「完全に出遅れている」児童ポルノめぐる日本の“実態” 英国BBC“規制されない”セックスドール工場の存在も放送
年端も行かぬ幼い子どもを性の対象とする「小児性愛」の問題は、性をタブー視する日本社会のなかでも特に忌避され社会的議論につながってこなかった。
しかし近年、故ジャニー喜多川氏による男児への性加害が明らかになったほか、塾講師をはじめ教師やベビー(キッズ)シッターなど、子どもにとって身近な大人による加害行為も表面化してきた。
本連載では、小児性愛障害と診断され、子どもへの性加害を起こした者への治療に取り組む斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)が、治療やカウンセリングを通じ実感した加害者特有の「認知の歪み」について解説する。
最終回は、世界で共有されつつある児童ポルノの危険性と、日本に存在している“規制の抜け道”の実態を紹介する。(全5回)
※ この記事は、斉藤章佳氏による書籍『「小児性愛」という病――それは、愛ではない』(ブックマン社)より一部抜粋・構成しています。
画像を見るだけではあきたらず…加害者になる大人たち
「現実とファンタジーの区別はつく」――児童ポルノを愛好する人たちの常套句(じょうとうく)ではありますが、果たして本当にそうでしょうか?
日本ユニセフでは2008年に「なくそう! 子どもポルノ」キャンペーンを展開しました。そのときにアイルランドのエセル・クエール教授が寄稿した報告書の訳文を、「被害者のいない子どもポルノ?」として現在も同団体のHPで読むことができます。
〈子どもポルノをオンラインで見るということと、(実際の子どもへの)接触犯罪を犯すということとの正確な関係ははっきりしていません。(中略)しかし、こうした画像を視聴することと犯罪を犯すこととの相互関係についての調査は、いろいろと試みられています。
一例はアメリカのヘルナンデス氏による刑務所内の入所者に関する調査です。それによれば、実際に子どもポルノを受動的に視聴した人の76%が接触犯罪を犯していたというのです。
研究の方法論にも違いがあり、調査結果も様々です。例えば、視聴した者の12%が実際の犯罪を犯すというものから、40%が犯すというもの、さらにはヘルナンデス研究におけるように、80%近くが画像を見るだけではあきたらずに子どもに対して接触犯罪を犯したというように幅のある調査結果が出ているのです。〉
これは、たいへん重要な指摘です。
先に紹介した、国内の児童ポルノ所持一斉摘発の新聞記事では870人中20人に強制わいせつなどの疑いがあったということでした。それと比べると、この76%というのは驚きの数字です。研究の方法論によってずいぶん差が出るとはいえ、たとえ12%だとしてもそれは少ないといえません。
日本と世界「児童ポルノ」に対する認識
こうした調査結果を踏まえ、日本における児童ポルノの現状に対して同教授は、「インターネット上に掲載されたマンガによる日本の子どもたちの性的利用が、決して日本国内に限られるものではない」「日本で作られた子どもの虐待画像が他国の人々によってその性的欲求を満たすために使われている」と注意を喚起しています。
児童ポルノを愛好するほとんどの人が現実とファンタジーの区別がついていても、そのなかから1人でも現実に加害をする者が出てくれば、それは対策が必要だということです。小児性犯罪は特にその傾向が強いということが、世界でも明らかにされつつあります。
子ども(にしか見えない者)を性的対象としていい、性行為をしていいという認知を持つ者が少なからずいる社会は、子どもにとって安全に生きられる社会ではありません。この認識が広く浸透していくことが、子どもへの性暴力を抑止することにもつながります。
近年はメディアでもそうした動きが見られるようになりました。
「内心まで規制するのか」反論から見える“逆説”
2019年にSNSを提供するツイッター社が、「児童の性的搾取に関するポリシー」を設け、児童の性的搾取に該当するコンテンツやこれを助長する行為を一切禁止すると発表しました。
具体的にどのようなコンテンツを指しているのかというと、「性的に露骨な、または性的な暗示を含む行為をする児童の視覚的な描写」「性的に露骨な状況または性的に露骨な行為をする児童のイラスト、コンピューターなどで作成した写実的な描写」など、要は視覚的に刺激を与えるものを挙げています。
