犬も歩けば退去強制 ~外国人刑事事件一般と入管法~
刑法を中心とした刑罰は、日本人にも外国人にも等しく適用されます。しかし、その法律を適用した効果は、あるいは弁護人として意識すべき守らなきゃいけないところは、外国人の方が複雑化します。なぜなら、刑罰を科した後で、日本からの国外退去を命じる退去強制という手続きが控えているからです。
日本人だったら、執行猶予でおしまいとなる事件が、外国人にとっては今後日本で生活を続けられるかを問われる事件になる。外国人の事件に関わる場合は、そのような一歩高いハードルを意識して取り組む必要があります。
私も帰国子女として、英語話者として、外国人刑事事件に複数関わってきました。そのような経験を踏まえ、前稿では、退去強制の基準となる出入国管理及び難民認定法(入管法)24条の中でも、薬物事件を概観しました。今回は、その他の退去強制事由を見ていきます。
1. もう一つの一発アウト ~身分と犯罪類型の合わせ技~
入管法24条4の2号
別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの
こちらについては、まず「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する」というくくりだしが重要になります。といっても、別表第一に載っている在留資格は、仕事などの活動類型に基づくものなので、種類はかなり多様です。そのため、別表第二にあたるものを把握しておき、それ以外の普通の資格、と考えるとわかりやすいです。
別表第二に記載されているのは、①永住者、②日本人の配偶者等(等には特別養子又は日本人の子として出生した者が含まれる)、③永住者の配偶者等(等には永住者等の子として本邦で出生しその後引き続き本邦に在留している者が含まれる)、④定住者です。逆に言えば、この4つに当てはまらなければ、入管法24条4の2号が適用されることになります。
そして、薬物事件同様、「懲役又は禁錮に処せられたもの」とあるため、執行猶予がついても刑が科されたら、退去強制になります。対象となるのは、特に日本の秩序を乱していると考えられる犯罪類型で、刑法の章によってわけられています。対応関係を具体的に列挙すると、
第十二章 住居を侵す罪
第十六章 通貨偽造の罪
第十七章 文書偽造の罪
第十八章 有価証券偽造の罪
第十八章の二 支払用カード電磁的記録に関する罪
第十九章 印章偽造の罪
第二十三章 賭博及び富くじに関する罪
第二十六章 殺人の罪
第二十七章 傷害の罪
第三十一章 逮捕及び監禁の罪
第三十三章 略取、誘拐及び人身売買の罪
第三十六章 窃盗及び強盗の罪
第三十七章 詐欺及び恐喝の罪
第三十九章 盗品等に関する罪
が、刑法の中で選択されています。そして、これらに加えて、特別法の中でも粗暴な行為に関わるもの、窃盗などに関わるもの、そして自動車の運転の中でも危険運転致死傷にあたるものが、特別法でも選択されています。
これらは、わかるようでわからない感じのラインナップです。放火、強制性交などの性犯罪、贈賄収賄などの汚職と、犯罪として重く、一般感覚では秩序への影響も大きい行為が含まれていません。対象となる傷害の罪の中には暴行も含まれる一方、より生命身体への危険が高い遺棄罪は含まれません。粗暴な行為の中でも、脅迫・強要も含まれません。
これは割とわかりやすいですが、名誉毀損(きそん)や業務妨害も含まれません。窃盗・強盗・詐欺・背任・恐喝の各財産犯は含まれる一方、横領だけは含まれません。また、器物損壊なども含まれません。正直、どうしてこれが含まれてあれが含まれないのかと疑問の多い選別をしています。
しかし、この類型に当たるかどうかで、一発アウトか変わってくる外国人がいます。たとえば盗撮が問題とされたら、不法な目的で立ち入ったことにより建造物侵入が成立するかどうかで、退去強制のリスクが大きく変わってしまいます。弁護側は、せめて建造物侵入がつかないよう、まず意識しなければなりません。
財産犯では、刑法各論の授業で学んだように、横領か背任か、窃盗か占有離脱物横領か、窃盗か器物損壊かという論点を、時に真剣に考えなければなりません。このような論点は、日本人を対象とした事件である限り、刑法学者の関心対象でしかない部分かもしれませんが、外国人事件だと効果に違いがでることになります。
2. 一発アウトではないときの基準
入管法24条4号リ
ニからチまでに掲げる者のほか、昭和二十六年十一月一日以後に無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。
薬物事件ではなく、在留資格が別表第二であったり、別表第一であっても特定の犯罪類型にあたらない刑事事件については、基本的にこちらの条文が適用されます。そして、こちらは明示されているように、執行猶予になっていたり刑が1年以下であれば、退去強制になりません。
3. まずは被疑罪名と在留資格を確認しよう
外国人刑事事件のスタートは、被疑罪名と在留資格を、これらの条文にあてはめて、退去強制がどのような結論のときに生じるかを見極めるところから始まります。私もこうして解説する中で、定期的に分類を頭に定着させるよう意識しています。日本人の事件では使わない視点を持つ必要があることが、今回詳細に読んだ条文からもわかると思います。
- こちらに掲載されている情報は、2022年11月07日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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