「無免許・ノーヘル・赤信号無視」 電動キックボードが高速バスに突っ込み30代女性死亡…“車側”の罪は?
昨年12月、長野県軽井沢町の国道で電動キックボードに乗っていた30代の女性が高速バスにはねられ死亡した。女性が乗っていた電動キックボードはインターネットで購入され、事故当日に届いたばかりだったという。
昨年7月の法改正によって、電動キックボードは一定の条件を満たせば「運転免許なし」で乗ることができるようになった。しかし、亡くなった女性が乗っていたのは原付バイクと同じ扱いのもの。当然、運転免許やヘルメットは必須だったが、女性はいずれもない状態で運転していた。さらには赤信号を無視して交差点に進入したことから、先月“容疑者死亡”のまま道路交通法違反の疑いで書類送検されている。
電動キックボードの危険運転が目立つ中、4月からその自賠責保険料が最大10%引き下げられる。所有者の保険料負担が減るため普及が加速するとみられるが、電動キックボードの悪質な違反による事故が各地で相次ぐ中、不安に感じている人も少なくないのではないだろうか。
規制緩和“半年”で「7000件超」違反
もともと、電動キックボードに乗るには運転免許が必須だったが、昨年7月施行の改正道路交通法で「特定小型原動機付自転車」という区分が新設されたことによって、これに当てはまる電動キックボードであれば運転免許なしで乗ることができるようになった(16歳以上)。運転のハードルが下がり、特に都市部では急速に“身近な移動手段”のひとつになったと言えるだろう。
ところが警察庁が今年1月23日に公表した資料によれば、法改正から半年間で発生した特定小型原動機付自転車による「交通違反」検挙件数は7130件に上った。
警察庁は特定小型原動機付自転車の「事故」についても公表しており、改正法が施行された昨年7月から12月までに発生した件数は85件。死者はいなかったものの、86人が負傷している。
“悪質”電動キックボードと事故 「車側の罪」は?
単独事故に次いでもっとも多かったのは四輪との事故。交通事故といえば、一般的に「大きいほうが悪くなる」とのイメージもあるが、赤信号無視のような悪質な違反をしている電動キックボードが突っ込んできた場合も、“より大きな”車側が何らかの罪に問われる可能性はあるのだろうか。
交通事故に詳しい外口孝久弁護士は「事故態様にもよりますが、おそらくないと思います」と言う。
「極端な例ではありますが、たとえば車側が、赤信号で交差点に電動キックボードが進入してきたのを明確に認識し、かつ回避も容易であるにもかかわらず、それに対して『成敗する!』といった趣旨であえてひき殺したのであれば、それはそれで別途の罪(殺人罪等)を構成する可能性がないわけではありません。
しかし、そんな人はまずいないでしょうし、ほとんどのケースは『赤信号だったから電動キックボードが侵入してくるとは思わず、よけ切れなかった』ということでしょうから、過失運転致死罪として捜査の対象となったとしても、起訴されて有罪になるようなことにはならないと思います」
なお、長野県の事故で死亡事故を起こしたのは運転免許必須の「一般原動機付自転車」だったが、仮に運転免許不要の「特定小型原動機付自転車」だった場合も、車側の刑事的責任の考え方は変わらないという。
「車側の運転者が問われうる過失運転致死罪は、文字通り『過失』犯であって、処罰される理由は『自分の行為がどんな結果になるのか予測できたにもかかわらず(予見可能性)、そのような結果が引き起こされないようにする義務を怠って、結果を発生させてしまったこと(結果回避可能性)』にあります。
そうなると、『赤信号で交差点に侵入してくるなんてことは予測できず、回避することもできなかった』のであれば、過失がなく、罪は問えないということになり、その判断において『被害者が免許を持っていたか否か』は無関係です」(同前)
車側が“悪質”電動キックボードから身を守るには?
電動キックボードの交通ルール遵守に対する意識が低く、啓蒙活動も不徹底と言わざるをえない中、4月以降、悪質な電動キックボードも増加することは想像に難くない。車を運転する人が身を守るためにできることはあるのだろうか。
「 『悪質な違反をしている』という時点で、自動車運転者の過失は割り引いて考えられることにはなると思います。とはいえ『悪質な違反をしている人間はひいてもよい』ということにはなりません。
事故が発生してしまえば、長野県の死亡事故のような極端な事例ならまだしも、微妙なケースになってくると自身も過失運転致死傷罪の被疑者となり、実際に処罰されたり、行政罰を課せられる可能性もあります。
そのため、『君子危うきに近寄らず』ということで、怪しい動きをしている電動キックボードからは距離を取ることをおすすめします」(外口弁護士)
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