変形労働制とは? 残業代の考え方や計算方法を解説
この記事の監修弁護士
ベリーベスト法律事務所
一定期間内における繁閑の差が大きい会社では「変形労働制」を採用することがあります。本制度は、事業の繁閑に応じて労働時間を弾力的に変更できる一方、残業代の計算が複雑となるため、慎重な運用が必要です。
本コラムでは、変形労働制の仕組みや残業代の考え方、計算方法について解説します。
1. 変形労働制とは
労働基準法では、1日に8時間、1週間に40時間を超える労働は原則として禁じられています。これを法定労働時間といいますが、この時間を超えて従業員に労働を課す場合には、労使間でいわゆる36(サブロク)協定を結んだ上で、労働基準監督署に提出しなければなりません。加えて会社は、従業員に残業代を支払う義務があります。
しかし、繁閑の差が激しい会社では、繁忙期には時間外労働が増え、残業代がかさんでしまいます。このような場合、時間外労働を抑制するために「変形労働(時間)制」を採用できます。
(1)変形労働制とはどんな制度か
一定の期間内で労働時間を柔軟に設定できる制度です。採用するには事前に労使協定を締結するか、就業規則などで定めて労働基準監督署に届け出る必要があります。
変形労働制を採用すれば、閑散期に労働時間を短縮し、繁忙期に長めの労働時間を設定するなど、フレキシブルに調節できるようになります。期間全体の平均労働時間が法定労働時間を超えなければ、繁忙期に法定労働期間を超えた労働が発生しても時間外労働として扱われません。
(2)変形労働制の種類
変形労働制には、1年単位、1か月単位、1週間単位の3種類があります。
①1年単位
1年単位の場合、1か月を超え、1年以内の一定期間の労働時間を平均して、1週間40時間を超えない範囲で労働時間を定められます。事業活動に季節性があるなど、年間の繁閑がはっきりしている会社で採用されます。
ただし、労働時間は1日あたり原則10時間、1週間あたり原則52時間が上限です(3か月を超える変形労働制の場合は週48時間を超える週数に制限があります)。
②1か月単位
1か月単位の場合は、月ごとの日数で定められた法定労働時間の上限内で、月ごとに週の労働時間を調整できます。
ただし、一定期間内の平均労働時間が週40時間以下でなければなりません。たとえば、月初と月末とで忙しさに差がある経理などの職種に向いています。
③1週間単位
1週間単位の場合は、平均労働時間が週40時間の範囲内で、1日最長10時間まで労働時間を延長できます。1週間単位の変形労働制を導入するには「従業員数が30人未満であること」「小売業、旅館、料理・飲食店であること」という規模や事業内容についての条件があります。
(3)変形労働制とフレックスタイム制や裁量労働制、シフト制との違い
変形労働制には似た制度がいくつかあります。ここでは、変形労働制とそれぞれとの相違点について解説します。
①フレックスタイム制との違い
フレックスタイム制では1日の労働時間が固定されません。就業規則などで定められた労働しなければならない時間帯(コアタイム)に就業していれば、その前後のフレキシブルタイム内で、いつ出社・退社しても差し支えありません。
1か月以内の一定期間の総労働時間の範囲内で就業日の労働時間を労働者が決められる点が変形労働制とは異なります。
②裁量労働制との違い
裁量労働制は、労働時間は労働者の裁量に委ねられている点で、年・月・週ごとの繁閑に応じて労働時間の調整を会社が行う変形労働制とは異なります。裁量労働制では、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた時間を労働したものとして賃金が支払われます。
専門業務型と企画業務型との2種類があり、専門業務型を採用できる業務は、厚生労働省令などで定められています。
③シフト制との違い
シフト制は、労働日や労働時間を固定せず、週単位や月単位のシフトで定める勤務形態です。一般的には、あらかじめ数種類の勤務パターンを用意しておき、労働者の希望を加味しつつ、会社が調節してシフトを設定します。シフト制は労働者の労働時間を柔軟に調整する目的のものではないため、この点で変形労働制とは異なります。
2. 変形労働制の残業代の割増率と計算方法
ここでは、変形労働制を採用した場合の残業代を2つのパターンで解説し、さらに残業代の割増率と計算方法についても見ていきます。変形労働制を採用していても、会社が定めた所定労働時間や法定労働時間を超えた時間外労働に対しては、残業代が支払われます。
