偽装結婚の相手になってしまった。どんな罪に問える?
結婚生活を送る意思がないのに、役所へ婚姻届を提出する「偽装結婚」は、刑法上の犯罪に問われる可能性があります。万が一偽装結婚の被害に遭ってしまった場合は、必要に応じて弁護士のサポートを受けながら対応してください。
今回は偽装結婚について、概要・目的例・成立し得る犯罪・被害に遭った場合の対処法などを解説します。
1. 偽装結婚とは
偽装結婚とは、結婚生活を送る意思がないにもかかわらず、役所に婚姻届を提出して戸籍上結婚したように見せかけることを意味します。
(1)偽装結婚=結婚生活を送る意思のない結婚
当事者間に婚姻をする意思がない場合、婚姻は無効となります(民法第742条第1号)。
「婚姻をする意思」とは、「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」を指すと解されています(最高裁昭和44年10月31日判決)。言い換えれば、実質的な結婚生活を送る意思こそが「婚姻をする意思」であり、これがない場合には形式的に婚姻届をしても無効となるのです。
婚姻をする意思がないにもかかわらず、役所に婚姻届を提出することは、一般に「偽装結婚」と呼ばれています。
なお、婚前契約書を締結する「契約結婚」については、結婚生活を送る意思があるのであれば、偽装結婚にはあたりません。もっとも、日本で結婚する場合は、婚姻をする意思のほかに、婚姻届の提出が要件とされているので(民法739条1項)、婚姻届をしなければ婚姻が有効とは言えません。
(2)偽装結婚をする目的の例
偽装結婚の目的はケースバイケースですが、一例として以下のパターンが挙げられます。
①金銭的な詐欺目的
いわゆる「結婚詐欺」のように、財産をだまし取る目的で結婚に応じ、実際には結婚生活を送ることなく、財産を得た後に逃亡する例があります。
②在留資格を得る目的
日本人と結婚することで申請が可能、または申請し易くなる在留資格である「日本人の配偶者等」や「永住者」は、外国籍であってもほとんど制限なく日本で活動できる在留資格です。これらの汎用(はんよう)性が高い在留資格を得るため、日本人との結婚を偽装する外国人が見受けられます。
2. 偽装結婚について成立し得る犯罪
偽装結婚について故意に関与した者は、犯罪の責任を問われる可能性があるので要注意です。
婚姻をする意思を有しないにもかかわらず、役所に婚姻届を提出した者には「公正証書原本不実記載等罪」が成立します(刑法第157条第1項)。公正証書原本不実記載等罪の法定刑は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
なお、偽装結婚を主導したのが相手方であるとしても、相手方の意図を察知しつつ、「偽装結婚であっても仕方がない」と考えて婚姻届の提出に協力した場合は、ご自身も公正証書原本不実記載等罪によって罰せられる可能性があります。
さらに、本来であれば退去強制の対象となる相手方を蔵匿し、または隠避させたと評価されれば、出入国管理および難民認定法第74条の8第1項に基づき「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」に処される可能性があるのでご注意ください。
3. 偽装結婚の被害に遭った場合の対処法
偽装結婚の被害に遭った場合には、家庭裁判所の許可を得て役所に戸籍の訂正を申請するか、または家庭裁判所に婚姻無効確認調停を申し立てて対応しましょう。
(1)戸籍の訂正を申請する
法律上無効である婚姻届が受理された場合、偽装結婚の被害者は利害関係人として、家庭裁判所の許可を得て戸籍の訂正を申請できます。
(参考:「戸籍訂正許可」(裁判所))
戸籍訂正の許可の申し立ては、訂正すべき戸籍のある地の家庭裁判所に対して行います。家庭裁判所に対する事情説明が必要となるので、弁護士を代理人として申し立てを行うのが安心です。
(2)婚姻無効確認調停を申し立てる
戸籍の訂正が認められなかった場合にも、家庭裁判所に婚姻無効確認調停を申し立てる道が残されています。
婚姻無効確認調停では、調停委員を介して当事者(偽装結婚の夫婦)が互いに話し合い、結婚が無効であったことについて確認の合意を目指します。婚姻無効の確認について当事者が合意し、家庭裁判所がその合意を正当と認めた場合、合意に相当する審判によって婚姻の無効が確定します(家事事件手続法第277条第1項)。
合意に相当する審判が行われた場合、偽装結婚の被害者は審判書と審判確定証明書を役所に持参したら、婚姻がなかったことになり戸籍を元に戻してもらえます。
なお、婚姻無効確認調停が不成立となった場合は、訴訟を通じて婚姻無効の確認を求めることができます。婚姻が無効であることにつき、証拠に基づく主張・立証が必要となりますので、弁護士へのご相談がおすすめです。
(3)離婚届は提出しないように
偽装結婚を解消するためには、前述のとおり、戸籍の訂正申請や婚姻無効確認調停などの手続きによる必要があります。注意すべきなのは、離婚届は提出してはならないということです。
離婚届は、有効な婚姻を解消することを目的とした届出です。したがって、婚姻の無効を主張する場合は婚姻無効確認調停などの手続きを行うことが適切な方法です。
もし偽装結婚を認識していながら、その旨を秘して役所に離婚届を提出した場合、新たな公正証書原本不実記載等罪に問われる可能性が残るので十分ご注意ください。
- こちらに掲載されている情報は、2022年12月29日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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