- (更新:2021年10月28日)
- 労働問題
試用期間中の解雇も争えます。本採用取消し、本採用拒否、試用期間満了という言葉に惑わされないように!
会社から採用されて働き出した後、試用期間中であることを理由に退職を促されることもあります。試用期間満了に伴い本採用取消しや本採用拒否の通知を受けてしまい、どのように対応すべきか迷われている方も多いのではないでしょうか。このような場合についても、本採用取消しや本採用拒否が違法かつ無効であるとして争うことができます。
以下、詳述します。
1. 試用期間とは
多くの企業では、正社員の採用については、入社後一定期間(3か月から6か月が多いです。)を試用期間とし、この間に当該労働者の資質・性格・能力等を評価して本採用をするか否かを決定する制度をとっています。
試用期間付の労働契約の法的性質については、学説上争いがありますが、判例では、当初から期間の定めのない通常の労働契約ですが、試用期間中は使用者に労働者の不適格性を理由とする解約権が留保されているものと考えられています(三菱樹脂事件・最判昭48.12.12労判189号16頁)。
そして、この解約権の行使については、いかなる場合でも許されるわけではなく、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認される場合にのみ許されます。
会社は試用期間の解約権の行使をする場合、「採用取消し」「本採用拒否」「試用期間満了」「試用期間満了に伴う退職」などと表現することがありますが、すべて解約権の行使に他なりません。
どのような表現をしようが、当該解約権の行使につき客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認される場合でなければ、当該解約権の行使が有効となることはありません。この点は誤解される方も多いので注意が必要です。
2. 解約権の行使の有効・無効の判断はどうすべきか
解約権の行使も、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認される場合にのみ許されます。
企業側は、適格性欠如の判断の具体的根拠(勤務成績や勤務態度の不良等です。)を示す必要があり、その判断の妥当性が客観的に判定されます。
事例ごとに解約権の行使の有効・無効を判断する必要がありますので、いくつか裁判例を見てみましょう。
(1)本採用拒否が有効とされた裁判例
- 横浜地判昭40.9.30労経速542=543.15では、テレビ基板の組立作業中ミスが多かったこと、作業中しばしば脇見をしたり5分ないし10分程度の職場離脱が多かったりしたこと、残業時間は他の従業員と比べて著しく少なかったことなどを指摘し、作業内容・勤務不良を理由として、本採用拒否を有効としました。
- 松江地判昭46.10.6判タ279.270では、業務取得に熱意がなく、上司の指導に従わず、協調性に乏しいことを理由に、本採用拒否を有効としました。
- 東京地決昭53.8.25労経速998.14では、特異な販売方法や理論に固執し、会社の従来の販売方法を求めた上司と衝突したことなどによる不適格性を理由に、本採用拒否を有効としました。
(2)本採用拒否が無効とされた裁判例
- 大阪地決昭39.12.17別冊労法旬53.36では、勤務状態不良、1日の無断欠勤、虚偽の整理休暇請求、無断寮内集会などを理由とする本採用拒否について、無効としました。
- 東京地判昭46.7.19判時639.61では、教諭がネクタイを着用しなかったり、校長へ挨拶をしなかったりすることを理由とする本採用拒否について、無効としました。
3. 試用期間満了前の解雇はどう考えるべきか
試用期間満了前に留保解約権の行使をするためには、その旨の規定がある場合か、又は試用期間の満了を待つまでもなく労働者の資質、性格、能力等を把握できるような特段の事情が必要と考えられており、試用期間満了前の解雇は、試用期間満了時の解雇と比べてより限定的とされています。
(1)試用期間満了前の解雇が有効とされた裁判例
- 東京地決平6.1.25・労経速1535.6では、試用期間中の暴言その他の言動から雇用契約の存続は困難であるとされ、1か月の試用期間が経過する前に従業員として不適格であることを理由とした解雇が有効とされました。
- 東京地判平20.11.4・要旨集305では、蕎麦店の洗い場調理補助者につき、勤務状況等から適格者といえず、面接時にそのことを判断するのは無理を強いるとして、解雇を有効としました。
- 東京地判平21.8.31・労判9995.80では、採用前会社と係争中であることを秘匿し、勤務態度不良や転職活動等による勤務違約喪失を理由に解雇を有効としました。
(2)試用期間満了前の解雇が無効とされた裁判例
- 東京地判平13.2.27・労経速1767.3では、事業開発部長につき2か月程度の試用期間中に会社が主張するような職責を果たすことは困難だとして、解雇を無効としました。
- 東京地判平21.10.15・労判999.54では、病院の健康管理室に事務職員として採用され、試用期間3か月間のうち20日程度を残して解雇をしているところ、残りの試用期間を勤務することによって、病院の要求する常勤事務職員の水準に達する可能性もあったとして、解雇を無効としました。
- 東京高判平21.1.30・労経速2034.3では、証券会社営業職につき、6か月の試用期間を待たずに会社が行った解雇について、より一層高度の合理性と相当性が求められるとした上で、わずか3か月強の期間の手数料収入のみをもって原告の資質、性格、能力等が会社の従業員としての適格性を有しないとは到底認められないとして、解雇を無効としました。
4. 試用期間中に解雇された場合の対処方法
試用期間中の解約権の行使が違法・無効の場合、その後も労働契約上の権利を有していることになりますので、労働者としての地位の確認を請求します。
また、解雇されて以降未払いになっている賃金について、その間に就労していなかったとしても、労働者は当該未払い賃金を請求できます(民法536条2項)。もっとも、解雇後に他社で働いて収入を得た場合には、当該未払い賃金の中から一部控除される可能性があるので、注意が必要です(最判昭62.4.2労判506号20頁)。
さらに、認められるハードルは高いですが、違法な試用期間解雇によって被った精神的慰謝料も請求できる場合があります。
なお、試用期間中の解雇の場合においても、解約権の行使の有効性を争いつつ失業保険の給付を受ける「仮給付」という制度が実務上確立されています。生活の保障も必要だと思いますので、ハローワークや弁護士に相談してみて下さい。
5. まとめ
試用期間付の労働契約の法的性質や、試用期間中の解雇の有効・無効の判断、その争い方について解説しました。
解約権の行使の有効・無効の判断は事例ごとに行う必要があります。ご自身の置かれた状況と過去の裁判例とを比較検討する必要もありますので、試用期間中に解雇の通知を受けた場合、まずは弁護士に相談してみましょう。弁護士であれば、当該解雇の有効・無効の見通しを検討した上、法的知識をもって会社と争うことができます。
加えて、会社が解雇を撤回しなければ、労働審判の申立てや訴訟提起をする等、法的手続を採ることによって、ご自身の権利の実現を図ることができます。
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- こちらに掲載されている情報は、2021年10月28日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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