いじめで不登校になった…損害賠償は請求できる?
いじめによって子どもが不登校になった場合、損害賠償の請求が可能です。
本コラムでは、不登校問題に直面したときの対応や損害賠償請求の方法、裁判以外の手段について解説します。子どもの不登校でお悩みの方は、参考にしてください。
1. いじめでの不登校、親はどう対応したらいい?
文部科学省が令和5年10月に公表した調査結果で、令和4年度の小中学校における不登校者数は、過去最多となる29万9048人であることが明らかになりました。同調査によれば、小中学校および高校でのいじめの認知件数も、68万1948件と過去最多です。いじめも、それによる不登校も、今や決して珍しいことではないとわかります。
出典:文部科学省初等中等教育局児童生徒課 「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」自分の子どもがそのような状況に陥った場合、まずは無理に学校へ行くことを求めるのではなく、いたわりつつ休ませてあげることが大事です。それから登校に対する本人の意思を確認し、選択に応じて以下の対応をすることが考えられます。
(1)学校に再度通う意思がある場合
子どもが学校へ通う意思を持ち続けているのであれば、安心かつ安全に学校へ通える環境を整えることが急務です。そのためには、学校関係者(担任、学年主任や校長など)へ相談する機会を設ける必要があります。
日本には「いじめ防止対策推進法」という法律があり、その中で学校や教職員にいじめへの適切かつ迅速な対処を行う責務があると定めています(第8条)。つまり、いじめがあるという事実について相談された学校関係者は、その防止措置を講じなければなりません。具体的な措置としては、保健室登校を認める、いじめの加害者を別室に移す、スクールサポーターをつける、といったことが考えられます。
出典:e-Gov法令検索「いじめ防止対策推進法」(2)学校に再度通う意思がない場合
いじめを受けた子どもは、嫌な記憶がある学校へは通いたくない、通えないと考える可能性もあります。あくまでも同じ学校に通うのを拒んでいるだけであれば、転校を視野に入れるのもひとつの方法です。いじめの加害者がいない別の学校へ通うのは問題ない、と子どもが考えるケースもあるからです。
現在通っているのが公立学校である場合、学校教育法に基づいて市町村が就学先を指定する形となっています。しかし、いじめ問題を含む一定の事情がある場合は、指定校の変更も認められるため、校長などに相談してみましょう。
(3)ひとまず休みたいという場合
いじめで心に傷を負った子どもは、学校に通えるかどうかの判断がすぐにはできないこともあるはずです。そのような場合、ひとまず休ませてから保護者と共においおい考えていくことになります。
学校への通学は、子どもの権利ではありますが、義務ではありません。したがって、保護者としても焦って登校を促す必要はなく、落ち着いて様子を見ましょう。学校から出席日数などの関係で登校を求められる可能性はあるものの、拒否をして差し支えありません。
なお、保護者には原則として子どもを小中学校に通わせる義務(就学義務)が課せられています。しかし、いじめは子どもを出席させないことについて保護者に認められる「正当な事由」に該当すると考えられるため、不登校が就学義務違反の理由となることはありません(学校教育法施行令第20条)。
出典:e-Gov法令検索「学校教育法施行令」(4)休みたくはないが学校が嫌だという場合
子どもに休むつもりはなく、しかし学校へは行きたくないケースも考えられます。この場合には、民間の教育施設(フリースクールなど)や学校外の公的機関(教育支援センターなど)へ通わせることも検討しましょう。
これらの施設や機関は学校そのものではありませんが、文部科学省では一定の要件を満たす場合に、指導要録上の「出席扱い」を認めることがあります。ただし、保護者と学校との連携・協力関係が要件のひとつとなっているため、学校との連絡や相談は必要です。
2. いじめた相手や学校に損害賠償請求できるか
いじめと呼ばれる個々の加害行為は、刑法上の犯罪にあたる可能性があると共に、民法上の不法行為にあたる可能性もあります。損害賠償ができるかどうかは民事上の責任の問題です。
以下では、いじめがどのような罪にあたるのかという刑事上の責任を確認してから、損害賠償請求ができるかという民事上の責任を解説します。
