子どものいじめで損害賠償請求はできる? 訴訟・法的手続きの進め方
もし子どもがいじめで不登校になってしまったり、学校に相談しても改善の見込みがなかった場合、親としてどんな法的措置を取ることができるでしょうか。子どもを傷つけた加害者の親や、学校・教育委員会を相手に、損害賠償を請求することはできるのか、解説します。
1. いじめの定義とは?
いじめに対する法的措置を検討する際、まずはいじめの法律上の定義について理解しておきましょう。
平成25年9月に施行された“いじめ防止対策推進法“によると、いじめとは「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」(同法第2条1項)と定められています。
同法には学校や国・地方公共団体がいじめに対して講ずるべき対策や、いじめ加害者の親の義務などが具体的に定められていますが、罰則は規定されていません。たとえば、いじめ防止、早期発見、加害児童への懲戒・出席停止、警察との連携などの義務が明記されています。したがって、同法に違反したからといって直ちに罰が科されるわけではありません。ただし、同法の定める義務に違反したことを根拠に、学校や加害者側の法的責任を追及できる可能性があります。
2. いじめの具体例
いじめ防止対策推進法には、いじめは作為・不作為を問わず、インターネット上の行為も含まれると明記されています(同法第2条1項)。これは、いじめの場所は問わないということですので、学校外でのいじめも対象となります。また、身体的いじめと精神的いじめに大きく分類されます。
具体的には、以下のような行為がいじめに該当すると考えられます。
- 殴る・蹴る・たたくなどの身体的暴力
- 悪口をいう
- 無視する(インターネット上含む)
- 仲間はずれにする(インターネット上含む)
- インターネット上で誹謗中傷される
- 所有物を隠される、壊される、盗まれる、奪われる
- 金銭を要求される
- 脅して何らかの不本意な行為を強要する(裸にさせる、万引きをさせる等)
また、直接の加害者だけでなく、間接的にいじめに加担した人やいじめを助長する行為をした人に、いじめ被害についての故意・過失があれば、損害賠償請求が認められることもあります。
3. いじめた相手・学校へ損害賠償請求はできるか?
いじめ加害者に対しては、刑事責任と民事責任の両方を追及できる可能性があります。いじめ行為の中には、れっきとした犯罪行為に該当しているものも少なくありません。
たとえば、以下のケースにおいて刑事上の責任が問える可能性があります。
- 暴力をふるわれた場合:暴行罪・傷害罪
- 所有物を壊されたり傷つけられたりした場合:器物損壊罪
- 脅されてお金を奪われた場合:恐喝罪
- インターネット上で誹謗中傷された場合:名誉毀損罪
などが考えられます。
ただし加害者が14歳未満の場合は、刑法上責任能力がないとして処罰されません(刑法第41条)。刑事告訴を検討する際は、事件の背景や相手など、まずは弁護士に詳細を相談しましょう。
なお、民事責任は、民法上の不法行為について損害賠償請求を行うという形で、通常加害者親と学校(私立学校のみ)に対して追及します。不法行為とは、“故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害”することです(民法第709条)。難しい言葉ですが、簡単にいえば「相手が傷つくと理解していながら(理解できていなかった場合も含む)加害行為をしたか」ということです。
(1)加害者親の監督義務者としての責任追及
もし加害者が未成年である場合、加害者をしっかりと監督していなかった親の責任を追及し、親に直接損害賠償請求を行うケースとなるでしょう。民法第714条には「責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と明記されています。
では、いじめ加害者自身に「いじめは人を傷つける悪いことだ」と理解できる能力があった場合は、加害者の親は責任を負わなくても良いのでしょうか。最高裁判所の判決では、加害者(未成年)に責任能力がある場合でも、親に監督義務違反があったとして損害賠償責任を認めています(最高裁昭和49年3月22日判決)。
(2)学校に対しての損害賠償請求
国公立学校の場合は国家賠償法、私立学校の場合は民法に基づいて損害賠償請求を行います。さらに、不法行為についての損害賠償請求や、学校の安全配慮義務違反による債務不履行についての損害賠償請求が考えられます。
債務不履行とは不法行為とは別の責任であり、簡単にいいますと、民法上何らかの義務を負っている者がその義務をきちんと約束通り果たさないことです(民法第415条)。たとえば、学校側がいじめを把握していたか、いじめを防止するために適切な対策を講じていたか、被害者自身やその親からの相談に対して真摯に応じていたのかなどが問われます。
4. 刑事責任・民事責任を追及するためには、証拠収集からはじめる
いじめの刑事責任・民事責任を追及するためには、まず証拠収集を行うことが大切です。被害状況だけでなく、日時・場所も特定できるものであることが望ましいでしょう。
主な証拠の例は以下の通りです。
- 医師の診断書(精神的いじめによるうつ病など含む)
- 被害状況を詳細につづった日記
- 録音データ・録画データ
- メール履歴
- SNSのスクリーンショット
- 同級生の証言
5. いじめ問題・損害賠償請求は、弁護士に相談を
いじめ問題で困ったときは、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士にいじめ問題の解決を依頼した場合、通常は加害者側・学校との任意交渉から始めます。さらに、必要と判断すれば内容証明郵便などを用いて、加害者側に謝罪や損害賠償の請求、学校側には実態調査や加害生徒への懲戒・指導・クラス替えなどの再発防止措置を講じるよう求めます。
もしも、任意交渉によっても解決できない場合は、民事訴訟に発展する可能性もあります。また、いじめはさまざまなケースがありますので、ヒアリングや調査の上で被害が深刻である場合には、最初から弁護士に刑事告訴の手続きを最初から依頼することもあります。
こういったケースに応じた適切な法的措置は一般の方には難しいものです。またご両親が共働きであった場合、時間を捻出することに悩まれるケースもあります。
いじめ問題を弁護士に相談することで、かえって大事に発展するのではないかと懸念される方もいますが、必ず訴訟に発展するわけではありません。事態が悪化した場合に備えて、証拠集めの準備や今後の見通しなどのアドバイスを受けることも可能です。
いじめ問題で悩んだ際は、弁護士も有効な選択肢のひとつです。学校・教育問題の実績豊富な弁護士を選び、解決に向けて一歩を踏み出しましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2021年04月05日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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