加えて「児童の性的搾取についての想像を表現したり、児童の性的搾取を助長する」「児童の性的搾取に該当するコンテンツについて、入手したいという願望を表現する」ことも禁止事項に含まれます。「空想、衝動」を表現するのも違反だということです。
違反に対する措置は、アカウントが即座に永久凍結され、さらに今後新規アカウントを作成することも禁じられるという、厳しいものです。
「空想する」「衝動を覚える」と、「その空想や衝動を表現して発信する」のあいだには、大きな隔たりがあります。利用者は「空想する」「衝動を覚える」を禁じられたわけではないのです。しかし、このポリシーに対する反応として「内心まで規制するのか」「空想するのは自由だ」といった声が多く上がったところを見ると、逆説的に、この空想、衝動が当事者にとって非常に重要なのだとわかります。
児童ポルノは非常に衝撃的なものです。それとの接触により子どもへの性的嗜好という扉が開き、のめり込むと後戻りできなくなる。認知が歪んでいくと、実際に加害行為を「する」のと「しない」とのあいだにある溝はどんどん埋まっていく……そんなイメージが世界で共有されつつあるということではないでしょうか。
規制およばない児童ポルノの抜け道
ここまで見てきた児童ポルノは、映像メディア、印刷メディアによって製造、提供され、所持されるもの、つまり視覚に訴えるものに限られています。が、そこからこぼれ落ちるものも少なくないと思います。
たとえば、セックスドール、セックスロボットといわれるもののなかに、その姿態が10歳前後~10代半ばの子どもにしか見えないものも存在しています。イギリスの放送局BBCによる『Sex Robots And Us』という番組では、司会を務める男性が日本のセックスドール工場を訪れました。そこで彼が目撃したのは、子どもの体つきをしたリアルなセックスドールです。
工場長は「このドールが何歳かは、ユーザーの想像に任せている」「これは日本国内でしか販売しない」とコメントしましたが、司会の男性は架空とはいえ子どもが性対象とされていることにいたたまれなくなったのか、工場の外に出て涙を拭います。
イギリスでは、本物の女児そっくりのセックスロボットは輸入が禁止されているといいます。対象となっているのは、主に日本や中国、香港で製造されているロボットです。オーストラリアも同様の輸入禁止例が出ています。
どれだけ幼く見えても、工場長のいうとおり日本の市場では堂々と流通できます。児ポ禁止法はこうしたセックスドールを対象にしていません。しかし、これも現実の加害行為のトリガーとなることは間違いないでしょう。ほかにも男性向けの性玩具では、幼い女の子を想起させるものが多数、販売されています。
アメリカでは2018年から、本物の女児そっくりのセックスロボットの輸入禁止が議会で審議されているそうです。こうしたロボットが子どもを性対象とする者たちの性的欲求を抑制するのに役立ち、現実の子どもを守る手段として有効だという声はアメリカでも上がっているようですが、専門家は「それを裏づける科学的な根拠はない」といい、さらに「女児のセックスロボットは小児性愛者の歪んだ性的嗜好を助長し、倫理的な感覚を麻痺(まひ)させ、より病的な嗜好へと導くリスクがある。決して放置すべきではない」と語っています。
イギリスでは、違法に輸入された女児型セックスロボットを大量に押収した結果、それまで当局が把握していなかった小児性愛障害者の特定につながったという報道もありました。
このように世界では、子どもへの性的嗜好を持つ者が児童ポルノに慣れ親しむほど、その関心をより強化する可能性が高いと明らかにされつつあります。それと比べ、日本は完全に出遅れているといえます。
いま現実の被害児童を出している児童ポルノを厳しく規制するのは、当然のことです。それと同じくらい、これから被害者を出すかもしれない非実在の子どもを描いた児童ポルノにも厳しい視線が向けられるべきではないでしょうか。
- この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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