- (更新:2024年11月25日)
- 離婚・男女問題
親の反対が原因で婚約破棄…慰謝料請求はできる?
結婚に向けて順調に準備を進めていたのにもかかわらず、相手の親から反対や妨害をされて、婚約破棄になるケースがあります。
本コラムでは、婚約破棄や慰謝料の定義、相手の親への慰謝料請求に必要な条件について解説します。慰謝料請求をするには何が必要なのか、弁護士への相談も想定しつつ理解を深めてください。
1. 婚約破棄で慰謝料請求ができる条件
婚約破棄や慰謝料の定義、婚約破棄における慰謝料請求の条件について解説します。
(1)婚約破棄とは
婚約とは、男女が将来婚姻する約束をかわすことです。契約の一種であり、互いの合意があれば成立します。ただし、法的に婚約の成立を裁判所に認めてもらうためには、結納や指輪の受け渡し、お互いの親への挨拶などの客観的な事実が必要です。
婚約破棄とは、この婚姻の約束(婚約)をどちらか一方が相手の同意を得ることなく一方的に取り消すことです。
(2)婚約破棄と婚約解消の違い
「婚約破棄」のほかに「婚約解消」という言葉をお聞きになったことがある方も多いのではないかと思います。
「婚約破棄」と「婚約解消」はいずれも婚約を成立後に反故にする(効力を失わせる)行為であるという点で同じですが、法的な意味合いと背景に違いがあります。
婚約破棄は、前述したように一方的に婚約を解消する行為を指します。一方で婚約解消は、当事者双方が合意のうえで婚約を終了するものです。
この違いから、婚約解消の場合には双方が納得して行われるため、通常は法的なトラブルに発展せず、慰謝料も発生しません。
一方で婚約破棄の場合には、婚約破棄をされた側は納得できませんし、正当な理由がない場合には婚約破棄による精神的苦痛に対して慰謝料等の損害賠償が認められる可能性もあります。
たとえば、性格の不一致や将来の価値観の違いにより、双方が冷静に話し合いを重ねて双方が納得して婚約解消を決断した場合には、それまでに婚約や今後の生活のために支払った費用の精算をすることはありますが、慰謝料の支払いまでは発生しないことが多いです。一方で、一方的に婚約を破棄した場合には、費用の精算に加えて慰謝料の支払いが問題になることが多々あります。
このように、どういった経緯で婚約が終了したかによって法律上の責任や対応が異なるため、当事者は冷静に状況を判断して慎重に対応することが求められます。
(3)慰謝料とは
相手から一方的かつ不当に婚約破棄された側は、精神的苦痛を受けるでしょう。民法709条では不法行為による損害賠償、同710条では財産以外の損害に対する賠償が定められています。これらの規定により、他者に精神的苦痛を与えた場合には賠償をしなければならず、この際に支払われる金銭が慰謝料です。
(4)婚約破棄の慰謝料請求に必要な条件
慰謝料を請求するには、「婚約の成立」と「婚約の破棄に正当な理由がないこと」という条件を満たす必要があります。婚姻届を出す結婚と異なり、婚約に必要なのは互いの合意のみであり、定まった形式がありません。そのため、裁判で慰謝料を求める場合に、婚約した事実を立証するには、指輪の受け渡しや結納など、客観的に婚約が成立しているとみなされる証拠を提示しましょう。
さらに、慰謝料を請求する側に借金や暴力、浮気といった婚約破棄されるような落ち度がないかを確認する必要があります。婚約破棄される正当な理由がある場合は、むしろ相手側から慰謝料を請求されてしまう可能性もあります。
(5)不当と判断されうる婚約破棄の理由
婚約破棄に正当な理由がないこと、つまり婚約破棄が不当と判断される要件として、以下のようなケースが挙げられます。それぞれの項目について具体的に解説します。
①他に好きな人ができた
一方的な感情の変化によるものであり、相手に落ち度がないため、不当と判断されやすい理由です。
②親族からの反対
親族の意見で婚約を破棄する場合、その親族の意見が婚約相手の借金や女性問題など通常も婚姻に支障があることを指摘するものでなければ、婚約相手に落ち度はありませんので、不当と判断されることがあります。
④性格の不一致
性格や価値観の違いのみを理由とした婚約破棄不当と判断されやすくなります。
⑤部落や国籍による差別
部落や国籍、人種等を理由に婚約破棄をすることは不当な婚約破棄と判断される可能性が高いです。
⑥結婚への不安や迷い
婚約後に漠然とした不安を理由に一方的に破棄するのは、不当と判断されやすいと言えます。
このような理由での婚約破棄は、正当な理由を欠く婚約破棄であり、相手に精神的苦痛を与えるため、慰謝料等の損害賠償をしなければならない可能性があります。
2. 相手の親からの反対で婚約破棄になった場合の慰謝料請求は可能?