(1)変形労働制の残業代のパターン
変形労働制では一定期間の労働時間を柔軟に変えられます。一定期間内の労働時間が法定労働時間を超えたからといって即、残業代が出るわけではありません。ここでは、残業代が支払われる2つのパターンについて解説します。
①繁忙期に所定労働時間を超えたパターン
繁忙期には通常、法定労働時間(1日8時間または週40時間)を超えた所定労働時間が設定されています。労働時間が所定労働時間を超えて働いた場合には、超過分の残業代が支払われます。
たとえば、所定労働時間が1日10時間と定められている期間中に1日11時間働けば、超過した1時間分に対する残業代が支給されます。
②閑散期に法定労働時間を超えたパターン
閑散期には、法定労働時間よりも短い所定労働時間が設定されていることがほとんどです。この場合、労働者が法定労働時間を超えて働くと、残業代が支給されます。
たとえば、所定労働時間が1日6時間であるにもかかわらず、1日9時間労働した場合、法定労働時間は1日8時間のため、超過した1時間分の残業代が支給されます。また、法定労働時間内ではあるものの、所定労働時間を超えた2時間分は「法定内残業」として、2時間分の通常賃金が支払われます。
(2)変形労働制の残業代の割増率
労働基準法で定められた割増率が適用されます。割増率は通常と変わることはなく、以下のとおりです。
時間外労働 | 1.25倍以上 |
---|---|
休日労働 | 1.35倍以上 |
深夜労働 | 1.25倍以上 |
(3)変形労働制の残業代の計算方法
残業代の計算は「日ごと」→「週ごと」→「全対象期間」の順で行われます。
①1日あたりの時間外労働
まずは1日あたりの時間外労働を求めます。
所定労働時間が8時間を超える日 | 所定労働時間を超えて働いた時間 |
---|---|
所定労働時間が8時間を超えない日 | 1日8時間を超えて働いた時間 |
②1週間あたりの時間外労働を算出
同様に1週間あたりの時間外労働も洗い出します。
所定労働時間が40時間を超える週 | 所定労働時間を超えて働いた時間 |
---|---|
所定労働時間が40時間を超えない週 | 40時間を超えて働いた時間 |
※①と重複する部分は除きます。
③全期間を通じた時間外労働を算出
変形労働制を導入した全期間の、①および②と重複する部分を除いた時間外労働を算出します。計算式は以下のとおりです。
残業代支給対象時間=(全期間の労働時間)−(全期間の法定労働時間)−(①と②の合計時間)
全期間の法定労働時間は以下の式で求めます。
(全期間の法定労働時間)=(1週間の法定労働時間40時間)×(対象期間の日数)÷7
④割増率をかけて計算する
日ごと、週ごと、全対象期間の時間外労働を合計します。時間外労働の合計時間に割増率(1.25倍以上)をかけて残業代を算出します。ただし、ここで求められるのは時間外労働の残業代のみです。深夜労働や休日労働、法定内残業代は別途、計算する必要があります。
(4)変形労働制にも労働時間の上限がある
変形労働制を導入していても、法定労働時間を超えた業務が発生する場合には労使協定(36協定)を結ぶ必要があります。36協定が締結されていても、時間外労働の上限は規制されます。
時間外労働(休日労働は除外)の上限は、原則として月45時間かつ年360時間です。ただし、1年単位の変形労働時間制を導入している場合には、月42時間かつ年320時間が上限となります。
3. 変形労働制の未払い残業代は弁護士相談がおすすめ
変形労働制の残業代を算出するには複雑な計算が必要であり、専門的な知識が不可欠です。計算を正確に行いたい場合や、勤務先の労働制度が適法か判断に迷うような場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。
変形労働制は通常の働き方と異なる点が多く、経営者、労働者ともに正しい理解が求められます。残業代などをはじめとした対応で迷う場合は、弁護士への相談も視野に入れましょう。
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- こちらに掲載されている情報は、2024年07月06日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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