ガスライティング(心理的虐待)に該当する行為と、対処法を解説
精神的DVは時に非常にまわりくどく、巧妙に行われることもあります。その代表例のひとつが「ガスライティング」といわれる心理的虐待行為です。
本コラムでは、ガスライティングの意味や特徴、対策方法や相談先などを解説します。
1. ガスライティングとは
ガスライティング(Gaslighting)とは、心理的虐待の一種で、自分の精神や判断が異常だと疑わせるように他人を誘導する行為です。
この名称は、1930年代にアメリカで上演された「Gaslight(ガス燈)」という劇に由来します。この劇では、妻に自分自身が正気を失っていると思い込ませようとする男が描かれており、のちに映画化し有名になったことで、同様の虐待行為を指す名称となりました。
この物語では、男が秘密裏にガス燈を暗くさせているにもかかわらず、それを指摘した妻に対して「ガス燈は暗くなんてなっていない」と否定します。この男の言動のせいで、妻は自分の認識がおかしいのだと思い込み、精神的に追い詰められていきます。
(1)ガスライティングの目的
上記の男の行動は、ガスライティングの典型例です。被害者の正常な認識や判断を、加害者は「そんなことは起きていない」「あなたの方がおかしい」と否定します。これによって被害者を自己不信に陥らせ、精神的に不安定な状態へと追い込むのが狙いです。
動機としては、単に被害者が苦しむのを楽しんでいる場合もあれば、被害者をコミュニティーや組織から孤立させ、追い出すことが目的の場合もあります。あるいは、被害者を支配下に置くための手段としてガスライティングを利用していることも少なくありません。
ガスライティングは家庭内や恋人などの親密な関係間での精神的DVや、学校や職場などでのいじめ行為として行われることもあります。いずれにせよ、ガスライティングは、他者を精神的に陥れようとする非常に悪質な行為です。
(2)ガスライティングの代表的行為
被害者を陥れるために行われるガスライティングの手法としては、以下のものが挙げられます。
①事実をねじ曲げたり否定したりする
被害者の正常な認識や記憶をねじ曲げ、否定する行為です。たとえば、被害者への悪口やうそを言っておきながら、その行為を指摘すると「そんなことは言っていない」「そちらこそうそをつくな」と否定します。これによって、被害者が被害妄想や誤認をしているように思わせ、疑心暗鬼にさせます。
②問題を矮小(わいしょう)化する
被害者にとって深刻な事柄や社会的に問題視される行為を、「そんなことで怒るなんて子どもっぽい」「これくらい普通だ」などと大したことではないかのように思い込ませる行為です。これによって被害者に自分は過敏で、価値観が狂っていると思わせ、自信を喪失させます。
③ささいな嫌がらせを繰り返す
物を隠したり置き場所を変えたりといった、被害者本人にしか気づかないような迷惑行為を繰り返す行動です。こうした小さなトラブルや違和感の連続は被害者の不安やストレスを徐々に大きくしていきます。ひとつひとつの嫌がらせはささいなことが多いので、被害者からは周囲に相談しにくく、一人で問題を抱え込みやすくなります。
④加害者へ依存するように誘導する
上記の行動を繰り返して被害者の精神を不安定にさせたあとで、加害者へ依存させようとするケースもあります。たとえば、妻のささいな落ち度を大げさにあげつらったあとで、「俺がいないとお前はまともに生活もできない」と言い張って精神的に縛り付けようとするなどです。
2. ガスライティングを受けたときの対処法や相談先
続いては、ガスライティングの被害を受けた際の対処法や相談先を解説します。
(1)ガスライティングへの対処法
まず被害を減らす方法としては、加害者に自分が動揺している姿を見せないことです。最終的な目的はどうであれ、加害者は被害者が苦しんでいる姿を見て楽しみ、付け込もうとします。逆に言えば、被害者が嫌がらせ行為に対して特に反応を見せなければ、手応えのなさから加害者が諦めるかもしれません。
加害者に対しては無視を貫く一方で、嫌がらせの証拠を確保するのも大切です。音声や映像などを録音・録画し、客観的な証拠を確保できれば、被害を訴えたり、第三者へ相談したりする際に役立ちます。被害を明らかにして第三者の判断を仰ぐことは、自分の認識が正常であることを確認するためにも有効です。
(2)ガスライティングの相談先
①第三者
無視しても被害が減らない、すでに許容できる状況ではない場合には、第三者へと相談しましょう。ガスライティングの相談先は慎重に検討することが大切です。相談相手と加害者が裏でつながっている可能性を考慮し、加害者と接点のない人や別のコミュニティーに所属する人を選んでください。
②専門家
医師やDV相談ナビなどの専門家へ相談することで、具体的な解決策を得られることがあります。
ガスライティングによって自分の心が弱まっていると感じた場合は、精神科や心療内科の医師に相談しましょう。医師への相談は、メンタルケアのためだけでなく、被害の証拠となる診断書を受け取るためにも必要です。
③弁護士
ガスライティングを理由に、離婚などの法的手続きを検討する場合は、弁護士に相談することもおすすめします。弁護士からは証拠集めの方法や、どのような法的措置が可能か助言を受けることが可能です。
④公的機関
DV相談ナビや配偶者暴力相談支援センターなどの公的機関にも相談できます。こうした機関では、カウンセリングや一時的な保護などの支援を受けられます。
3. ガスライティングが原因で離婚を考えたら
ガスライティングのような心理的虐待が原因で、配偶者との離婚を考えている方もいるかもしれません。離婚を成立させる方法は、大きく分けて「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3つがあります。
- 協議離婚:双方が話し合いで条件を決め、合意のうえで離婚する方法
- 調停離婚:協議で合意に至らない場合、家庭裁判所に申し立てを行い、調停委員の立ち会いのもとで離婚の合意を目指す方法
- 裁判離婚:調停で合意が得られなかった場合に、裁判所に訴訟を起こして離婚を認めてもらう方法
ガスライティングのような精神的DVを行う相手とは、協議で円滑に離婚の合意をすることは難しいかもしれません。そのため、早めに弁護士へ相談し、調停離婚や裁判離婚も視野に入れて対策するとよいでしょう。
なお、調停や裁判で離婚を進める際には、ガスライティングがあったことを立証することが重要です。前章で述べたように、映像や録音など、できるだけ客観的な証拠を集めましょう。被害者の思い込みではなく、加害者が悪意をもって行っていたことを証明することで、離婚が成立しやすくなります。
ガスライティングは、被害者の自己認識を意図的に狂わせる卑劣な心理的虐待行為です。もしもガスライティングの被害に遭ったら、一人で抱え込まず、勇気を出して医師や弁護士などの第三者に相談してみてください。
- こちらに掲載されている情報は、2024年01月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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