「白タク問題」ライドシェア限定解禁で懸念…一斉摘発後の羽田空港でも”ほぼクロ”の車が堂々営業の実状
「日本版ライドシェア」が4月をめどに、限定解禁される。運行主体がタクシー会社になり、地域や時間帯などが制限される。これにより、一般ドライバーが自家用車で有料による客の搬送が可能になる。国交省が3月13日、方針を明らかにした。まずは制限付きでのスタートとなるが、より重要性を増すのが違法タクシー・白タクの排除だ。
インバウンドの復活で、空港や観光地でのタクシー需要が高まっている。一方で、この旺盛なニーズをどん欲に取り込んでいる勢力がある。多くの外国人観光客を目当てにした国内外ドライバーの白タク勢だ。
白タクは、通常のタクシーと異なり、白ナンバーが多いことからそう呼ばれるようになったといわれる。といっても、白ナンバーでタクシーの営業運行はできない。客から料金を取って車を運行する場合、国土交通省に一般旅客自動車運送事業を行う許可をとる必要があるからだ。許可を得た正式なタクシーはその証明として緑色のナンバープレートをつけている。
白タクとはつまり、そうした許可を受けず、一般ドライバーが無許可で有償のタクシー営業を行っているのだ。これを白タク行為といい、道路運送法(第4条)で禁じられている。違反すると3年以下の懲役や300万円以下の罰金となる(同法第96条)。
ライドシェア解禁になぜ白タク撲滅が必須なのか
なぜライドシェア解禁で白タク排除を強化する必要があるのか…。その理由はシンプルだ。前述のように、ライドシェア解禁によって一般ドライバーが有償で客を運べるようになるからだ。どれだけ否定しようが、事実上の”白タク解禁”と捉えられても仕方のない状況といえるだろう。
その防波堤として、日本版ではタクシー会社が運行主体になることも規制に含まれている。ドライバー不足でタクシーが捕まりづらい状況が続くなか、一般ドライバーに門戸を開放するライドシェアは、タクシー不足解消のシンプルで有効な一手といえる。一方で、普通免許さえあれば誰もがタクシー・ハイヤーのドライバーになれることで、犯罪などの安全面を不安視する声も多い。
そこで、一般ドライバーの管理をタクシー・ハイヤー会社が担うことで、そうした不安を吸収し、移動手段としての安全を担保したうえでスタートしようというのが日本版ライドシェアだ。もっとも、タクシー・ハイヤー産業に従事する労働組合の連合体・全国自動車交通労働組合連合会は、「ライドシェア=白タクの導入に断固反対」と主張するなど、共存は困難との姿勢を示している。
だからこそ、警察もライドシェアの健全普及へ、白タク行為にこれまで以上に目を光らせている。先月は羽田空港で白タク行為の一斉摘発を実施。なんと、逃走される失態も犯したが、この時摘発された容疑者は中国籍のドライバーだった。
一斉摘発から3週間、羽田空港の白タクは減ったのか
あの一斉摘発から約3週間が経過し、羽田空港を訪れた。3月中旬の昼の時間帯で、人はそれほど多くなかったが、それでもスーツケースや大きな荷物を抱えた外国人観光客が、タクシーやハイヤーから降り、そして入れ替わるように次々と車内へと吸い込まれていった。
その中に白タクはいるのか…。ズラリ並ぶ緑ナンバー車に交じり、白ナンバー車も観光客を乗り込ませていたが、明らかに”クロ”と思われる車もあった。
車は日本メーカーの大型ミニバン。アジアでは数千万ともいわれる高級車として富裕層が購入する車種で、アジア系の観客には特に人気があるといわれる。
タクシー乗り場へ横付けしたその大型ミニバン。なかからは、日本観光を楽しんだと思われるアジア系の女性2人組が大きな荷物を抱え、下車する。入れ替わるように待っていたアジア系観光客が乗り込み、ドライバーは受け取った荷物を手際よく後部に積み込んだ。そしてそのまま、出発していった。
その間わずか3分ほど。埼玉某所の白ナンバーをつけた大型ミニバンは、あっという間に空港を後にした。こうした状況で白タクドライバーが摘発逃れに使う言い訳は「トモダチ」だが、乗降者とドライバーに会話はほぼなく、両者に親交があるようにはみえなかった。
数十メートル先には交番があり、パトカーも停車していたが、なんら気に留めず、ドライバーは堂々客をさばいていた。1日に何往復もして荒稼ぎするのだろうか。それくらいの手際のよさ、ムダのなさだった。
時間帯もあるにせよ、その間、緑ナンバーのタクシーは20分以上待ちの状態の車もあり、まさにみすみす客を奪われているように見えるシーンだった。
管轄の国交省も対策を打ち出しているが…
ライドシェアを解禁する国土交通省ももちろんこうした状況を看過するつもりはない。早々に以下のような対策も打ち出している。
- ・成田国際空港、東京国際空港(羽田)及び関西国際空港において、関東運輸局及 び近畿運輸局主導で、警察、都府県タクシー協会、出入国在留管理局、施設管理者 と「白タク」対策会議を実施
- ・同会議の取り組みとして、各空港で「白タク」行為の疑いがある運転者及び訪日旅行者に対して「白タク」禁止のチラシを配布し、啓発活動を実施
- ・運輸支局にて空港等で「白タク」行為の疑いがある車両 を確認した場合は、警察へ情報提供を実施
- ・警察の捜査により「白タク」行為が立件された場合には、道路運送法に基づき車両の使用禁止の処分を行う
それなりに効果は期待できそうだが、そもそも白タクは摘発が難しいという課題がある。なぜなら、ドライバーとの関係を「友達、知人」といわれ、金銭授受も否定されてしまえば、それが虚偽だと証明することは困難だからだ。
オンライン予約サイトで、白タクを予約できることも問題視されている。昨年末、その事実が発覚し、「Booking.com」は、観光庁から改善指示を受けている。そこで、その後の状況について同社日本法人に質問したが、期日までに回答はなかった。
念のため確認したところ、サイトに掲載されていた怪しげなタクシー・ハイヤー事業者風の提携パートナーは排除され、ひとまず登録事業者のみに改善されたようだ。
取り締まりを強化しようが、抜け道はいくらでもある白タク行為。加えて、ドライバー不足という根本問題もあり、需要がある。警察と白タクのいたちごっこは簡単には収まらないだろう。
ライドシェアが浸透する東南アジアとの2拠点生活を営む、40代の日本人会社員は、「わたしにとってライドシェアはアプリもよくできていて使いやすいし、便利以外ないです。なぜライドシェア導入にこれほど足踏みするのか…。タクシーが捕まえづらい日本の不便の方が先進国としてハイリスクじゃないですか」とクールに言い放った。果たして今後の限定解禁から全面解禁へのプロセスで、需給バランスをクリアする妙案は生まれるのだろうか。
【国土交通省が発表した日本版ライドシェア導入区域の概要】
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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