離婚後も苗字を変えないメリットとは|子どもへの影響と手続きを解説
「離婚後の苗字をどうするか」は多くの人が悩むことで、一筋縄では解決できない問題です。特に子どもがいる場合は、子どもへの影響も考えて迷ってしまう人は多いのではないでしょうか。
本コラムでは、離婚後の苗字について、旧姓に戻す方法や婚姓を続ける方法、そしてそれぞれを選択した場合のメリットおよびデメリットについて、詳細に解説します。
1. 離婚後の苗字はどうなるのか
結婚した際に苗字(婚氏)を変えた人は、離婚後に旧姓に戻すかそのまま婚姻時の苗字を継続して名乗るかを選ぶ必要があります。職場で婚姻時の苗字を使用している場合や子どものことを考えて変えたくない人は、継続して婚姻時の苗字を名乗ることもできます。
以下では、苗字を変える場合と変えない場合、それぞれの概要について解説します。
(1)何もしなければ戸籍は旧姓に戻る
旧姓に戻す場合は、一般的に「自分の戸籍を実家に戻すこと」と、「自分を筆頭者として新しい戸籍を作ること」の2つの方法があります。
民法では、離婚後には元の戸籍に戻る(復籍する)ことが基本とされています。つまり、何もしなければ、結婚前の実家の戸籍に戻る仕組みです。
(2)苗字を変えずに継続する「婚氏続称」
離婚後も苗字を変えないで継続することを「婚氏続称」と言います。これを選択する場合は、自分を筆頭者にした新しい戸籍を作る必要があります。
(3)子どもの苗字は原則的に変わらない
子どもがいる場合は、子どもの苗字および戸籍をどうするかについても考えなければなりません。この際に注意するのは、何もしなければ、子どもの苗字は変わらないことです。したがって、自分側(たとえば妻側)が子どもの親権を得た状態で旧姓に戻す場合でも、所定の手続きをしなければ、子どもは原則的に結婚時の夫の苗字のままです。
子どもの苗字と自分の苗字が異なることは、実務的にも精神的にもあまり好ましくないことが多いです。この問題に対応する場合は、自分が筆頭者となる新たな戸籍を作り、「子の氏の変更」について家庭裁判所に申請します。
2. 苗字を旧姓に戻す場合の手続き
元の戸籍に戻す場合も新しい戸籍を作る場合も、手続きは必要なものの難しくありません。離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄における、「もとの戸籍にもどる」の項目、または「新しい戸籍をつくる」の項目にチェックするだけです。
新しい戸籍を作る場合は、任意の本籍地を書きましょう。離婚後の転居先の住所を記入することが一般的です。
このように、苗字を旧姓に戻すための手続きには特に大きな手間もなく、離婚届を提出すると同時に成立します。なお、上記の欄へのチェックを忘れた場合は、自動的に復籍されます。
(1)離婚後に子どもの苗字を自分の旧姓に変えるには
ただし前述の通り、子どもの苗字を変える場合については、多少の手続きが必要です。まず、自分が子どもを引き取る場合には、旧籍に戻すのではなく、新しい戸籍を作らなければなりません。これは、「ひとつの戸籍に記載できるのは2世代(親子)まで」と決まっているからです。また、「同じ戸籍に記載できるのは、同じ苗字の人のみ」という制約も関係しています。
子どもも自分と同じ苗字にするためには、「子の氏の変更許可申立書」に、「父母それぞれの離婚後の戸籍謄本」および「800円の収入印紙(子ども1人あたり)」を添えて、子どもの住所地の家庭裁判所に提出します。提出は郵送でも可能です。家庭に複雑な事情などがなければ、家庭裁判所から即日許可を得られるので、改めて市区町村の役場で子どもの入籍手続きを行います。
なお、自分が新しく作った戸籍に子どもを移して、婚氏続称をしたい場合でも、同様の手続きが必要です。「苗字が変わらないなら不要だろう」と手続きをしない、ということがないよう注意しましょう。
3. 離婚後に苗字を変えない場合の手続き
離婚後に苗字を変えず継続する場合は、婚氏続称制度の手続きが必要です。「婚氏続称届(離婚の際に称していた氏を称する届)」を市区町村の役場や公式サイトなどから入手し、必要事項を記入して提出します。
この際に注意すべき点は、婚氏続称は離婚後3か月以内に申請しなければならないことです。期限を過ぎると受理不可になってしまうため、余裕を持って申請しましょう。基本的には、離婚届と一緒に市区町村の役場に提出するとよいでしょう。なぜなら、離婚届と一緒に提出しなかった場合、婚氏続称の手続きを行うまでの間は旧姓を使うため、銀行や保険の名義変更なども含め、さまざまな場面において不都合が生じてしまうからです。
4. 離婚後に苗字を変えないことのメリット・デメリット
特に子どもがいる場合、離婚後に苗字を戻すかそのまま継続するかは悩ましい問題です。離婚後に苗字を変えないメリットおよびデメリットとしては、以下のことが挙げられます。
(1)メリット
①子どもの精神的負担を少なく済ませられる
旧姓に戻す場合は、一般的に引き取った子どもも同じ苗字になります。しかし、苗字が変わることは、両親の離婚という事実を強く意識してしまう典型的な事態です。それゆえ、新しい苗字で呼ばれるたびに、子どもは悲しくなってしまうかもしれません。苗字の変更について、同級生から無神経に質問されたり、いじられたりすることも懸念されます。そうした面では、苗字を変えない方が無難です。
②名義変更の手続きが不要
銀行の口座名義や各種証明書など、苗字が変わると名義変更が求められることが多々あります。実務面の手間を省きたい場合には、苗字を変えない方がよいでしょう。
③職場などで離婚のことを知られずに済む
苗字を旧姓に戻すと、自然と離婚の事実が周囲にばれてしまい、好奇の目にさらされたり、不要な気遣いを受けたりして、ストレスを感じやすくなります。その点において苗字を変えないことは、本人のメンタルにとっても利点がある選択肢です。
(2)デメリット
①気持ちを切り替えにくい
苗字を変えることは、新しい生活を始めるために心機一転する機会にもなり得ます。しかし、元配偶者の苗字を名乗り続けると、過去を引きずっているようで、心理的な違和感や抵抗感の発生にもつながりかねません。これは子どもにとっても同様です。
②将来的に再婚した後、再び離婚した際に旧姓に戻れなくなる
離婚時に戻れる旧姓はひとつ前までと定められているため、再婚時の苗字から旧姓に戻る場合、1回目の結婚時に使っていた苗字に戻ることになってしまいます。自分が元々使っていた苗字に戻る可能性を将来的に残したいなら、婚氏続称は避けた方がよいでしょう。
離婚後に同じ苗字を使い続ける場合、メリットおよびデメリットの両面があります。基本的に、婚氏続称の届出は離婚届と同時に提出した方が望ましいので、離婚する前に十分に検討しておくことが重要です。
- こちらに掲載されている情報は、2023年11月17日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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