例が少ないため、自己流で作成すると内容が曖昧になり、トラブルになりかねません。
また、内容の抜けや漏れ、法律違反などがあれば、いざ財産分与で活用しようとした際に役に立たないということもあるかもしれません。
契約の際は、あらゆる可能性を考慮して、どういった内容を盛り込むか、慎重に決める必要があります。婚前契約書に詳しい弁護士に相談して内容を検討し、リーガルチェックを受け、有効な契約書を作成しましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2022年12月19日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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