相手の親からの反対で婚約破棄になった場合、慰謝料請求は可能でしょうか。以下では、慰謝料請求が可能なのかを判断するポイントや過去の裁判例について取り上げます。
(1)親からの反対は婚約破棄の「正当な理由」になるか
婚約しても、相手の親と不仲になり、反対を受けてしまうと結婚までスムーズに進められません。しかし、婚約や婚姻は法的には当事者2人の問題であり、家族の問題ではありません。また、親を説得する、婚約者と親の間を取り持つなどして関係を改善するという方法もあります。そのため、親からの反対は、基本的に婚約破棄の正当な理由にはなりません。ただし、婚約を破棄した婚約者に対しては慰謝料請求が可能です。
(2)相手の親に慰謝料請求は可能?
婚約を破棄した当事者に対しての慰謝料請求は可能ですが、相手の親は婚約した相手本人ではないため、慰謝料を請求できるかについては状況により異なります。
①慰謝料請求ができる場合
相手の親からの強い干渉や悪質な妨害があった場合は、慰謝料請求できる可能性が高いです。婚約者の出自や信仰に対して相手の親が偏見を持ち差別した場合や、親が婚約者の欠点を子どもに吹きこみ、結婚の意思をなくさせた場合なども該当します。
②慰謝料請求ができない(困難な)場合
婚約破棄の原因に相手の親があまり関わっていない場合は、慰謝料請求は困難です。親の反対がなくとも相手が結婚する意思をなくしていた場合や、破棄された側に非があって婚約破棄に至った場合などです。
(3)婚約破棄で相手側の親に対する慰謝料請求が認められた判例
以下に紹介する事例では、相手側の親への慰謝料請求が認められました。
①婚約者(男性)の母親が原因で婚約破棄に至ったケース(徳島地裁昭和57年6月21日判決)
お見合いと結納を交わして婚約が成立し、結婚式場の予約や出席者への招待状送付、新婚旅行の準備まで終えてから一方的に婚約破棄が行われた事例です。婚約を破棄された女性は、退職や嫁入り道具の購入まで済ませていました。しかし、男性は、結婚式直前に電話1本で婚約を破棄します。男性は、以前から母親に女性の体型や性格への不満を話しており、母親も女性との結婚に強く反対していたという事情がありました。
裁判所は、男性が女性との結婚に対して優柔不断な態度であり、母親の反対がなければ婚約破棄に至らなかったと判断し、母親と男性の共同不法行為(民法719条)を認めました。共同不法行為の規定では、複数人が共同で不法行為を加え、他者に損害を与えたときは連帯して損害賠償責任を負うものとしています。この事例では、慰謝料に加えて嫁入り道具購入費用の賠償、女性が退職したことによる賠償も認めています。
②婚約者(男性)の親による部落差別で婚約破棄に至ったケース(大阪地裁昭和58年3月28日判決)
この事例は、被差別部落出身の女性と男性が婚約して結納を済ませた後、男性の親が結婚に強く反対して婚約破棄が行われた事例です。男性は女性の出自を知っており、当初は親と絶縁してでも結婚する意思を見せていましたが、親からの猛反対により結婚に消極的な姿勢へと変化しました。
裁判所は、出自への差別を理由に婚約を破棄するのは不当として、男性とその親の共同不法行為を認めました。女性が結婚を理由に退職していた事情も鑑み、相場よりもやや高めの慰謝料の支払いを求めています。
3. 婚約破棄での慰謝料請求の流れ
(1)証拠収集
婚約の存在や破棄の経緯を示す証拠を集めます。具体的には、婚約指輪や結納の写真、家族・友人への紹介状況、SNSでの投稿などが有力な証拠として挙げられます。また、破棄の理由やタイミングがわかるメッセージやメール、会話の録音も重要な証拠になります。
(2)協議・交渉
相手方と直接交渉し、話し合いで解決できるかを検討します。この段階で慰謝料の支払い額や支払方法に合意できれば、迅速に解決します。
当事者間の話合いがうまく進まない場合には、弁護士に依頼して交渉の代理人となってもらうこともできます。この場合、相手に対して弁護士名による内容証明郵便を送って、慰謝料等の損害賠償請求を行います。
(3)調停または訴訟の申し立て
内容証明でも合意に至らない場合は、家庭裁判所で調停を申し立てます。調停での解決が難しければ訴訟に進み、裁判所での判断を求めます。
以上の手順で、慰謝料請求を進めることが一般的です。
4. 婚約破棄での慰謝料請求をする際のポイント
(1)婚約の証拠を揃える
