孫を養子にする相続対策のメリット・デメリットとは?
大切な財産を誰にどのように残すかは、慎重な検討を要する問題です。相続税対策の一環として「孫を養子にする」という選択肢を取る方もいます。
本コラムでは、孫と養子縁組することが相続対策においてどのようなメリット・デメリットをもたらすのか、他の方法と比較しながら解説します。
1. 相続対策で孫を養子にするメリットとデメリット
日本の相続法では、原則として直系卑属(子や孫)が法定相続人になります。しかし、多くの場合、祖父母の死亡時に孫が相続人になることはありません。それは、孫が祖父母の遺産を相続するのは、基本的に子(孫から見て自身の親)がすでに亡くなっている場合に限られるからです。
ここで孫へ直接に遺産相続させる方法のひとつとして浮上するのが「養子縁組」です。法律上、養子は実子と同等の権利をもちます。これは相続権についても同様です。それゆえに、孫と養子縁組することで、子と孫が同時に祖父母の遺産相続をできるようになります。
(1)相続税対策として孫を養子にするメリット
孫との養子縁組は、孫へ確実に遺産相続できる点以外に、以下のメリットがあります。
①相続税の基礎控除額が増える
相続税では、相続人ごとに基礎控除額が設定されています。孫を養子にすることで、相続人がひとり増えるので、全体としての基礎控除額を増やすことが可能です。これにより、相続税の総額を減らし、より多くの財産を親族に残せます。
ただし、養子縁組で基礎控除額を増やせる養子の数には制限があり、原則として、実子がいる場合には1人まで、実子がいない場合には2人まで法定相続人に含めることができます。
(参考:「No.4155 相続税の税率」(国税庁))
②相続税の累進課税に引っかかりにくくなる
相続税の税率は相続額に応じた累進課税となっており、1000万円以下は10%、3000万円以下は15%と定められています。孫を養子にすれば、相続財産はより多くの相続人に少額で分散されることになるので、税率アップの影響を受けにくくなり、相続税額を減らせる可能性があります。
(参考:「No.4155 相続税の税率」(国税庁))
③生命保険金・死亡退職金の非課税枠が増える
生命保険金や死亡退職金には、相続人1人あたり500万円の非課税枠があります。そのため、孫を養子にして相続人を増やすことで、全体の非課税枠を拡大し、税負担を軽減可能です。
(参考:「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」(国税庁))
④相続の一代飛ばしが可能となる
孫を養子にすると、財産を親の代から孫の代へ直接引き継ぐ「一代飛ばし」の相続を可能にします。これにより、子の代での相続税負担を回避できるので、長期的な視点では財産を親族内で維持しやすくなると考えられます。
(2)孫を養子にするデメリット
孫を養子にするのは、必ずしもよいことばかりではありません。以下のデメリットにより、場合によっては相続税が増大するリスクもあるので注意が必要です。
①養子は相続税が2割加算になる
節税対策のための養子縁組を防ぐための対策の一環として、孫を養子にした場合、相続税が2割加算されるように定められています。したがって、孫と養子縁組することで、相続税が逆に増えることがあります。
(参考:「No.4157 相続税額の2割加算」(国税庁))
②祖父母の死後に孫の親権者が不在になる
未成年の孫を養子にした場合、その孫の親権者は養親になった祖父母になります。そのため、祖父母が亡くなると、親権者が不在となり、孫の法的保護に問題が生じてしまう可能性があります。この場合、未成年後見人選任という特別な手続きが必要になります。
③養子縁組が税務署に否認されるおそれがある
税制上、相続税対策のためだけに養子縁組をするのは、望ましいことではありません。そのため、養子縁組が単なる節税目的だと税務署にみなされると、養子を法定相続人の頭数に加えられなくなり、前項の節税効果を発揮できなくなる恐れがあります。
④相続トラブルが起きやすい
養子縁組により相続人が増えると、相続の配分について意見の相違が生じたり、他の相続人が養子縁組を不公平に感じたりと、親族間でのトラブルが起こりやすくなる場合があります。
なお、養子縁組をすることで得られる節税効果は、法定相続人が増えることによるところが大きいですが、養子縁組をすることで逆に法定相続人が減ってしまい、相続税額が跳ね上がるケースも存在します。これは法定相続人には被相続人との続柄に応じて相続の優先順位が定められており、上位の法定相続人がいる場合、下位の法定相続人に相続権が発生しないことに由来します。
2. 養子縁組以外で孫に財産を相続する方法
孫に財産を相続させる方法は、養子縁組以外に遺言書による相続や代襲相続といった選択肢もあります。
(1)遺言書による相続
遺言書で孫に財産を遺贈する旨を記しておけば、子が健在であっても孫に直接財産を残せます。遺言書を使えば、どの財産を誰にどの程度渡すかを詳細に指定できるので、財産分配をご自身で決めたい方に適しています。ただし、遺言書を残す場合でも、相続人が当然相続する権利があるとみなされる遺留分について尊重する必要があります。
(2)代襲相続
代襲相続とは、相続人が死亡した場合などに、その人の子が代わりに財産を相続することです。日本では特に手続きをしなくても、この方法にしたがって相続権が移行します。代襲相続によって孫が相続人になった場合は、養子にした場合と異なり、相続税の2割加算は生じません。ただし、代襲相続が使えるかは基本的に子の状況(存命か)に左右されます。
3. 相続以外で孫に財産を残す方法
遺産相続という方法を使わずとも孫に財産を残すことは可能です。代表的な手法としては以下が挙げられます。
(1)孫に生前贈与をする
生前に直接孫にお金や不動産などの財産を贈与することで、自分の死を待たずに財産を移転できます。贈与税の基礎控除を利用することで、毎年110万円までなら贈与税がかかりません。
(参考:「No.4402 贈与税がかかる場合」(国税庁))
(2)教育資金を一括贈与するための非課税制度(特例)を利用する
子や孫への教育資金の贈与については、1500万円までの非課税枠が設けられています。この制度を利用すれば、贈与税を課されずに孫の受験や進学などに要する資金を援助可能です。ただし、この制度を利用する場合、贈与する資金の使途はあくまで教育目的に限られます。また、この制度を利用するには、子や孫が30歳未満である必要があります。
(参考:「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」(国税庁))
(3)生命保険の保険金受取人を孫にする
祖父母が契約する生命保険の保険金受取人を孫に指定することで、死後に孫へ保険金を残せます。ただし、孫を受取人にした場合は、孫を養子にするなどしない限り、孫は法定相続人に含まれないので、生命保険の非課税枠を使えない点に注意が必要です。
孫に財産を残す方法や相続税対策は多種多様であり、どの選択肢が最善か判断するには税制などに関する詳しい知識が必要です。もし相続対策に悩みがある場合は、税理士や弁護士などにご相談ください。
- こちらに掲載されている情報は、2024年03月08日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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