毒親との絶縁は可能? 戸籍を抜く方法

毒親との絶縁は可能? 戸籍を抜く方法

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

自分の都合で子どもにストレスを与える親のことを「毒親」と呼びます。文字通り、子どもにとって毒にしかならない親のことです。本来なら支えあう関係である親から過干渉や過剰な管理から、通常の生活がままならなくなるなどの被害を受けるのは、心身ともに負担が大きいものです。なかには親の戸籍から離れたいと考える方もいるでしょう。

本記事では、毒親との絶縁は可能なのか、毒親から戸籍を抜く方法などについて紹介します。

1. 実の親との「絶縁」「縁切り」は法制度として存在しない

現行法では実の親との関係を解消する方法はありません。たとえば戸籍が別であっても、親が生活保護を申請すれば、役所は審査のために子どもに問い合わせをするなど、親子の関係は続きます。世間でよく言われる「絶縁」や「縁切り」といった行為は法律上、存在しません。

ただし、毒親に苦しめられている方のなかには、親と何かしらのつながりがあること自体がストレスになると感じている場合もあります。このような方にとって現在の戸籍を離れることは、毒親から受けるストレスを減らし、自分自身の幸せに向かって歩みはじめるためにも必要です。

2. 毒親から戸籍を抜く方法

現在の戸籍から自分だけが抜ける方法はいくつかあります。とにかく毒親とのつながりを減らしたいという方は、まず自分でできる方法を検討してみましょう。

(1)結婚する

婚姻届を提出すると新たに夫婦の戸籍が編成され、筆頭者または配偶者として記載されます。新戸籍の編成前に毒親の戸籍からは抜けます。たとえ毒親に反対されたとしても、18歳以上であれば、当人同士の判断で婚姻届を提出しても問題はありません。成人の結婚に親の同意は不要だからです。結婚相手の人となりや互いの相性、経済状況などを考慮して、最善の選択をしましょう。

(2)養子になる

血縁関係のない人と養子縁組をすれば、養親の親の戸籍に入ることができます。実父母のほかに、新たに養親との関係ができるだけで、相続関係や扶助義務は残ったままになるので、特別養子縁組を除いて実親との関係が解消されるわけではありません。しかしながら、養子縁組をした親の子どもとして生きていくことが可能です。

(3)毒親と「分籍」する

分籍とは、これまでの籍を抜け、自分が筆頭者となって新たな戸籍を編成する方法です。18歳以上の成人にのみ認められており、未成年の場合は成人になるのを待たなければなりません。親の許可や同意は不要で、分籍したことの通知も親には届きません。毒親に知られることなく、籍を抜けられるのは大きな安心材料です。

分籍をする際は、戸籍のある市区町村役場に以下のものを持参して届け出ます。

  • 分籍届
  • 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
  • 印鑑(分籍届に押印したもの)

現在、すでに離れて暮らしている場合や、毒親から逃れるために引っ越しを考えている場合には、分籍とあわせて戸籍や住民票の閲覧制限の手続きをしておくことをおすすめします。どれだけ遠くに暮らしていたとしても、親は委任状なしに子どもの戸籍謄本や戸籍附票、住民票などを閲覧し、現在の住所を調べることができます。

しかし、閲覧制限をかけておけば、戸籍をたどって追跡されることを防げます。ただし、閲覧制限を申請するには、客観的に納得できる理由が必要です。そのため、役場に行く前に警察や役所の相談窓口、心療内科などへ悩みを相談し、実績を作っておくことが重要です。

3. 籍を抜けても扶養や相続の義務はなくならない

毒親の戸籍を抜けたとしても、法律上、親子関係が解消されるわけではありません。たとえ戸籍を別にしたとしても、実の親子間には相互に課される義務や制度が存在します。

以下では、籍が抜けても続く親子関係や、それを拒否したことで課される罰則について紹介します。

(1)籍を抜けても継続する親子関係とは?

毒親と戸籍が分かれてからも続く法律上の親子関係とは、子どもが成人している場合には「生活扶養義務」と「相続」の2つです。

「生活扶養義務」とは、自分の親や子どもなどの直系血族と兄弟姉妹は互いに扶養をすることを義務として規定したもので、民法877条に記載されています。

また「相続」とは、親または子のどちらかが亡くなった際には法定相続人となり、遺産を引き継ぐ制度のことです。遺産には現金や不動産だけでなく、借金やローンといったいわゆる「負の遺産」も含まれます。通常は親子が互いに助け合って生きていくための義務や制度ですが、毒親の場合は子どもが被害を受けることも少なくありません。

(2)生活扶養義務を拒否した場合の罰則

戸籍を抜きたいと考えるほど親子関係に悩んでいるのであれば、生活扶養義務があったとしても従いたくないと思うのは仕方がないことかもしれません。しかし、義務を拒否したことで子ども側が罰則を科されるケースもあります。

生活扶養義務があるにもかかわらず、正当な理由なく子どもが親を扶養しないと「保護責任者遺棄罪」(刑法218条)に該当する可能性があります。この罪に問われた場合には、3か月以上5年以下の懲役に処されます。

また、扶養しなかったことが原因で親が病気になったり、死亡したりした場合、さらに罪の重い「保護責任者遺棄致死傷罪(3年以上20年以下の懲役)」となり、実際にこの罪に問われたケースがあります。毒親だからといって安易に放置せず、適切な関わり方を弁護士などの専門家へ相談しましょう。

4. 法律的に毒親との関わりを断つ方法はある?

法律で定められた親子関係がある以上、どこまでも毒親に苦しめられなければいけないようにも思えますが、実は一部を回避できることもあります。

(1)毒親の扶養義務を放棄できるケース

上述した「生活扶養義務」は、場合によっては放棄できることがあります。親が子に負う義務に対して、子が親に負う義務はそこまで重いものではないからです。子どもの親に対する生活扶養義務は一般的に「子の社会的な地位や収入等にふさわしい生活をした上で、余力がある分でよい」と解釈されています。

つまり現在の法律上、子は自分の最低限の生活を手放してまで、親の生活を守る義務はありません。経済的な余力の有無は、子どもの資産状況や家族構成、社会的地位の程度などを考慮し、家庭裁判所が判断します。

(2)毒親の遺産相続を放棄するには

親子間に存在する制度である「相続」にも放棄する方法があります。それが「相続放棄」です。相続放棄するには、相続の発生を知ってから3か月以内に親(被相続人)の住所がある地域の家庭裁判所に申し立てる必要があります。相続放棄の申述が受理されると、子どもであっても最初から相続人ではなかったことになります。

ただし、相続放棄では一部の遺産のみを放棄することはできません。一度相続放棄すると、あとになって知らなかった遺産が出てきたとしても放棄をひるがえすことはできません。また、相続放棄する前に遺産の一部を整理・売却してしまうと、遺産を相続したとみなされてしまいます。

毒親の戸籍を抜けることは、法律の上では「親子の縁を切ること」にはなりませんが、長年親からの被害に苦しんでいる方にとっては、少しでも心理的に楽になるための手段となり得ます。ただし、戸籍を抜けたあとにも残る、法律上の親子関係には注意が必要です。

その後の生活を穏やかなものにするために、親との関わり方を弁護士などの専門家に相談することもおすすめです。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年07月21日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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