親子喧嘩で包丁を向けられた場合は罪に問える?
親子喧嘩で刃傷沙汰が起きてしまった場合、警察に通報すべきかどうかは非常に悩ましい問題です。しかし、たとえ親子間のトラブルであっても、ときには自分の身を守るためには警察や法的手段に訴えることが必要です。
そこで本記事では、そのようなときに知っておくべき法律の知識と対処法について詳しく解説します。
1. 身の危険を感じた場合は通報を
親子喧嘩がエスカレートし、包丁を相手から向けられたり切りつけられたりしてしまった場合、どのように対応すればいいのでしょうか。たとえ親子間でも、このような暴力行為は許されるものではありません。もしも身の危険を感じる事態に陥った場合、迷わず警察へ通報しましょう。
以下では、ケースごとの対処法について詳しく解説します。
(1)実際に包丁で切りつけられたり暴力を受けたりした場合
実際に包丁で切りつけられたり、その他の形で身体的な暴力を受けたりした場合、ただちに警察へ通報することが重要です。
固定電話や携帯電話(スマートフォン)で110番に電話をかければ、警察の通信指令課につながります。通報を受けた警察側の担当者は、通報者から事件の状況や発生現場などを聞き出しながら同時進行でパトカーを現場へ向かわせます。通報にあたっては氏名や事件の詳細、現在地などを明確に伝えることで、より迅速な対応を受けることが可能です。
なお、警察と消防署はお互いに連携しているので、必要に応じて警察側で救急車の手配もしてくれます。逆に119番へ通報した場合でも、事件性があれば消防署側で警察に連絡を回してパトカーを向かわせてくれるため、治療を優先すべきときは119番に連絡しても問題ありません。
(2)けがはないが身の危険を感じた場合
たとえ、けがをするのは避けられたとしても、包丁を向けられるのはそれだけで十分に危険な行為で深刻な事態です。次にまた同じ状況になったときにけがを避けられる保証はないことを考えると、警察に相談する必要性は十分にあります。
いきなり通報するのがためらわれる場合は、「#9110」に電話するのもおすすめです。この番号は犯罪被害の予防や早期発見、被害の軽減を目的とした警察による相談窓口で、家庭内の問題についても相談を受けつけています。
包丁を向けられるなど、身の危険を感じる状況を経験した場合は、その事実を伝え、今後どうすべきかを相談しましょう。家庭内の問題だからと一人で抱えこむよりも、第三者から客観的な意見をもらったほうが冷静に対処しやすくなります。
2. 包丁を向けられたらけがをしていなくても罪に問える
たとえ親子間・夫婦間であっても、他者に暴力を振るう行為は暴行罪または傷害罪に該当します。基本的には相手へ乱暴な行為をしたら暴行罪、その行為によってけがを負わせたら傷害罪に問われます。たとえば、髪を乱暴に引っ張られたり、突き飛ばされたりした場合、それでけがを負っていなくても相手を暴行罪に問えます。
さらに、体に触れられることすらなくても、包丁などの凶器を向けられた時点で罪に問うことは可能です。こうした行為は、「暴力行為等処罰法(暴力行為等処罰ニ関スル法律)」に違反するからです。この法律では凶器を相手に示して脅迫する行為を違法としています。そのため、たとえば母が子どもに包丁を向けて、「殺してやる」などと脅した場合、警察に逮捕される可能性があります。
(1)現行犯逮捕と後日逮捕の違い
上記のように、家庭内の出来事であっても、暴力的な行為は法律違反であり、警察に逮捕されうることです。逮捕の形式は、そのタイミングに応じて「現行犯逮捕」と「後日逮捕」に分けることができます。
①現行犯逮捕
現行犯逮捕とは、犯罪が発生した直後、もしくは犯罪行為が現認された際に逮捕令状なしに行われる逮捕のことです。たとえば、親が子に暴力を振るっているまさにそのタイミング、あるいは親が暴力を振るったことが現認された状況では、現行犯逮捕が適用されます。現行犯逮捕の場合、警察は逮捕状の請求といった手続きを経ることなく、ただちに犯人を逮捕可能です。
また、警察ではない一般人でも犯人を逮捕して構わないのも現行犯逮捕の大きな特徴です。そのため、たまたま騒ぎを聞きつけただけの隣人であっても、家庭内暴力の現場を発見したら、加害者を取り押さえる正当な権利を持っています。ただし、取り押さえた後は迅速に警察へ犯人の身柄を引き渡さなければいけません。
②通常逮捕
他方で、ある程度の時間が経過した後で犯罪事実が発覚した場合、警察は犯罪の証拠集めをしてから逮捕状を取得し、犯人を逮捕することになります。これは「通常逮捕」といわれる形式です。
たとえば、息子に暴力を振るわれてから数日後に母が警察へ被害届を出したとします。この場合、警察は息子を逮捕するために、母のけがは息子のせいだということを示す根拠資料を集めたうえで裁判所に逮捕状を請求し、裁判所から発付を受けて息子を逮捕します。現行犯逮捕とは異なり、通常逮捕は一般人には禁じられています。
(2)未成年の犯行だった場合
たとえば未成年の子どもが親に対して暴力行為を働いた場合でも、基本的には成人と同様に逮捕されます。ただし、子の場合は少年事件の扱いになるので、逮捕後は少年法に基づき、更生を主目的にした処分が行われます。そのため、成人の犯罪と比べて、未成年の犯罪に対する実質的な処罰は軽くなる傾向です。
3. 通報した後、捕まってしまうのか
家族間トラブルの場合、必要に迫られて通報したものの、相手の逮捕(刑事罰処分)までは望んでいないことも多いのではないでしょうか。そこで以下では、通報後に逮捕や処罰へ至らず事態を収拾する方法を紹介します。
(1)示談にする
事件が発生した際、被害者と加害者が話し合い、加害者が謝罪や賠償をするなどして被害者が訴えを取り下げることを示談といいます。警察に通報した後でも、被害者が逮捕を望まず示談が成立した場合、警察や検察官は被害者の意向を尊重し、逮捕を見送ることがあります。
示談が成立すれば、加害者が早期釈放される可能性も高まるので、元の生活に早く戻りやすくなります。加害者への厳罰を望まない場合は、まずは示談を検討するのがおすすめです。
(2)不起訴処分にする
当事者間で示談がされなくても、加害者が逮捕された後、検察官が証拠などを検討した結果、裁判所に公訴しない決定を下すことを不起訴処分といいます。不起訴処分になると、加害者は釈放されます。
不起訴処分になるか否かは、被害の程度、加害者の反省度合い、再犯の可能性(常習性)などが影響します。被害者の意向も考慮されるので、被害者が被害届の取り下げをすることで、不起訴処分になる可能性を高くすることが可能です。
(3)刑罰の減軽・執行猶予判決
裁判で有罪が確定した後でも、裁判所は加害者の年齢、前歴、反省の度合いなどを考慮して、刑罰の減軽や執行猶予を言い渡すことがあります。執行猶予が付いた場合、一定期間犯罪をしなければ刑の執行を免れることが可能です。
いずれにしても、被害者側が加害者側の行いを許したいと積極的に思っているなら、警察や検察、裁判所の判断にもある程度は反映される可能性が高いと考えられます。そのため、たとえ家族間のことであっても、身の危険を覚えたときは自らを守ることを優先して警察に通報(または相談)してください。
親または子から包丁を向けられたら、まずは警察への通報や相談をしましょう。その後の対処については、弁護士などに相談しながら、より良い解決策を落ち着いて模索することをおすすめします。
- こちらに掲載されている情報は、2023年10月18日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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