部活中に熱中症で倒れて後遺症を負った…学校を訴えることはできる?

部活中に熱中症で倒れて後遺症を負った…学校を訴えることはできる?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

夏場の部活動で懸念されるのが、練習中に子どもが熱中症で倒れるリスクです。もしも部活で熱中症になり、さらにけがや後遺症などを負った場合、その責任は誰になるのでしょうか。

本コラムでは、熱中症の具体的な症状、法的責任、過去の事例、学校を訴える場合の対応など、保護者の方々が知りたい情報をわかりやすく解説します。

1. 熱中症とは

熱中症とは、高温多湿の環境下などで身体が過度に熱を帯び、正常な体温調節ができなくなる状態のことです。その結果、体調不良を引き起こし、深刻な場合には後遺症をもたらすことや、死亡してしまうことすらあります。

一般的に、熱中症の程度は以下のように3段階に分類されています。

  • 軽度:大量の発汗、立ちくらみ、手足のしびれなど
  • 中等度:悪寒、吐き気、頭痛、けんたい感など
  • 重度:意識障害、けいれん、過度の発熱など

上記のように、熱中症は決して侮れないものです。最悪の事態を防ぐには、軽度の段階の兆候が出た時点で直ちに運動をやめ、涼しい場所で水分補給をする、身体を冷やすなど、適切な対処を心がける必要があります。

(1)WBGT(暑さ指数)とは?

熱中症を予防する上で役立つのが「WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)」という暑さを示す指標です。WBGTは単純な気温だけでなく、直射日光や湿度などを考慮に入れた総合的な蒸し暑さを示しています。

たとえば、WBGT28以上~31未満はすべての生活活動で熱中症が起こる危険性がある「厳重警戒レベル(激しい運動は中止)」であり、WBGT31以上は「危険(運動は原則中止)」となります。なお、WBGT28以上~31未満を気温に換算すると31~35℃程度に該当します。

WBGTや気温に加え、以下のことを意識すると、より熱中症を防ぐ助けとなります。

  1. こまめな水分補給

    活動前、活動中、活動後のそれぞれで水分をこまめにとりましょう。ただの水よりも、塩分や糖分、電解質なども摂取できるスポーツドリンクがおすすめです。

  2. 適度に休憩をとる

    日陰やクーラーの効いた屋内などで、こまめに休憩をとりましょう。熱が体内にこもっている場合には、首筋やわきの下、足の付け根などを保冷剤で冷やして体温を下げましょう。

  3. 適切な服装

    風通しの優れた涼しい服装をするほか、帽子や日傘の利用などを考慮しましょう。

2. 部活中の熱中症は誰の責任?

子どもが部活中に熱中症になってけがなどを負った場合、その状況に応じて損害賠償責任を問うことが可能です。

ここでは、その際に国立・公立学校、私立学校それぞれに適用される法律や、どのような場合に学校側の過失が問われるのかを解説します。

(1)国立・公立学校の場合

国立・公立学校の場合、学校運営の主体である国または都道府県や市町村などの自治体が国家賠償責任を負います(国家賠償法第1条第1項)。つまり、国立・公立学校の場合、事故の起因が教職員であっても被害生徒および遺族に対して直接の損害賠償責任を負いません。

(2)私立学校の場合

一方、私立学校の場合、民法709条における不法行為や債務不履行の規定に従って、学校もしくは教職員個人に対して責任を問うことが可能です。

不法行為とは、故意または過失によって他者の権利を侵害する行為のことで、不法行為をした本人は発生した損害について賠償しなければなりません。また、学校の運営者に関わる学校法人なども被害生徒および遺族に対して、使用者責任に基づく損害賠償を負います(民法715条1項)。

ただし、公立校・私立校いずれの場合も賠償請求を行うには、学校側に何らかの注意義務違反(過失)があったという証明が必要です。では、具体的にどのような状況だと学校側の過失があったとみなされるのでしょうか。

(3)学校側の過失とは?