(1)いじめはどのような罪にあたるか
殴る・蹴るといった暴力をふるわれたのであれば、それは暴行罪にあたります。暴力によってけがをした、あるいはナイフなどで切りつけられて切り傷を負った場合は、傷害罪です。
肉体への直接的な暴力でなくとも、悪口を言われた、インターネット上に侮辱的な言葉を書かれたといったケースでは、侮辱罪や名誉毀損(きそん)罪にあたる可能性があります。
また、文房具を壊された、衣服を切り裂かれたといった場合には、器物損壊罪が成立すると考えられます。さらに、物やお金を盗られたら窃盗罪、脅し取られたら恐喝罪です。
このような罪が成立するときには、刑事告訴も選択肢に入ります。しかし、加害者が14歳未満の場合には刑法上の責任能力が認められず(刑法第41条)、刑事罰が科されるわけではない点に注意しなければなりません。
(2)いじめを理由とした損害賠償請求は誰にできるか
いじめを受けることで、被害者にはけがの治療費や通院の交通費といったさまざまな損害が生じます。こうした損害のうち、いじめによって生じたと認められるものは、加害者へ賠償請求が可能です。
損害賠償を請求する相手方は、原則として加害者本人です。しかし、小中学校で同級生からいじめを受けた場合などは、加害者が未成年であるため責任能力が認められないこともあります。仮にそれが認められたところで、賠償をできるだけの資力もないはずです。
そこで、加害者の保護者が監督義務違反をしたことによりいじめが行われた、というロジックで、保護者(主に親)への請求を行う形になります。
ほかにも私立学校であれば、いじめを防止しなかったという安全配慮義務違反があるとして、学校や教師に対する損害賠償請求も考えられます。この場合の安全配慮義務とは、学校が児童や生徒との関係で負っている、安全に学校生活を送れるよう配慮する義務のことです。なお、国公立学校の場合は、国家賠償法違反を根拠として国や自治体へ請求します。
(3)いじめによる不登校では何を損害として賠償請求できるか
いじめで不登校になった場合、加害者や学校などの相手方へ請求できる「損害」には、治療費、慰謝料や本来得られていたはずの利益(逸失利益)などが挙げられます。治療費は肉体や精神の治療に要する費用であり、慰謝料は精神的なダメージを償うための金銭です。
また、いじめへの対策として転校や転居を選んだ場合、その費用も請求できる可能性があります。実際、いじめを原因とした転居で、費用の賠償請求を認めた裁判例も存在します(京都地裁平成17年2月22日判決など)。
出典:「京都地裁 判決文」さらに、いじめで相手を訴えて勝訴した場合には、弁護士費用の一部が損害として認められます。目安としては、裁判所に認容された金額の約1割です。
3. まずは和解(示談)・民事調停から
いじめの被害を民事裁判で争うには、相当な時間や支出を覚悟しなければなりません。その前段階として、示談による和解や民事調停という解決方法もあります。
(1)和解(示談)とは
相手方と話し合い、お互いの譲歩により問題を解決する手段です。裁判所が関わることもあればそうでないこともあり、裁判所が関わるものを「裁判上の和解」と言います。
話し合いがスムーズに行けば時間や費用を大幅に節約できる点、いろいろな問題を含めて柔軟に解決できる点が主なメリットです。示談をする際は、あとから取り決めに関するトラブルが発生しないように、弁護士に同席してもらうことをおすすめします。
(2)民事調停とは
裁判所において、裁判官や調停委員が加わる話し合いで問題を解決する手段です。相手方との話し合いがまとまると、調停調書という書類が作成され、判決と同じような拘束力が生じます。
訴訟よりは手続きが簡単で、時間や費用の負担も軽い点がメリットです。とはいえ、法的な内容も含む話し合いでは、弁護士のサポートがあるに越したことはありません。弁護士に依頼すれば、より説得力のある主張を展開できるようになります。
いじめによる不登校の問題では、子どもの意思を確認し、適切なサポートをする必要があります。加害者や学校などへ損害賠償請求をするときには、弁護士への相談をおすすめします。
- こちらに掲載されている情報は、2024年06月02日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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