迷惑動画を投稿された! 損害賠償請求や告訴のための対処法を解説
飲食店などで迷惑行為をはたらき、面白半分で動画を投稿する行為が相次いでいます。このような行為を受けたとき、企業はどのように対処することで被害を最小限に抑えられるのでしょうか。
本コラムでは、迷惑動画を投稿されたときの適切な対処法と投稿者への損害賠償請求、刑事上の責任追及について解説します。
1. 迷惑動画を投稿されたら、どう対処すべき?
近年、SNSで注目を集めたいなどの理由で迷惑動画を投稿する事件が多発しています。令和5年1月には、大手回転寿司チェーン店で、少年が卓上のしょうゆボトルをなめるなどの迷惑行為をした上でSNS上に動画を掲載する事件が世間を騒がせました。
この事件では動画がSNS上で拡散され、客数の減少や親会社の株価が一時大幅に下落するなどして企業側に大きな損害が発生しています。企業が迷惑動画を投稿されてしまうと、このような損害を受けるリスクがあるため、適切な対応が求められます。
以下では動画が投稿された際、直ちに実行すべき対処について解説します。
(1)事実確認をする
まずは以下の項目を中心に、早期に事実確認を行います。
- いつ、どこで(どの店舗や施設で)、どんな内容が撮影されたのか
- いつ、どの媒体(X、YouTube 、TikTokなど)に投稿されたのか
- 誰が投稿したのか
- 迷惑動画によってどんな影響が発生しているか
- インターネット上のユーザーの論調はどうか
- 企業側に非があるのか、ないのか
(2)企業として見解を表明する
上記で確認した事実をもとに、オフィシャルサイトなどで、自社の見解や今後の対応・対策の方向性を表明します。迷惑動画によって企業のサービスを利用する顧客が多大な不安や不快感を抱えている可能性が高いため、速やかに公式の見解を表明することが重要です。
また、迅速な表明によって、企業が問題を深刻に受け止めていることや毅然(きぜん)とした態度を示せるため、消費者の信頼を維持し、企業のイメージダウンを最小限に抑えることができます。
(3)投稿者を特定し、動画の削除を申請する
匿名での投稿の場合は、責任を追及するために投稿者の特定が必要です。そのために発信者情報開示請求を行います。発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法第5条にもとづき、プロバイダに対して発信者情報の開示を求める手段です。
出典:e-Gov法令検索「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)」プロバイダにはSNSや電子掲示板の運営者といったコンテンツプロバイダと、インターネット接続サービスを提供するアクセスプロバイダがあります。
コンテンツプロバイダは投稿者の個人情報を保有していない場合も多いため、コンテンツプロバイダへ開示請求をしたあとにアクセスプロバイダへも開示請求するという2ステップでの請求になることが一般的です。
同時に、動画の削除を申請します。たとえばYouTubeの場合は、当該迷惑動画の下にあるアイコンから、YouTubeが定めたコミュニティガイドラインに違反している旨を報告できます。YouTubeの審査を経ても削除されなかった場合は、裁判所に仮処分申立てを行うことで削除できる可能性があります。
迷惑動画が投稿されるとすさまじいスピードで拡散され、損害や影響の範囲が広がるおそれがあるため、迅速な手続きである、仮処分の手続きが有効です。
2. 投稿者の責任を追及するには?
特定した動画投稿者の責任については、民事上と刑事上の両面での追及が可能です。
(1)民事上の責任追及
民事上の責任追及としては、民法第709条にもとづき、不法行為を理由とする損害賠償請求をすることが可能です。
出典:e-Gov法令検索「民法」損害賠償請求をするためには、迷惑動画の投稿によって具体的に生じた損害を算定する必要があります。たとえば以下のような損害が考えられるでしょう。
- 客数や売上減少、株価下落による損害
- 迷惑行為に使用された機器や備え付け品の清掃、廃棄、交換費用
- 迷惑行為対策として新たに導入した設備の費用
- 投稿者の特定に要した弁護士費用
- 対応時の広報費用 など
ただし、損害賠償請求が可能なのは、動画の撮影や投稿との因果関係が認められる範囲に限定されます(民法第416条1項)。
出典:e-Gov法令検索「民法」たとえば客数や売上減少の場合、その業界がもつ潜在的なリスク(例:他社との競争激化や材料のコスト上昇など)が影響を与えた可能性も否定できないため、因果関係の立証は容易ではありません。
一方で、店舗の清掃や備え付け品の廃棄、交換などは動画の投稿によって余儀なくされた具体的な行動として立証しやすく、その費用が損害として認められる可能性があります。
いずれにしても損害賠償請求の範囲を特定するのは難しい作業なので、弁護士に相談することをおすすめします。
(2)刑事上の責任追及
迷惑行為やその動画の投稿によって成立する可能性がある犯罪には、威力業務妨害罪(刑法第234条)や、器物損壊罪(刑法第261条)が挙げられます。
出典:e-Gov法令検索「刑法」威力業務妨害罪は威力を用いて人の業務を妨害する犯罪です。ここでいう威力とは暴力や脅迫などだけでなく、騒音や奇声、物の損壊やSNSへの投稿といった行為も含まれます。
迷惑動画の投稿によって従業員は店内の清掃や設備の取り換えなどの対応を余儀なくされ、そのあいだの業務が妨害されているため、行為者が罪に問われる可能性は高いでしょう。
また、器物損壊罪については、物を壊すだけでなく、汚す・隠すなどして使えなくする行為も含みます。先に紹介した回転寿司チェーン店の事例では、しょうゆボトルをなめる、湯飲みをなめて未使用の湯飲み置き場に戻すなどしてほかの顧客が心理的に使えない状態にしているため、器物損壊罪に該当します。
なお、器物損壊罪は被害者などからの告訴がなければ起訴されない親告罪ですが、企業として毅然な姿勢を示すために告訴することも十分に考えられます。
3. 迷惑動画を投稿されてしまった場合は弁護士に相談を
インターネット上で迷惑動画が投稿された場合、対応が遅れると猛スピードで動画が拡散され、被害が拡大してしまいます。また、対応を誤ると消費者・取引先からの信頼や、企業イメージの低下は避けられません。
しかし、突然に悪質な行為の被害に遭った企業が、現状を即座に把握して迅速かつ的確な対応を行うのは非常に難しいため、迷惑動画が投稿されたら速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士は実際の状況をヒアリングした上で、迷惑動画の投稿によって生じる影響や、行為者の責任、責任追及の方法などを具体的にアドバイスできます。弁護士のアドバイスを受けることで、個別のケースに応じた最善の対応を選択できるでしょう。
損害額の算定や発信者情報開示請求、行為者への損害賠償請求、刑事告訴など、法律の専門知識が必要な難しい手続きも弁護士ならすべて任せられます。
迷惑動画を投稿されたときの的確な対応を企業が単独で行うのは簡単ではありません。消費者の信頼を維持し、今後の迷惑行為を防止するためにも、弁護士への相談を推奨します。
- こちらに掲載されている情報は、2024年11月13日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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