学校側の過失とは、生徒を安全に保護するための「注意義務」を怠った場合を指します。具体的には、以下で示す「予見可能性」と「結果回避可能性」を基準に判断されます。

  • 予見可能性:気温や湿度などから熱中症のリスクが高いと予見できたかどうか
  • 結果回避可能性:事故の予見ができた場合、その事故を回避できたかどうか

要するに、熱中症のリスクが高まっている状況であると十分に予測できる状況だったにもかかわらず、そのリスクを軽減するための対策がとられていなかった場合、教職員や学校側の責任が認められるということです。

特に、生徒が体調不良を訴えてきたにもかかわらず、そのまま練習を継続させたような場合、過失が認められやすいです。

3. 部活中に起こった熱中症事故の例

ここでは参考のために、部活動中に熱中症で倒れ、その後裁判によって学校側の過失が認められた具体的な事例を紹介します。

平成21年8月、大分県の県立高校で、剣道部の部活動中に生徒が熱中症で倒れ、亡くなってしまった事例があります。当時の顧問は8月の暑い盛りであるにもかかわらず、部員に十分な水分補給をさせず、トイレへ吐きに行く部員も現れる中で過酷な練習を強行していました。

特に亡くなった生徒に関しては、打ち込み練習中にふらつき、竹刀を取り落としてもそれに気づかないほど意識がもうろうとした状態であったにもかかわらず、顧問はそれを練習から逃れるための演技だとみなし、練習を続行させようとしました。その結果、部員は倒れてしまい、必要な治療処置が遅れたこともあり、亡くなってしまいました。

部員たちのトイレでの「嘔吐(おうと)」や、亡くなった生徒が見せた「ふらつき」、「意識の混濁」などは、熱中症の一般的な症状です。このことから裁判所は、本来なら顧問がその危険性を直ちに認識し、練習の中断や病院への搬送など必要な処置をとらなければいけなかったと判断し、損害賠償請求を認めました。

この事例からもわかるように、学校側は生徒たちが安全に部活動を行えるように、熱中症に対する正しい認識を身につけ、必要な安全対策を講じる義務があります。

4. 部活中に熱中症になり後遺症が出た場合は?

もしも自分の子どもが部活動中に熱中症を発症し、それが原因でけがや後遺症を負った場合、どのように対応すればよいのでしょうか。ここでは、そのような状況に直面した場合の具体的な対処法を解説します。

(1)日本スポーツ振興センターに障害等級認定の申請

部活動が原因で後遺症を負ってしまった場合、まず日本スポーツ振興センターに障害等級認定を申請します。これにより、子どもが障害を受けたことが公的に認められ、将来的に賠償金を請求する際の証拠となります。なお、この認定を受けるには医師に作成してもらった障害診断書の提出が必要です。

(2)加害者、学校との示談交渉・民事訴訟

障害等級認定を受けたら、指導に問題があった教職員や学校に対して、賠償金の請求を行うための交渉を開始します。この段階であらかじめ弁護士に相談し、必要な助言や支援を得ておくことをおすすめします。

弁護士は豊富な法律知識や経験を生かし、賠償額や交渉方法などを適切に判断できます。また、損害賠償請求をする際は、裁判に訴える前に当事者間で示談交渉をするのが基本ですが、弁護士に依頼すればこの示談交渉の代行もしてくれます。

示談交渉で納得する謝罪や賠償金の合意を得られれば、損害賠償請求はそこで終わりになります。逆に、示談交渉が決裂した場合は、裁判所に訴訟を提起します。この場合でもやはり、訴訟手続きなどに際して弁護士を活用するのが一般的です。裁判で教職員や学校側の過失を立証できれば、損害賠償請求が認められます。

教職員や学校の過失によって子どもが熱中症になり、けがや後遺症を負った場合、損害賠償請求ができます。もしもこうした問題が生じたときには、速やかに弁護士に相談するとよいでしょう。

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