子どもがいじめの加害者にされた。冤罪は名誉毀損になる?
いじめをしていないにもかかわらず、いじめの加害者にされてしまうことを「いじめ冤罪(えんざい)」といいます。
自分の子どもがいじめの加害者にされてしまった場合には、いじめ冤罪を晴らすためにどのような対応をすればよいのでしょうか。また、冤罪をかけてきた相手に対しては、名誉毀損(きそん)を理由に訴えることができるのでしょうか。
今回は、子どもが事実に基づかずいじめの加害者にされてしまった場合における対応について解説します。
1. いじめの冤罪とは
いじめの冤罪とは、いじめの加害者ではない子どもがいじめの加害者として扱われることをいいます。簡単にいえば、無実であるにもかかわらずいじめの罪を着せられてしまうことです。
いじめ冤罪は、被害者の誤解から生じたり、本当の加害者が自分の責任を免れるために第三者を加害者にでっち上げることで生じます。学校側がきちんといじめの調査を行えば、冤罪であることは明らかになりますが、一方の意見のみしか聞かずに適切な調査を怠ったような場合には、いじめ冤罪が生じてしまうことがあります。
2. 名誉毀損になる?
上記のようないじめ冤罪は、名誉毀損になるのでしょうか。
(1)名誉毀損とは
名誉毀損とは、公然と事実を摘示して他人の社会的評価を低下させる行為のことをいいます。いじめ冤罪についても、以下の要件を満たす場合には、名誉毀損にあたる可能性があります。
①公然
公然とは、不特定または多数の人に事実が伝わる状態のことをいいます。教室内に多数の子どもがいる状況でいじめの冤罪をかけられた場合には公然性の要件を満たします。また、特定の相手にのみ伝えたとしてもその者を通じて不特定多数に広がっていく可能性がある場合にも要件を満たします。
②事実の摘示
名誉毀損が成立するには、具体的な事実を摘示する必要があります。そのため、「バカ」「ブス」といった評価や感想では名誉毀損は成立しませんが、「○○君が△△君をたたいていた」「○○君が△△君を無視していた」などの表現であれば事実を摘示したことになります。
③社会的評価の低下
事実の摘示によって、相手の社会的評価が低下するおそれがあれば名誉毀損が成立します。いじめの加害者にでっち上げられた場合には、その人の学校生活における評価は低下してしまいますので、名誉毀損が成立する可能性があります。
(2)名誉毀損が成立しないケースとは
上記の名誉毀損の要件を満たす場合であっても、以下のすべての要件を満たす場合には、名誉毀損は不成立となります。
①事実の公共性
事実の公共性とは、摘示した事実が市民が民主的自治を行う上で知る必要がある事実であることをいいます。たとえば、政治家の不正や不祥事に関する事柄は、公共性のある情報と判断されますが、私人のプライベートに関する情報については、原則として公共性が否定されます。
いじめの問題は、社会的関心が高い事項といえますが、個人間の問題ですので、公共性は否定される可能性が高いでしょう。
②目的の公益性
目的の公益性とは、公共の利益を図る目的で行為に及んだことをいいます。単なる好奇心を満足させるために事実を摘示した場合には、摘示した事実に公共性があっても名誉毀損の責任を免れることはできません。
③事実の真実性
名誉毀損の成立を否定するためには、摘示した事実の重要部分について真実または真実と信じるに足りる相当な理由があることが必要です。いじめ冤罪は、でっち上げられた罪ですので事実の真実性を満たすことはなく、名誉毀損の責任を免れることはできないでしょう。
(3)名誉毀損にあたる場合の対応
いじめ冤罪によって名誉を毀損された場合には、以下のような対応が可能です。
①刑事告訴
名誉毀損は、刑法上の犯罪行為です(刑法230条1項)。いじめ冤罪によって名誉を毀損した加害者に対して、刑事上の処分を与える場合には、警察に刑事告訴をすることができます。
なお、名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金と規定されています。
②損害賠償請求
名誉毀損によって精神的苦痛を被った被害者は、いじめ冤罪の加害者に対して、慰謝料などの損害賠償請求をすることができます。
3. 冤罪を受けた場合の相談先
いじめ冤罪を受けた場合には、以下の相談先に相談をすることをおすすめします。
(1)公的な相談窓口
いじめ冤罪を始めとするいじめに関する問題については、各都道府県の教育委員会や法務局などの公的機関が相談窓口を設置して対応しています。
- 24時間子供SOSダイヤル
- 子どもの人権110番
- インターネット人権相談
(2)民間の相談窓口
いじめ問題については、公的機関だけではなくNPO法人などの民間団体も相談窓口を設置しています。
- チャイルドライン
- インターネットよりそいチャット
(3)弁護士
いじめ冤罪によって学校側から処分をされた、加害者に対して法的責任を追及したいという場合には、子どもと保護者だけでは対応が難しいため、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。弁護士であれば、学校側や加害者と交渉をして、問題の解決に向けて尽力してくれます。
- こちらに掲載されている情報は、2023年04月21日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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