親の年金・預金の使い込みが発覚! 罪に問える? 対処法を解説
親が子に通帳を預け、年金や預金の管理を任せるケースも少なくありません。しかし、大切な財産の使い込みが判明した場合、どう対応すればよいのか戸惑ってしまっても無理はありません。
本コラムでは、年金の使い込みが発覚した際に問える罪、お金の取り戻し方、使い込みを調べる方法、財産を適切に管理するために設けられた制度を紹介します。
1. 親の年金・預金の使い込みは刑事罪に問えるか
第三者による年金・預貯金の使い込みが発覚した際は、窃盗罪や横領罪などの刑事罰が成立します。一方、子が親の受給する年金や親名義の預金を使い込んだ場合には「親族相盗例」の特例が適用されるため、刑事罰が免除されるケースがあります。年金・預金の使い込みが生じるパターンでもっとも多いのは、親が子に通帳を預けて財産の管理を任せているケース、子が無断で通帳を持ち出してお金を引き出すケースの2つです。
(1)「親族相盗例」とは
「親族相盗例」とは、窃盗罪・横領罪を行った人が、被害者の配偶者・子(直系血族)または同居の親族だった際、刑が免除される特例です。子や同居している 親族が年金受給者の財産を不正に使った場合、刑法第244条「親族間の犯罪に関する特例」・刑法第251条に規定される「親族相盗例」の適用により刑は免除されますが、 配偶者以外の兄弟姉妹など同居していない親族に対しては特例が適用されません。
ただし、被害者が告訴した場合には刑法第244条 第2項によって親告罪となり、刑事事件として捜査してもらえます。これにより、罪が認められるケースもあります。また、認知症・精神障害・高齢などの理由で判断能力が低下し、通帳を管理する職にある成年後見人の使い込みは犯罪です。成年後見人には、被後見人の財産を被害から守る義務が課せられているためです。
(2)窃盗罪
窃盗罪とは、他人が占有する財産を占有者の許可なく自分のものにする犯罪です。本人が管理する預金通帳を勝手に持ち去りお金を使った場合は、窃盗罪に問われます。窃盗罪が成立すると「10年以下または50万円以下の罰金」が科されますが、被害者の子が窃盗を行ったときは、特例が適用されるため刑は免除されます。
ただし、家族を含めた他人の通帳を使って、銀行等の金融機関から財産を引き出すことは、金融機関を被害者とする窃盗罪や詐欺罪が成立することがあり、この場合には、親族相盗例も適用させず、犯罪として処罰される可能性があります。
(3)横領罪
横領罪とは、簡単に言えば、 他人のものを管理 している状況で権利者の許可なく取得・売却などを行って自分の財産とする犯罪です。例えば、親が子に通帳の管理を任せている状況で、子が勝手に親の通帳からお金を引き出し、使ってしまうケースなどが横領罪に該当します。横領罪は罰金刑のない重い罪です。「5年以下の懲役」が科せられますが、横領罪も子や一定の親族に対しては刑が免除されます。
(4)損害賠償請求
親子間の問題は、子に年金・預貯金等の財産を使い込まれてしまった場合、民事不加入として警察に対応してもらえないケースが大半です。しかし、刑罰が適用されないケースでも、民法に明記された「他人の権利を侵害する行為」に該当するため、民事上の損害賠償請求や、不当利得 返還請求の手続きを申請することが可能です。
2. 使い込まれた年金・預金を取り戻せる?