婚約が成立していたことを証明するために、婚約指輪、結納の記録、婚約式の写真、家族・友人への紹介状況、SNS投稿などを用意します。証拠が不十分だと婚約そのものが認められない可能性があるため、しっかりと準備をしましょう。
(2)破棄の理由を明確にする
婚約破棄が相手方の不当な理由によるものであることを明らかにする必要があります。たとえば、相手の浮気や一方的な気持ちの変化など、正当な理由がない場合に慰謝料請求が認められやすいです。
(3)損害額を具体的に計算する
精神的損害だけでなく、婚約に伴う引っ越し費用や結婚準備にかかった費用なども損害額として算出します。明細を出しておくことで、請求額が現実的かつ具体的になります。
(4)適切な解決手段を選ぶ
まずは冷静な話し合いや交渉を試み、それでも解決できない場合は内容証明郵便で正式に請求します。交渉が不調なら、家庭裁判所で調停を申し立て、最終手段として訴訟も検討します。
(5)冷静に進める
感情的になりすぎず、法的根拠をもって対処することが重要です。証拠を整え、冷静に話し合う姿勢が、結果的に有利に進めるポイントとなります。
これらの留意点を押さえ、冷静かつ慎重に進めることが、慰謝料請求を成功させるための鍵となります。
5. 婚約破棄の慰謝料請求で弁護士に相談するメリット
婚約破棄の慰謝料請求を希望される方は、弁護士に相談するのがおすすめです。それは、婚約を破棄した相手と交渉するのは精神的な負担がかかること、また、個人では法的な判断が難しい場合も多いことが理由です。依頼すれば、弁護士が相手側との交渉を担ってくれるため、不安やストレスの大幅な軽減が可能です。相手の親からの反対が婚約破棄の正当な理由に該当するかなど、判例や経験に基づいた適切な対応をしてくれます。
また、煩雑かつ複雑な法的な手続きも弁護士が全面的にサポートしてくれます。ただし、依頼する場合は、弁護士費用が必要です。どの程度の費用が必要なのかも含めて、まずは相談してみてください。
一般的に、婚約破棄にまつわる法的問題を当事者間で解決するのは困難です。できるだけ迅速に解決に結びつけるためにも、知識や経験を持った弁護士のアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。
6. 婚約破棄のよくある質問
(1)婚約指輪は返さないといけない?
婚約破棄の原因が誰にあるかによって異なります。
相手側に原因がある場合は結婚指輪を返還する必要はありません。しかし、ご自身に原因がある場合は、原則として結婚指輪を返還する必要があります。婚約解消の場合には、返還の必要性についても話し合う必要があります。
ポイント
婚約指輪の扱いに関するトラブルは後を絶ちません。当事者間でどうするかを決められない場合や、揉めそうな場合は早めに弁護士に相談し、法的に適切な対応を取りましょう。
(2)結婚式のキャンセル料は誰が負担する?
婚約破棄に正当な理由がない場合には、婚約破棄した側がキャンセル料を負担することになります。
婚約破棄をした理由が相手の暴力や第三者との性行為、借金など婚約破棄に正当な理由がある場合には、暴力や性行為、借金をした側がキャンセル料を支払うべきと言えます。
ただし、これは婚約者との間の内部的な負担関係であり、式場との関係で誰が支払うことになっているかは契約書をよくチェックする必要があります。婚約破棄をした(された)理由が自分にないとしても、式場に対しては支払いを行わなければならないこともあります。この場合には、式場に対しての支払いは済ませたうえで、相手に対して自身への支払いを求めます(求償します)。
ポイント
結婚式は高額なキャンセル料が発生するケースも少なくありません。弁護士に相談し、進め方や負担割合についてアドバイスを受けることが重要です。
(3)婚約破棄に関する相談はどこにすればいい?
①弁護士
法的な問題について相談するなら、弁護士が最適です。
②家族や友人
信頼できる人に話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になることがあります。
③カウンセラー
専門家のサポートを受けることで、心の傷を癒すことができます。
婚約破棄は、法的にも精神的にも負担の大きい出来事です。ひとりで抱え込まず、専門家の力を借りながら、最善の解決策を見つけていきましょう。
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