自爆営業を強要された! 対処法や集めておくべき証拠を解説
自爆営業とは、営業ノルマを達成するために従業員が自腹で自社商品・サービスを購入することです。自爆営業は往々にして会社側から強要されて行われますが、これは違法性があることです。
本コラムでは、自爆営業の概要、その違法性、対処法などについてわかりやすく解説します。
1. 自爆営業とは?
自爆営業とは、従業員が営業ノルマを達成するために自社の商品・サービスを自腹で購入することを指します。購入代金は直接現金などで支払う場合もあれば、給与から天引きされることもあります。
自爆営業は従業員が自主的に行っているように見せかけられることが多いですが、実際には会社や上司から強要されているケースがほとんどです。自爆営業は小売業、アパレル業、保険業など多くの業界で見受けられますが、特によく知られているのは郵便局での年賀はがきの販売です。
郵便局において年賀はがきは大きな収入源であり、郵便局員には厳しい営業ノルマが課されます。売れ残りを防ぐために、真冬の屋外で路上販売をさせられることもあるそうです。そこで、営業ノルマの達成が難しい局員や過酷な業務を避けたい局員は、自分で年賀はがきを購入することが多いとみられます。
実際、令和5年に行われた内閣府の「働き方・人への投資ワーキング・グループ」においても、総務省から年賀はがきの自爆営業対策に関する資料が提出されています。
出典:総務省「年賀葉書の自爆営業対策について」また、季節商品であるクリスマスケーキの販売などでも自爆営業が多いかもしれません。場合によっては、自動車などの高額商品まで買わされてしまうこともあり、自爆営業は大きな社会問題となっています。
2. 自爆営業は違法?
自爆営業は違法性を伴うことも少なからずあります。ただし、ここで問題になるのは、売上目標や営業ノルマを設定することや従業員が自社商品を購入すること自体ではありません。
違法となるのは、自爆営業を会社や上司がノルマ未達のペナルティーとして従業員に不当に「強制」したり、給与から天引きしたりした場合です。こうした行為は、労働基準法のみならず、刑法にも抵触するおそれがあります。
(1)労働基準法上の問題
自爆営業の強要は、労働基準法の第16条または第24条に抵触する可能性があります。まず、労働基準法第16条では、労働契約の不履行について違約金を設定したり、事前に損害賠償額を決めたりすることを禁じています。
そのため、もしも自爆営業がノルマ未達のペナルティーとして課せられている場合、明らかな労働基準法違反です。
また、給料からノルマの未達分を天引きする形でペナルティーが払われている場合は、労働基準法第24条に抵触するおそれがあります。この条文では、基本的に雇用者は従業員に対して賃金を全額、通貨で支払うべきと規定しているからです。
したがって、給与から自社商品・サービスの購入代金を天引きする行為も違法と考えられます。ただし、単に歩合制などで給与が変動したという場合は、これには当てはまりません。
労働基準法第16条違反に対する罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です(労働基準法第119条)。第24条違反に関しても、30万円以下の罰金と定められています(労働基準法第120条)。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」(2)刑法上の問題
会社がノルマの未達成を理由に解雇や減給を示唆するなどして、自社商品・サービスの購入を従業員に強制した場合は、刑法第223条の強要罪に抵触する可能性もあります。
これは、人の生命、財産、名誉などを脅かして、行う義務のないことを無理にさせる行為に対する罪です。強要罪に対する罰則は3年以下の懲役と定められています。
出典:e-Gov法令検索「刑法」3. 自爆営業を強要されたときの対処法
会社から自爆営業を強要された場合、どのように対応すればいいのでしょうか。以下では、基本的な対処法や相談先を紹介します。
(1)自爆営業の証拠を確保する
どのような対応をとる場合にも重要なのは、自爆営業を強要された証拠を確保することです。社内で問題の解決を試みるにせよ、社外の機関に相談するにせよ、証拠があれば会社側の非を客観的かつスムーズに明らかにできます。証拠資料としては、主に以下のようなものが挙げられます。
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上司などが自爆営業を強要する発言を録音した音声データ
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自爆営業の指示やノルマ未達のペナルティーなどについて記載された文書ないしメール
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自爆営業で商品を購入した際のレシートや明細書
そのほか、自爆営業させられた経緯をメモしておくことで、記憶違いなどを避け、詳細に説明しやすくなります。
(2)会社に相談する
証拠を確保したら、具体的な対応にとりかかりましょう。その際、まず穏当な手段として考えられるのは、信頼できる上司、人事部、本社の相談窓口などに問題を知らせ、会社内での解決を図ることです。
会社に自浄作用があれば、自爆営業で使ったお金を返金処理してもらえたり、今後自爆営業の強要が起こらないように組織体制を改善してもらえたりする可能性があります。
社内で解決するメリットは、会社側と深刻に対立するリスクを抑えやすい点です。ただし、会社全体の気質がブラックな場合は、満足に対応してもらえず、社内の立場も悪化するおそれがあります。
(3)労働基準監督署に相談する
会社内での解決が難しい場合は、労働基準監督署に相談するのも手です。先述のとおり、自爆営業の強制は労働基準法に違反しているので、その証拠をそろえた上で相談すれば、会社に対して是正措置を行ってくれる可能性があります。
ただし、労働基準監督署は、証拠が不十分だと積極的に介入してくれる可能性が低いのがデメリットです。また、労働基準監督署は組織の改善については働きかけてくれますが、従業員個人の味方に立って損害賠償などを会社へ促してくれることまでは期待できません。
(4)弁護士に相談する
自爆営業を自分で断れない場合や、過去に大量購入した分を会社に返金してもらいたい場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士への相談や依頼には一定の費用がかかりますが、次のようなメリットがあります。
まず、弁護士は法律の専門家として自爆営業やその他の問題に関する会社の違法性を検討します。そして、過去に購入した分の返金交渉や今後の是正対応に関する交渉を代行します。会社に対して従業員が1人で立ち向かうのは、実務的にも精神的にも大変な困難が伴うので、これは非常に大きな利点です。
また、会社との交渉がうまくいかない場合は、労働審判や民事裁判へと移行する形になりますが、その際も弁護士は法的な手続きの代行や弁護を行えます。具体的には、申立書や訴状の作成、証拠書類の作成などです。
改善が見込めないほど会社が悪質であれば、転職を考えるのもひとつの手です。しかし、その場合でも、不法に搾取されたお金は返してもらうのが筋でしょう。返金に向けて弁護士は法的な対応が可能です。もし会社から自爆営業を強制された場合は、ぜひ弁護士に相談してください。
- こちらに掲載されている情報は、2024年09月17日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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