使い込まれてしまった年金・預貯金を取り戻すには、さまざまな問題を解決しなければなりません。たとえ使い込みが発生していても、年金受給者本人が引き落としや残高の変化に気付かなかった場合、使い込みの事実を発見することは困難です。被害に遭った本人だけでなく、第三者が使い込みの事実に気付くケースもあります。使い込みが疑われる場合、状況を確認するだけでなく、使い込みの事実を証明するための証拠も集める必要があります。
銀行の取引履歴から使い込みが判明したとしても、実際にどれだけの額が使われてしまったのか正しく把握できないケースが大半です。特に、通帳から引き出された記録が複数回におよぶ場合、すべての用途を明らかにしなければ使い込まれた合計額は判断できません。また、使い込んだ本人がその事実を認めなければ、裁判を行ったとしてもお金が戻ってくる可能性は低くなります。
返金を求めるための手続きは、使い込みが発覚した時期により取るべき対応が変わります。
(1)親の生前に使い込みが発覚した場合
親の生前に、預金から使途不明のお金が引き出されていることが発覚した場合、お金を使い込んだ子に対して親本人が損害賠償請求または不当利得返還請求を行えます。
(2)親の死後に使い込みが発覚した場合
親の死後に使い込みの事実が判明した場合、年金・預金を使い込んだ子以外の法定相続人が、被相続人(親)が有していた損害賠償請求権もしくは不当利得返還請求権を受け継ぐことが可能です。
権利を受け継いだ相続人は、自分の相続分について請求できます。
3. 年金・預金の使い込みを調べる方法
上述したように、使い込みが疑われる場合には、年金・預金を無断で引き出した事実を証明しなければなりません。使いみちが明確でない引き出し記録を見つけただけでは「親から頼まれた」「親の支出のために引き出した」と主張されるおそれがあります。また、年金・預貯金が不正に引き出されたときに、判断能力が十分であったかどうかも大きく関係します。
例えば、認知症により判断力が低下していた時期に年金・預金が引き出されていた場合には、通帳を管理していた人が無断でお金を引き出した可能性は極めて高くなるはずです。通帳と併せて、受診時のカルテ・介護施設の記録などを照合すると、理由なく引き出されたお金かどうかが判断しやすくなります。
4. 年金・預金の使い込みを防止する方法
年金・預金の使い込みは解決が難しいため、元気なうちに対策を立てておくようにしましょう。財産を守るための制度について理解を深め、使い込みのトラブル防止につながる対策を立てておくと安心です。
(1)任意後見制度
任意後見制度は、認知症などで判断力が低下する可能性のある方が、元気なうちに自分で後見人を選出して任意後見契約を結ぶ制度です。任意後見契約では、任意後見人と併せて財産管理や医療・介護方針など将来委任する事務内容を定め、公正証書を作成します。この制度では、親族、弁護士、司法書士など、本人が任意後見人を自由に選定できるのが特徴です。
(2)制限行為能力者制度
制限行為能力者制度は、認知症などによって判断能力が一定程度低下し、財産管理や介護施設の契約などを自身で行うことが困難になった際、重要な財産の契約において不利益を被らないために設けられた制度です。家庭裁判所が本人の判断能力に応じて、成年後見人・保佐人・補助人を選任します。成年後見人などに選任された方は、財産の管理、代理の契約など、判断が必要とされるさまざまな場面で本人の保護とサポートを行います。
成年後見制度は、判断力が低下してから開始することが特徴です。そのため、受給者本人が自分で後見人を選択したり、後見人に委任する事務内容を決めたりすることは認められていません。さらに、柔軟な財産管理が行えないため、生前贈与などの相続税対策は行いにくくなります。
(3)家族信託制度
家族信託制度は、判断力に問題がないうちに、信頼している家族に財産を託し、管理や処分を任せる制度です。自分で財産を託す受託者を選び、信託契約を結んだ上で財産の管理・処分を任せます。決定した信託内容の通りに管理が行われ、年金・預金以外の不動産管理も任せられます。
家族信託制度を利用すると、自分が元気な間は受託者に指示を出しながら不動産・預金などの財産を運用・管理・処分することが可能です。判断力が低下したあとは、そのまま受託者に資産の管理・処分などを託せますが、財産管理を親族の中のひとりが行う場合などは 、ほかの相続人が不満を抱くケースもあります。
財産の使い込みが疑われる場合、早めに専門家である弁護士に相談し、適切な対策をとることが大切です。
- こちらに掲載されている情報は、2024年06月28日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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