工事代金の未払い問題、契約書なしの場合はどうすべき?

工事代金の未払い問題、契約書なしの場合はどうすべき?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

工事の請負代金が支払われないとき、契約書がなくても請求できる可能性があります。契約書がない場合は、別の手段で工事請負契約の成立や請負代金額を立証することが必要です。請求には複数の手段がありますので、問題の早期解決を図る場合は弁護士への相談をおすすめします。

本コラムでは、契約書がない場合の未払い工事代金の請求可否、請求手続きの方法、注文者が工事代金の支払いを拒否する場合の対処法について解説します。

1. 契約書なしでも未払いの工事代金は回収できる?

契約書がなくても未払いの工事代金を回収する余地はあります。契約とは、当事者間で権利・義務を発生させる法律上の合意のことを指し、契約書の有無によって定まるものではありません(民法第522条)。

一方、建築工事の請負契約では、契約の締結時に所定の事項を書面に記載し、相互に交付しなければならないと定められています(建設業法第19条)。しかし、これはあくまでも建設業法上での義務であり、契約書がなくても当事者間での合意がありさえすれば、工事請合契約の成立要件は満たします。

したがって、契約書がなくても、工事請合契約が成立していることを証明できれば、工事代金の支払いを請求することが可能です。

出典:e-Gov法令検索「民法 出典:e-Gov法令検索「建設業法

2. 未払いの工事代金を請求する際の手続き

ただし契約書がない場合に工事請合契約が成立していることを立証するのは困難を極めます。なぜなら、契約の内容や請負代金について、打ち合わせの議事録やメールでのやり取りなどから証明する必要があるからです。

特に建築工事では「ちょっとやっておいて」と口頭で追加工事が行われることも多く、いわゆる「言った・言わない」問題に発展してしまうこともあります。最初に契約を締結していても、その契約に含まれていない追加工事をお願いされた際は、追加工事の分の契約書を新たに発行することが重要です。

(1)工事代金請求権の立証

契約書がない場合は、間接的な証拠を集めて契約締結およびその内容・金額を立証する必要があります。たとえば、以下のものが挙げられます。

  • 注文者との打ち合わせの議事録やメモ書き
  • 注文者とのメールやSMSのログ
  • 注文者との通話記録や通話の録音

ポイントは、工事内容および金額と、それらへの「同意」の有無です。これらが確認できる可能性があるものはすべて洗い出しましょう。

(2)請求の手続き

未払いの工事代金がある場合は、以下の方法によって代金の回収を目指します。

①当事者同士での話し合い

まずは話し合いをして注文者に支払いの意思があるかどうかを確認します。なぜ支払いが必要なのかもきちんと説明しましょう。注文者が話し合いに応じるようであれば、その内容を書面に起こすなど記録しておきましょう。

②内容証明郵便の送付

注文者が話し合いに応じない、あるいは支払いの意思が見られない場合は請求内容を書面にまとめ、配達証明をつけて内容証明郵便で送付しましょう。内容証明郵便に法的効力はありませんが、請求内容やその時期を証明する証拠となります。また、配達証明をつけることで、注文者へ内容証明郵便を届けたことを郵便局に証明してもらうことが可能です。

③仮差押さえ

当事者間での解決が難しい場合は訴訟手続きを行っていくことになります。しかし、裁判での判決を待っている間に、注文者が財産を使い込んでしまったり第三者に渡してしまったりすると、仮に裁判で勝訴したとしても未払いの工事代金を回収できなくなります。

このようなケースを避けるために、仮差押えを行います。仮差押えによって、勝訴判決が出る前でも、財産処分を禁止することが可能です。

④裁判

任意交渉による解決が難しい場合は、裁判所を使って解決を目指すことになります。この方法には、支払督促、少額訴訟、通常訴訟が考えられます。

まずは支払督促を行うために、簡易裁判所(注文者の住所地を管轄するところ)の裁判所書記官に対して申立てをしましょう。支払督促は書類審査だけですので、書類審査の結果、問題がないと判断された場合は支払督促が発付されます。この支払督促が送達された後、2週間以内に異議申し立てがなければ仮執行宣言の申立てが可能です。なお、異議申立てがあった場合は、通常訴訟へと移行します。

⑤強制執行

判決が出たにもかかわらず支払いがなされない場合、強制執行が可能です。強制執行前に、債務名義(強制執行の申立てに要する文書)の送達申請、債務名義の執行文付与申請、債務名義の送達証明申請を行う必要があります。申立書を作成し、先述した申請書を含む必要書類および収入印紙や切手などを添え、裁判所にある各窓口に提出することで強制執行の手続きを行います。

(3)工事代金請求権の消滅時効

代金の請求には時効があり、「権利を行使することができることを知ったときから5年」あるいは「権利を行使することができるときから10年」となっています(民法第166条)。契約上、請負代金を請求できる時期は明確になっていますので、通常は5年となるでしょう(ただし、2020年3月以前に発生した工事代金については、旧民法が適用され3年です)。

建築工事では、代金を請求できる時期が明確ですので、「5年」の時効が適用されます。長期間未払いである場合は時効となり、代金を請求する権利が消滅してしまいかねません。時効を迎えてしまう可能性がある場合は、時効を成立させないための「時効の完成猶予」や「時効の更新」といった手段が行えるケースもあります。

また、支払督促は時効の完成猶予および更新事由とされており(民法第147条)、支払督促手続き中は、時効の完成猶予により時効の進行を止めることが可能です。そして、仮執行宣言付支払督促に対して異議申立てがされずに確定した場合には、消滅時効は更新され、時効期間のカウントがまた0から開始します。

出典:e-Gov法令検索「民法

3. 注文者が工事代金の支払いを拒否したら

裁判までいかなくても、あるいは裁判で勝訴してなお支払いを拒否されても、とれる対応はあります。たとえば、工事をした建物を注文者に引き渡さない、元々の工事請負契約を解除するなどが挙げられます。

契約書がない工事の未払いを、当事者同士で和解して支払ってもらうのは非常に困難です。契約の立証から司法手続きまで、さまざまな法律の知識や書面の作成スキルが必要であり、全てを自分自身で行うには相応の時間と気力も求められます。たとえば、裁判所によっては提出資料に綿密なフォーマットがあり、素人が書類を作成すると高い確率で書面修正や追加提出などの対応を求められます。

このような手続き上のトラブルを避け、スムーズに解決するためには、弁護士に相談することも検討してください。弁護士ならば、相手方との交渉や契約書以外による契約の立証などを代行し、工事代金を回収できる可能性を高められます。

契約書がなくとも、未払いの工事代金の回収を諦める必要はありません。相手方が支払いを拒むのであれば、弁護士にも相談し、複数の回収方法を検討しましょう。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2024年07月08日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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