未払いの残業代の時効は何年? 請求方法について
働き方改革が進んでいるとはいえ、長い残業を余儀なくされている方もまだまだ多いのが実情です。そして、長時間労働に耐えかねて退職した後、実は未払いの残業代があったことに気が付くというケースもあります。
この場合、過去の未払い残業代を会社に請求できますが、注意すべきは消滅時効です。未払い残業代には消滅時効があり、一定期間を過ぎると請求できなくなってしまうのです。
今回は、未払い残業代の時効の仕組み、時効消滅を防ぐ手段、そして、残業代請求の方法について解説します。
1. 未払い残業代の時効とは?
(1)残業代請求の消滅時効
労働者が残業をした場合、会社は労働基準法にしたがって、適法に残業代を支払う義務があります。しかし、中には、従業員に残業代を支払わない会社もあります。
この場合、従業員は会社に対して未払い残業代を請求することができます。ただし、未払い残業代の請求には時効があります。時効が成立してしまうと、実際にどれだけ残業をしていたとしても、時効消滅した部分の未払い残業代は請求できなくなってしまいます。
(2)法改正による時効期間の延長
2020年4月1日から、未払い残業代の時効期間が、それまでの2年から3年に延長されました。なお、改正後の法律は、2020年4月1日以降に発生した残業代のみに適用されます。
したがって、2020年3月31日以前に発生した未払い残業代の消滅時効は2年、2020年4月1日以降に発生した未払い残業代の時効は3年と、別々の時効期間で計算することになるので注意が必要です。
(3)消滅時効の起算点
時効の期間を計算するために、時効の起算点についても知っておきましょう。
時効の起算点とは、時効期間をいつからカウントするのか、計算の始まりとなる時点です。未払い残業代の時効起算点は、その月の賃金支払日の翌日です。たとえば、8月1日から8月31日までの賃金が9月25日に支払われる場合、8月分の残業代金が発生するのは給料日である9月25日ですから、その翌日である9月26日が消滅時効起算点で、法改正前であれば2年、改正後であれば3年後の9月26日に消滅時効が完成し、その後も、毎月26日が来るたびに1か月分の未払い残業代が時効によって消滅します。
2. 残業代請求権の時効消滅を防ぐ方法
未払い残業代の時効消滅を止める法的な手段は二つあり、一つが「更新」、もう一つが「時効の完成猶予事由」です。
(1)「更新」とは
更新とは、時効の進行をストップさせ、かつ、更新した時から新たに時効期間が開始するための手段です。更新の手段には次のようなものがあります。
➀債務承認
債務承認とは、債務者である会社側が「未払い残業代の支払い義務がある」と認めることです。会社が承認すれば、その時点で時効が更新します。
➁裁判上の請求等による権利の確定
裁判上の請求等による権利の確定とは、未払い残業代請求の訴えの提起、労働審判や民事調停や支払い督促の申し立てなどを通じて、請求者側の権利が法的に確定した状態です。単純に言えば、労働者が勝訴した場合です。なお、裁判上の請求等を行っただけでは、時効は更新されませんが、一時的に時効の完成を猶予することは可能です。
➂強制執行等による更新
強制執行等による更新とは、強制執行、担保権の実行、形式的競売、財産開示手続きのいずれかの手段をとり、かつその手続きが終了した時に時効が更新されるという制度です。 なお、途中で手続きが終了すると時効は更新されませんが、裁判上の請求等と同じく、一時的に時効の完成を猶予することは可能です。
(2)時効の完成猶予
時効の完成猶予とは、時効期間をリセットする効果はないものの、一定期間中は時効が完成しない、時計の針を止める制度です。時効の完成猶予事由は次のとおりです。
➀裁判上の請求等や強制執行手続きを行う
裁判上の請求等を行えば、権利確定までの間、時効の進行を止めることができます。強制執行等の手続きをとった場合も、手続きが終了するまで時効の進行がストップします。
➁仮差し押さえ・仮処分
仮差し押さえ、仮処分の手続き中は時効が完成せず、かつ、終了後6か月間は時効の完成が猶予されます。
➂催告
催告とは、裁判外で、残業代の支払を会社に請求することです。催告によって時効を止められる期間は6か月です。時効完成が迫っているが、更新手続きをとる時間がないという場合は、まずは催告をして、時効完成を止めることを検討するとよいでしょう。
3. 未払い残業代の請求をする方法
(1)まずは未払い残業代の計算
未払い残業代の請求は、未払い残業代を計算したうえで、会社に正式に請求を行います。計算に必要な資料が足らなければ、会社に開示を求める必要もあります。
(2)労働者が自分で対応するのは難しい場合も
実際のところ、残業代の計算は複雑で、労働時間計算の根拠となる証拠が少ない場合もあります。
また、会社が元労働者からの請求をすんなりと認めるケースは決して多くありません。そうこうするうちに時効が迫り、権利がどんどん消えてしまいます。消滅時効について十分に注意しながら、証拠を集めて適切に残業代請求を行うことは、労働者にとって決して簡単とはいえないのが実情です。
未払い残業代がある場合は、労働事件の経験豊富な弁護士に相談することが安全と言えるでしょう。
- こちらに掲載されている情報は、2022年08月09日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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